21:満員電車のハプニング

 「ねぇ、お兄ちゃん♡ あれ撮ろうよっ♡」

 

 ユウは弾んだ声で言った。

 

 いわゆる、プリントシール機というものがあったのだ。

 

 そしてユウは、俺が答える間もなく、俺の腕をぎゅううぅぅ~~っと掴む。かなり、ノリノリのようだ。

 

 「ユウ、ゲーセン満喫してるじゃないか。ま、三話もかけてるくらいだもんな」

 「さ、さんわ? よく分からないけど……うん、すごく楽しかったよ……❤ ありがとう、お兄ちゃんっ❤」

 「よし、じゃプリシルも撮るか」

 

 二人して、入り口をくぐる。

 

 写真を撮るためのものなので、ちょっとした個室――試着室みたいになっていた。

   

 密室――ではないが、狭い空間でユウと二人きり。

 

 ユウの良い匂いが、良い感じに個室内に漂う。

 

 汗のにおい。俺は、鼻をヒクつかせてしまった。

 

 「ほら、撮ろう、お兄ちゃん♡」

 「オッケー、いいぞ!」 


 ぽちっとボタンを押す。

 

 『それじゃあ撮るよ、好きなポーズを撮ってね♪ 3、2、1、パシャ!』

 

 そんな声と共に、フラッシュが焚かれた。

 

 

 ゲーセンから出て、俺たちは帰路につく。

 

 電車の中は、サラリーマンや学生でかなり混んでいた。にもかかわらず、

 

 「うふふっ……❤ ふふっ♡」

 

 ユウは、気持ちの良い声(ユウの場合、気持ち悪い声、にはならない)で、スマホの裏側をニコニコ眺めていた。

 

 少々、人目を集めているけど、気にもしてない。

 

 スマホに、さっきプリントしたシールを貼ったようだ。

 

 ベタベタだけど、普通に兄弟でピースサインを決めてるという写真だった。

 

 「そんなに嬉しいのか?」

 「うんっ、だって楽しかったもん……❤」

 

 と、ユウは俺のほうを見上げて笑った。

 

 その笑顔もつかの間。ユウが、俺の胸にずぼっと埋もれた。

 

 駅で、一気に人が乗ってきて、押されたのだ。

 

 「わっ……! ご、ごめんねお兄ちゃん」

 「別に。あと少しだし、もうちょっと我慢な」

 

 少しの間、そのままでいる。

 

 合法的にユウと密着していられるので、ずっとそうしていたい気分だったが――

 

 「あの、お兄ちゃん……❤」

 「どうした?」

 「あのね、なんか……硬いのが、ボクのお腹に……当たってる、んだけど……❤」

 「え」

 

 急いで目を向ける。

 

 なんと、俺のデザートが、制服のズボン越しにユウのお腹に当たっていた。

 

 そんなものを当てられて、ユウの顔は真っ赤になっている。

 

 こ、これは……!

 

 下手すりゃ、痴漢だ。

 

 「わっ……ご、ごめん……!」

 

 離れたかったが、周り中に人がいるのでムリだった。

 

 「うぅん……❤ でも、お兄ちゃん、何かえっちなことでも考えてたの?」

 「ち、ちがうちがう! 考えてない!」

 

 本当は、ちょっと考えてたけど……。

 

 「ただほら、混んでるから勝手に押し付けられちゃって。その刺激で、自然に硬くなっちゃったような……」

 「あ……そ、そういうこともあるよね♡」

 「そうそう! 生理現象だよ、生理現象」

 「うん、分かった。……気にしないで♡」 

 

 なんとなくこっぱずかしく、俺もユウも口もつぐんでしまう。

 

 何しろ、その間もデザートは押し付けられたままなのだ。

 

 くっ……! 静まれ、俺のプレッツェル……!

 

 仙人の姿をイメージして、デザートを元に戻そうとする。しかし、意識すればするほど、かえって大きくなってしまうように思えた。

 

 「……」

 「ん……」

  

 ユウが、ちょっと身をよじった。

 

 するとユウのお腹が、ますます俺の腰になすりつけられてしまう。

 

 「ちょ、ちょっと……! ユウ、変に動くなよ! し、刺激されると、ますます……っ!」

 「あ、ご、ごめんっ……❤」

 

 ユウはますます真っ赤になる。むわっと熱気が伝わってきた。

 

 これは、ヤバイ……!

 

 その時、電車のアナウンスがなる。

 

 『次は、下北沢ー。下北沢ー。お出口は、左側です』

 

 やった! やっと降りる駅だ! これで、なんとか!

 

 と、思った瞬間、電車がガクンと止まった。

 

 『人身事故が発生しました。安全確認のため、当電車はしばらく運転を見合わせます』

 

 うわあああああああああああああっ!?

 

 「お兄ちゃん、止まっちゃったね……❤」

 「あ、あぁ……」


 電車は動き出さず、俺のデザートは硬くなったまま。

 

 その上、俺の太ももあたりに、妙な感覚が走った。

 

 「あ、あれ……? なんか、硬いのが……棒みたいな。ユウ、お前ポケットに何を入れて……?」

 「ご、ごめん、お兄ちゃん……❤ ボクも、その……お兄ちゃんみたいに、硬くなっちゃった、かも……❤」

 「ええぇぇっ!?」

 

 見れば、ユウは後ろの人に押され、腰を俺のほうに突き出す姿勢になってしまっていた。

 

 デザートが刺激されて、「生理現象」が起きてしまったらしい。

 

 し、仕方ない。生理現象だ、生理現象。

 

 それにしても、ユウのデザート、やたらに硬い……。圧迫感が、はんぱなかった。

 

 「……❤」

 「……」

  

 無言で、見つめあう。

 

 互いのデザートも、自己主張している――

 

 これは、やばい……。やばい、やばい。

 やばい、やばい、やばいやばいやばいやばいやばいっ!


 電車が少しだけ動き、がたんと揺れる。俺たちはますます密着し、

 

 「ううっ!!」 

 「んひゃぁっ……❤」


 俺とユウは、悶え声をあげてしまった。 

 

 ぷぁーん。

 

 と、電車が去った後も、俺たちはホームでじっとしている。

 

 椅子に腰掛けて、股間をかばんで隠している。二人とも、顔を熱くしていた。

 

 なにしろ股間にテントが張ってしまってる。まともに歩いたら、二人とも通報されかねない。


 「お、お兄ちゃん……収まった?」

 「も、もう少し……もう少し待ってくれ!」

 「うん。ボクも、まだ……❤」

  

 兄弟そろって、熱い吐息を必死に抑えなければいけなかった。うーん、この……。

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