20:ダンスゲームでイく?

 「お兄ちゃん、あれ何?」

 

 懲りずにゲーセン内を歩いていると、ユウが指を差した。

 

 「ん? ああ……あれはダンスゲーじゃないか」

 

 筐体の画面にダンスのお手本が表示され、それにあわせて踊る――という、タイプのゲームのようだった。

 

 今は、一人、若い女性がプレイしている。

 

 踊りそのものは普通ていどだと思うが、見てくれがいいからか、その周囲にはギャラリーが出来ていた。

 

 「ダンス……へぇ~っ、すごいね……♡」

 「なんだ、ユウもやってみるか?」

 「えっ、ボク!? う、うぅ~ん……ちょっと恥ずかしいかな……♡」

 

 ユウは、筐体をちらっと見つつ、後ずさった。どうやら、興味はあるようだ。

 

 正直、ユウが踊るところは見てみたい。録画もしたいし。

 

 「大丈夫、俺しか見てないから」

 「で、でもぉ……っ♡」

 

 ユウは、ちらちらと筐体を見ている。

 

 ……あと一押しだな。

 

 「あー、お兄ちゃんも、ユウが踊るとこみたいなぁ~! 」

 「え、そ、そう? うーん……じゃ、じゃぁ、やってみようかな……」

 

 俺は、ぐっとガッツポーズを決め、

 

 「よしっ、じゃあキマリッ! 行くぞ!」

 「わわわっ!」

 

 空いている筐体へと、ユウを押し込む。

 

 とたんに、ギャラリーがどよっと騒がしくなった。とつぜん、ものすごい美少年が現れたからだろう。

 視線がユウに集まる。


 「お、お兄ちゃんっ! 他の人もいっぱい見てるじゃないっ!」

 「あっ、もうお金入れちゃったわ。もったないからやれよ。はい、スタート」

 「そんなぁっ!?」

 

 ゲーム画面が動き出す。ダンスの見本が表示され、音楽が流れ出した。

 

 「ほらっ、ユウ! やれやれ! ここまで来て踊らないなんて、男らしくないぞ!」

 「うっ……。わ、分かったよぉ……っ❤」

 

 ユウは、見よう見まねで踊り出した。

 

 本人も自覚しているように、ユウは運動神経が悪い。

 

 歩きはじめたばかりの赤ちゃんみたいに、今にも転びそうで危なっかしかった。

 

 「わっ……んっ……♡ はっ、う……っ❤」


 画面のお手本を、真面目に追いかけてはいるんだけど……。

 

 どう必死にやっても、必ずワンテンポ遅れてる。腰、ひけてるし。

 

 そのうえ、もう息が上がってしまっている。

 

 はっきり言ってダメダメだけど、妙に愛らしかった。

 

 「これは……いいがとれそうだな、ククッ……!」

 

 スマホを構え、俺はニヤついた。

 

 「うっ、あっ……ふぁっ……❤」

 

 ユウの痴態につられて、ギャラリーの目も、完全にユウのほうに移行している。

 

 「はぁ、はぁっ……❤ おにいちゃんっ、ボク、うごくの、疲れてきちゃったよぉ……っ♡」

 

 うぅっ、相変わらず声のエロいやつ……。

 

 「ほ、ほらほら、もう少しだ頑張れ!」

 「って、何でっ……スマホ構えてるのお兄ちゃん!?」

 

 やがて、

 

 『フィニッシュ~♪』

 

 と、筐体が明るい声をあげ、音楽が止まった。

 

 ユウは、汗をにじませてバーに寄りかかる。

 

 「はぁ、はぁーっ……❤ お兄ちゃん、ボク……なんとか、踊ったよぉ……❤」

 

 息も絶え絶えで、顔を真っ赤に染めて――

 

 そんなユウは、妖しい魅力を振りまいていて。

 俺も、他のギャラリーも、一瞬言葉を失っていた。

 

 「……お、おう! お疲れ!」

 「ぼ、ボク、上手に出来たかなぁ……❤」

 「上手……。うん、まぁ、お前にしては上出来だったんじゃないか?」

 「もう、どういう意味? お兄ちゃんっ♡」

 

 会話しつつ、腰が砕けそうになっているユウの手を掴む。しっかり立たせてやった。

 

 俺たちのやり取りが、ドラマのワンシーンのように見えたのかもしれない。ギャラリーの人々が、一斉にユウと俺へ拍手をし始めた。

 

 「え? あ、あはははっ、どうも……❤」

 「ダンスはドヘタなのに、拍手してもらえるなんて。ユウはやっぱすごいなぁ……」

 「だからどういう意味、お兄ちゃんっ!?」


 隣の筐体の女の人、ギャラリー取られて怒ったかなぁ?

 

 ――と思ったら、なんと彼女自身もギャラリーに加わっていた。

 

 恋する瞳でユウに拍手を送っていた。どうも、一目ぼれというやつらしい。

 うーん、なんだこの結末……。

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