19:クレーンゲームでイく?

 たまには、普通に遊びたいな。

 

 と思って、俺はユウをゲーセンに誘った。

 

 うちの学校は東京の都会の中にある。そういう遊び場には事欠かない。

 

 「わーっ、いろんなゲームあるねっ♡ なんか目移りしちゃう……❤」

 

 と、ユウは艶めいた声でワクワクしている。

 

 他方、俺はソワソワしていた。

 

 「なぁ、ユウ。あの女子たちと……仲良いのか?」

 「え……?」

 

 ユウは、ぽかんと俺を見上げた。

 

 「う、うん。だいたい、みんなと仲いいよ♡」

 「そうか……」

 

 俺は暗澹とした気分になる。

 

 「ど、どうしたのお兄ちゃん? そんなに暗い顔しちゃって……?」

 「なんだか……お前が、他のやつと仲良くしてるとさ。こう……胸がムカムカするんだ」

 

 「……へ!?」

 

 俺は、ユウの両手を再び、かたく握り締めた。

 

 「俺、たぶん……嫉妬してるんだと思う」

 「え、えっ……嫉妬って。誰に……?」

 「お前の同級生にだよっ!」

 

 真珠のようなユウの瞳を、まっすぐに見つめる。まばたきするごとに、ユウの頬は赤く染まっていく。

 

 「お、お兄ちゃん、それってどういう……?!」

 「俺は……俺はっ! お前の事を――」 

 

 ゲームの音でうるさい店内に、俺の大声が上塗りするように響いた。

 

 「――お前の事を、自分だけのオモチャと思ってるんだから!」


 ……はっ!?

 

 言い終わって、俺は急に汗がにじむのを感じた。

 

 ところがユウは、

 

 「な、なんだぁ、ビックリした……! もう、お兄ちゃん、冗談上手なんだからぁ……❤」 

 「え?」

 

 俺は拍子抜けした。

 

 「ええっと……。そ、そうそう! 冗談だよ冗談っ! 面白かっただろ? あはははははははっ、はは……それで、ゲーム何やる?」

 「うーん……。ボク、よく分からないから、お兄ちゃんにリードして欲しいかなっ♡」

 

 と、ユウはいたずらっぽく微笑んだ。

 

 俺は倒れそうになったが、頑張って持ちこたえる。

 

 「そ、そうか。じゃあ、やっぱりクレーンゲームかな」

 

 クレーンゲームの所に、ユウを案内する。

 ユウは、慎重なタイプだからか、ボタンを押す前にじっくり観察していた。

 

 「見ているだけじゃ、プライズは獲れないぜ。ユウ」

 「う……うん。ボク、やるよっ」


 筐体を凝視しつつ、ユウはお金を入れた。ボタンを押す。


 ぎゅい~~ん……。

 

 すかっ。

 

 「あぁ~~っ!」

 

 ユウは、悲鳴を上げた。

 

 「はは、完全にスカったな」

 「おかしいなぁ、ちゃんと計算したはずだったのに……もう一回!」

  

 ぐい~~んっ。

 

 ぎゅっ。

 

 「やった、お兄ちゃん! ぬいぐるみ掴めたよ!」

 「おぉっ!?」

 

 クレーンがぬいぐるみを掴む。そのまま持ち上げていった。

 

 が、そんなに簡単に獲れるはずもない。

 

 アームの力は弱く、やがて、ぽとっと落ちてしまった。

 

 「あぁぁぁ~~っ?! な、なんでぇぇ!」 

 

 と、ユウは色っぽい悲鳴を上げた。

 

 ちょっとムラッとするが、そんな煩悩を振り払い、 

 

 「……まぁ、腕の力弱いしな。どうする、やめとくか?」

 「な、なんか……ここで止めたらもったいない気がするし、もうちょっとやってみるね」

 

 ぐっ! とこぶしを握り、ユウは再び筐体に向かい合う。

 

 うちの店はフォトスタジオなので、七五三の男の子がよく来る。

 今のユウはまさにそんな感じ。かわいい勇ましさだ。

 

 が、結果は悲惨。

 

 結局、ぬいぐるみを落っことしてばかりだった。ま、慣れてなければ、こんなものだろう。

 

 が、俺としては役得だった。

 

 だって、ユウが始終、セクシーボイスで鳴いてくれるのだから……。

 

 「う、うっ……あぁぁぁ~~~っ?! だ、ダメだったぁ……っ♡」

 

 「あっ、お兄ちゃんっ♡ もう少しで上手くいくっ、いきそうだよぉ……❤ あっ、ぁ……あれっ!? あぁぁ~~っ!? 」

 

 「もうちょっと、もうちょっと……腕を、奥っ、おくにぃっ、奥までぇっ……❤ くぁっ、ぁ、ぁーっ……」

 

 しかも、ゲームに熱中するうち、次第に姿勢が前のめりになる。筐体の操作ボタンのとこに手をついて、頭は前へ前へ……。

 

 気づけば、ユウは後ろにちっちゃいお尻を突き出している。

  

 いわゆる、動物の交尾みたいな……そういう姿勢だった。もちろん、本人はぜんぜん気づいてない。

  

 「ぅあぁぁぁっ、もうちょっとなのに……! だめ、ダメぇっ……❤」

  

 すると、ゲーセンの客や店員が、何事かとこっちに集まり始めた。

 店の中で、わいせつ行為をしてるみたいに聞こえたんだろう。

 

 単にクレーンゲームしているだけだと分かると、みんな、ゲームのギャラリーのふりをしてユウのえっちボイスに聞き入っていた。

 

 「ふぁぁぁっ……なんでっ、なんでそんなに腕の力弱いのぉっ!? もっと、もっと強くしてよぉ~!」

 「……」

 

 みんな顔を赤くして、あるいは股間をもじもじさせて聞き入る。

 

 世の中、頭の回るやつもいるもので、なんとスマホで録音してるのまでいた。

 

 頭いいな。俺も真似しよう。ただし録画で。

 

 ぴぽっ――と、俺のスマホが録画開始音を鳴らした。

 

 「もうちょっとでイケる……イケそうなのに……❤ おねがいっ、もう少し、もう少しぃっ……❤ ふぁ、ぁ、だめ、落としちゃダメぇっ……あ、あああぁぁぁぁ~~~~っ……!?」

 

 撮られていることに気づきもせず、ユウは一気に脱力した。荒い息で、筐体の上に崩れ落ちる。


 「お兄ちゃぁん、ボク、ダメだったよぉ……っ♡ 獲れなかった……っ❤」

 「おーよしよし。ま、初見じゃそんなもんさ」

 

 ユウの頭をなでて、慰める。

 

 スマホをながめて、ニヤッと笑いながら……。

 

 「で、なんでこんなに人がいっぱいいるの?」

 「それは気にしなくて良いぞ」

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