18:壮絶な争奪戦(2)

 「ちょっと、あんた何ベタベタしてんの? ユウ君いやがってるじゃん、やめなよ」

 

 と、ちょっと男らしい声の女子。

 

 あれは確か、「クロハちゃん」だったか。


 いかにも気が強そうだ。露骨にミドリちゃんをにらんでいる。

 

 ミドリちゃんも、負けじとにらみ返し、

 

 「イヤなわけないでしょ」

 

 と、すごい低い声で言ってから、

  

 「ねっ、ユウく~んっ♡」

 

 またユウに抱きつく。

 

 「ちょっと、どうなの? いっつもまとわりつかれて、困ってるんでしょ、ユウ君!」

 「え、えぇっと……困っ、て……」

 

 ユウは、指先どうしをつつき合わせ、口をつぐんでいる。

 

 ユウは、はっきり物を言うのが苦手なのだ。

 

 「あなたこそ、ミドリとユウ君が仲良くしてるのに、邪魔してくるじゃない。どうせ、ユウ君に声をかけられないから、やつ当たりしてるだけなんでしょお? クスクスっ……」

 「ちっ、違う! あんたこそ……人の迷惑考えなよ!」

  

 クロハちゃんが、ミドリちゃんの腕を掴んだ。

 

 「キャッ、やめてよ!」

 

 今度は、ミドリちゃんがクロハちゃんの胴を押す。

 

 そしてさらに、二人は大声でののしりあいに――なんとも醜い光景だ。 

 

 そろそろ俺の出番か――と腰を上げた瞬間、

 

 「ふ、二人ともっ……! ケンカしちゃダメだよ?」

 

 ユウはやさしい声で言う。

 

 そして、なんとケンカ中の女子二人の手首をつかんだ。

 

 ユウに触れられたせいか、女子二人の顔は一挙に真っ赤になる。

 

 「同じクラスなんだし、仲良くしようよ♡ ねっ……❤」

 

 そして――

 

 「きゅっ」「きゅっ」と。

 

 ユウは、二人の女子の手を同時に握った。そして、二人に笑顔を向ける。

 

 「はぁっ……!」

 「ゆ、ユウ君……っ!」

 

 それで、事はすべて済んだ。

 

 「ごめんねっ。ミドリ、ユウ君の予定も考えずに……迷惑だったかも」

 「私こそ……いきなり怒鳴って、悪かったよ」

 

 二人の女子は、お互いに謝る。

 

 ……が、おかしなことにお互いの顔をぜんぜん見ていない。

 

 むしろ、二人ともユウの笑顔に釘付けだった。 

 

 うーん……な、なんだこの構図。


 「あっ、お兄ちゃんだ! じゃあボク、今日お兄ちゃんと遊びに行くから、また明日ね♡ ばいばい♡」

 「「あっ……!」」

 

 どうも、ユウに見つかってしまったらしい。

 

 残念そうな女の子たちをよそに、ユウは、俺のもとに駆け寄ってきた。

 

 「お兄ちゃん、迎えに来てくれてありがとう……❤ 行こ?」

 「うっ!?」 

  

 ユウは、いきなり手を握ってきた。

 

 ちっちゃくて、細くて、柔らかい指先が絡んでくる感触。

 

 「どうしたの、行かないのお兄ちゃん?」

 「いっ、今……イきそうな所なんだ……っ!」

 「変なお兄ちゃん」

 

 くすっ、とユウは白い歯をのぞかせて笑った。

 

 一生守ってやるからな! ――と、俺は決意した。

 

 実態としては、守るどころか弄んでるんだけど……あはは☆

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