17:壮絶な争奪戦

 「はぁ~~っ。どうしたもんかな……」

 

 俺は、中学部校舎の廊下で、ため息をついた。

 

 今、ユウを迎えに来ている。


 実は、これから一緒に遊びに行くのだ。

 

 それなのに、俺の気分はあまり優れなかった。

 

 ユウを眠らせる方法――について、頭を悩ませていたのだ。

 

 チョコレートボンボンは、もう警戒されてしまったし。

 

 粉末状にしたチョコや、粕漬けを使うにしても、限度がある。

 

 それに、夜にならない内に眠らせてしまうから、ユウだっていずれおかしいと思うはずだ。

 

 ユウを「おもちゃ」にする頻度を、減らさなくてはいけないかもしれない。

 

 「うぅ、そんなのやだなぁ。……クソッ! どうすれば、ユウをオモチャにできるんだ?」

 

 などと、けっこうでかい声で言ってしまった。

 

 そしたら、廊下を行く中学生たちが変な目で俺を見てくる。

 

 まぁ、「オモチャ」なんて、中学生にはまだ早すぎる言葉だろう。

 

 ……高校生にも早いかな?

 

 「は、あははは……」

 

 と愛想笑いしていると、急に、ものすごい人の波が見えた。

 

 どうやら、生徒が教室から出るところみたいだ。

 

 その人の数で、俺はピンときた。


 「あれは、ユウだな……!」

 

 ユウは無意識のうちに魅力を振りまきまくっている。

 そのせいで、周りに他の女子(あるいは男子)をハーレムのように引き連れるのを常としているのだ。

 

 もちろん、ユウの魅力の前に、性別の壁はあんま関係ない。 

 ただ、ずうずうしくユウの傍にベタベタ張り付く――という行為が、男子には苦手なのだろう。

 

 その分、ハーレムとして周りにいるのは、女子が多いという感じだ。

 

 俺は柱の影に隠れた。そっと聞き耳を立ててみる。普段のユウを見てみるのも、面白いかもしれない。

  

 「ねぇねぇっ、ユウ君♡」

 

 とにかくユウは大量に人を連れているが、一番近くにいる女子が、さかんにユウに話しかけていた。

 

 前に名前を教えてもらったことがある。確か「ミドリ」ちゃんだったか。 

 

 足音がうるさいが、耳を澄ますとかろうじて会話が聞き取れた。

 

 「――今日も、美術部に行くの?」

 「うぅん。今日は、部活お休みなんだ♡」

 

 ……と、このたった一言どうしの会話でも分かるとおり、明らかにユウのほうが声が可愛い。

 

 耳の中に蜂蜜でもしみこむみたいに、声が甘く響く。


 みんな、ユウの声を聞いただけで若干頬を赤らめ、恍惚とした表情になっていた。


 もちろんミドリちゃんとやらも、それなりに可愛い。ユウがいなければ、スクールカースト最上位間違いなしだろう。

 

 けれどユウは、とにかく規格外だ。

 

 ユウが大粒の宝石ならば、ミドリちゃんなんて所詮、宝石の周りをふち取る飾り模様ていどだろう。

 

 「えー、そうなのー?! ミドリ嬉しい~っ!」

 

 と、きゃぴきゃぴしたポーズで笑うミドリちゃん。

 

 「じゃあユウ君、今日ミドリん家に遊びに来ない?」

 「えっ……!?」

 

 ユウはびくんと震えた。

 

 ミドリちゃんを傷つけないように、という配慮なのか、ユウは言葉を選んで、

 

 「え、えぇと……。できれば、い、行きたいんだけど。でも今日は――」

 「だよねっ、ミドリん家来たいよねぇ! じゃーぁー、ミドリのお部屋で一緒に遊んでぇ……うふふっ☆ ディナーも、一緒に食べてぇっ! それから……お泊りしても、いいよ……?」

 

 と、媚を売ったような鼻にかかる声――ユウのそれと違って、明らかに声を作っている――で、ミドリちゃんはユウにしなだれかかった。

 

 お、お泊りだと……?!

 

 中学生なのに、そんなの早すぎだろ! ユウは俺のなのに!

 

 柱の影から躍り出そうになる俺。

 

 が、その前に、そのくだらない会話を止めるやつがいた。

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