15:兄弟の結婚写真!?

 俺とユウは、学校から帰ってきた。

 

 すると、うちの店――フォトスタジオに、ちょうどお客さんが来ていた。若いカップルだ。

 

 男のほうはタキシード、女のほうはウェディングドレスを着ている。白一色の、撮影用シートの前に立っていた。

 

 父がカメラで、そのカップルの写真を取っている。

 

 「わー、新婚さんだよっ。きれいだね、お兄ちゃん!」

 「うん、そうだな」

 

 うちは写真屋なので、よく新婚カップルが来たりもする。ウェディングドレスとかもけっこう見るけど、確かにあれは何度見てもきれいだ。

 

 「結婚かぁ……。ボクも、いつかは結婚するのかなぁ」

 

 と、ユウは目をキラキラさせた。少女マンガの主人公みたいな、プリティーフェイスである。

 

 「まぁ、するだろうな」

 「で、できるかなぁ……❤」

 

 ユウは微妙に内股になり、モジモジした。その仕草が妖艶かつサマになりすぎて、俺は思わず「ごくっ……」と唾を呑み込む。

 

 「いや、お前くらい可愛ければできないわけないって。っつか、周りがほっとかないよ」


 現に、今もユウは、中学部の生徒からひっきりなしに言い寄られたり、声をかけられたり、ラブレターを渡されたり、告白されたりしているそうだ。

 

 「か、可愛いって……ボク、男だよ? 男が可愛くても、意味ないでしょ?」

 

 ユウは、ちょっと悲しそうに目を伏せた。

 

 「あるある。たとえば、こないだのバレンタインだって、お前自分の体重の二倍くらいチョコもらってただろ?」

 「うっ。そ、そうだけどぉ……❤」

 

 ユウは、頬を真っ赤に染めた。

 

 「あんな感じで、相手なんていくらでもいるよ」

 「そうかなぁ……? でも、ありがとね、お兄ちゃん……❤」

 

 と、ユウは火照った顔のまま、俺の制服のそでを「きゅっ……」と握った。

 

 な、なんだ……この破壊力は……!?


 初恋のような甘酸っぱい感覚に襲われ、俺は顔をそむけてしまった。

 

 「あれ? お兄ちゃんどうかしたの……?」

 

 ユウは、ワケが分からないという顔で言った。

 

 まったく、この天然さんめ……! 


  

 父の仕事の邪魔をしないよう、店舗には入らずそんな雑談していたんだけど、

 

 「よう、竜也たつや優斗ゆうと。お帰り」

 

 と、父のほうから、ひょいっと顔を出してきた。

 

 「あ、ただいま」

 「ただいま、お父さんっ♡」

 

 俺はごく普通に、そしてユウはいつもの媚ボイスで(といっても意識してではないだろうが)、「ただいま」を言う。

 

 父は、このフォトスタジオを経営者だ。 

 

 「さっきの新婚さん、帰ったん?」

 「あぁ、今ちょうど終わってな。いい写真を撮ってあげれたよ」

 「へー」

 

 見れば、先の撮影用背景シートが垂れ下がったままだ。

 

 その手前には椅子、そしてカラフルなブーケが置いてある。確か、あれはうちの備品だ。

 

 「お父さん、あの人たちすごくかっこよかったし、綺麗だったね♡ ボク、憧れちゃうなぁ……っ❤」

 

 と、瞳を潤ませるユウ。

 

 「「うっ……!」」

 

 異様なキラキラオーラが、ユウの瞳から放たれている。

 

 俺も、それから父さえも、目をそむけてしまった。

 

 「あれ? お父さん、お兄ちゃん、どうしたの?」

 「……いや、別になんでもないぞ。なぁ竜也!」

 「あぁ……なんでもねぇ」

 

 俺も父も、毎日いっしょにいるのにユウの魅力には慣れていなかったのだ。

 

 ……慣れるのなんてムリだろ。これ。

 

 「……それよりも。そんなに憧れてるなら、優斗。あのブーケ使って、写真撮ってみるか?」

 「え? いっ……いいのっ?!」

 

 ユウはずいっと前のめりになった。

 

 「あぁ。次の客が来るまでに、時間あるからな」

 「やったぁ! 嬉しいよぅ、お父さん……❤」

 「うっ……?!」


 父は、また頬をそむける。若干、顔を赤らめていた。

 

 それもこれも、ぜんぶユウの美貌が悪いのだ。

 

 「ふぅん……。良かったじゃないか、ユウ」

 「何言ってるんだ竜也。お前も撮られるんだぞ」

 「……は?」

 

 ワケが分からない。

 

 父は、ニヤリと笑った。

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