13:禁断の3P?

 「……でさぁ。ユウが、腋毛が恥ずかしいって、俺に相談してきたんだよ」


 ある日の夜、俺は部屋で携帯を耳にあてていた。

 

 『えぇ~っ、ユウ君って、そんなところにお毛毛生えてるんだ? カワイイ~っ!』

 

 明日香と、電話で盛り上がっていたのだ。

 

 と言っても、話題は自分たちのことでなく、ユウのことばかり。


 一応つきあってるんだし、普通は、お互いのことで盛り上がりそうなものだけど……。

  

 まぁ、ユウの美貌は普通じゃないからな。


 それどころか異常な領域だ。なにせ、家族でも同性でも、構わず魅了してしまう。

  

 「それで、どうしたと思う?」

 『も、もしかして……剃ってあげた、とか……っ?!』

 

 電話の向こうで、明日香が興奮気味に言った。

 

 鼻息だかなんだかがマイクに当たって、「ぼふっ!」という耳に痛いノイズ音がする。

 

 興奮しすぎだろ。

 

 「よく分かったな。当たり」

 『えぇ~~っ、何それナニソレェっ! 超うらやましいっ! あぁ~、もういいなぁ!』

 

 今度は、「どんっ!」という、地団太を踏むような音がした。


 明日香は、このマンションの上の階に住んでいる。心なしか、その音がマンションの壁を通じて、天井からも伝わってきたような気がした。あのさぁ……。

 

 「あいつ感じやすいのか知らないけど。ちょっと腋の下に触っただけで、めちゃくちゃ変な声出してたよ」

 『あぁぁぁぁぁ~~っ! うらやましい、うらやましいっ! 私も見たかった! ねぇタッちゃん、私にもユウ君が乱れるところ見せてよっ』

 

 乱れるって……おいおい。

 

 はぁっ、と俺はため息をつき、

 

 「ん~っ……悪いけど、大事な弟の恥部を他人に見せるわけにはいかない! あいつは俺だけのオモチャだ」

 『ちょっとタッちゃんっ。大事なのかオモチャなのかどっちよ!?』

 「え? あー……」


 こほん、と咳払いする。

 

 「オモチャだ」

 『オモチャ要素が勝っちゃった!? ……で、でもさ、でもさ。私、チョコレートボンボンあげたじゃない? あれがなかったら、タッちゃんがユウくんを手篭めにすることもなかったわけでしょ?! だったらお礼くらいしてくれてもいいんじゃない?』

 「て、手篭めって……」

 

 まぁ、今まで、眠った弟に抱きついたり、キスしたり、乳揉んだり、匂い嗅いだり、腋の下剃ったりはしちゃっているけど。

 

 あれ? ……俺って、ガチ犯罪者じゃね。

 

 急に体が、震えてきたぞ。

 

 弟を、オモチャにできた感動で……。


 『それに、こないだ言ったでしょ? 何でもお礼してくれるって! だったら、私も一枚噛ませてよっ』

 「おい。そんな、麻薬取引に参入する新興マフィアみたいな物言いはやめろ」

 『え? 何言ってんの? なんでもいいからさっ、ねっ? おーねーがいっ!』

 

 明日香が急に怒鳴る。俺はびっくりして、携帯を耳から離してしまった。


 「そうは言っても……」

 『ううっ、お願いだよぉ……。ユウ君のことを想って、私が何度、涙で下着を濡らしてきたか……!』

 「『下着』じゃなくて『枕』って言いたかったんだよな!? そうだよな!?」

 

 こいつは、本当に俺の恋人なんだろうか……?

 

 まぁ、恋人だからこそ、下ネタ(?)を言える、ということもあるのかもだけど。

 

 「……はぁっ。わ、分かったよ、仕方ないな。ただし! お前にも手伝ってもらうぞ」

 『やったー、嬉しい! でも、何を手伝うの?』

 「ふふふっ……」

 

 俺は意味深に笑った。

 

 

 少し経った、ある日の昼休み。

 

 俺たちはいちおう付き合っている。その上に、明日香とはクラスが一緒だ。昼飯は、一緒に食べることが多い。

 

 ただ、今日のようにわざわざ中庭にまででかけることは、あまりなかった。

 

 それもこれも、計画のためだ。

 

 「ちょっとタッちゃん、ユウくんをちゃんと呼んだんでしょうね」

 「呼んだ呼んだ。明日香こそ、準備は大丈夫だろうな」 

 

 明日香はニヤリと笑い、弁当箱を掲げた。

 

 「オッケーオッケー。デス・○ターに乗った気分でいて!」

 「……頼りになるんだか、沈みそうなんだか、よく分かんないな」

 

 どうやら明日香は、ス○ー・ウォーズのファンらしい。

 

 「あ、ユウ君こっちに来たよ」

 

 と、明日香。

 

 だが、中庭を見回しても、どこにもユウは見えない。

 

 「え? どこにもいないけど……」

 「そうじゃなくって、こっちこっち」

 

 明日香が、自分のスマホを指した。

 

 画面のスマホアプリを覗き込むと、「GPSで、カレシがどこにいるか探っちゃおう!」という物騒な文章が表示されていた。

 

 どうやら、画面に表示されている赤い光点が、ユウのスマホのある位置――と、いうことらしい。その手の、位置把握用のアプリらしかった。

 

 ……いつの間にか、俺の弟がカノジョにストーカーされている。

 

 「……お前さ、いつの間にユウのスマホに位置情報把握アプリとか仕込んだんだよ?」

 「え? えーと、いつだったかなぁ」

 

 明日香はとぼけた声で言った。

 

 「っていうか、絶対ユウの許可とってないだろお前!」

 「あ、ほらほら、ユウ君来た! あそこあそこ!」

 

 ユウが来たので、話を中断せざるをえなくなってしまった。けっこう重要な話なんだけどなぁ……。

 

 「あ、お兄ちゃん、それに明日香さん……! お待たせしました」

 「よっ」

 「わーい♡ ユウくんこんにちはっ! さ、座って座って!」

 

 明日香が、ユウの手を引っ張って座らせる。そして、昼食が始まった。

 

 「たまにはいいでしょ? こうやって三人で食べるのも」

 「はいっ♪ ボクが、二人の邪魔じゃなかったらですけど」

 

 ユウは、愛想よくほほ笑んだ。

 

 もとの顔の造作が可愛い上に、ユウは、目上の人間向けの営業スマイルまで浮かべていた。もはや、その可愛さは奇跡的だ。

 

 「もう、邪魔だなんて! 中学生が遠慮なんてしないでよ。さっ、あ~~~んっ♪」

 「んっ、んんぐっ?!」

 

 明日香が、おかずをユウの口に突っ込んだ。

 

 それを咀嚼し、呑み込んだ瞬間――

 

 「ふぁ、ぁ……っ……すぅぅーっ……」

 

 ユウの意識は消失した。

 

 背もたれによりかかり、頭を俺の肩にこてんと乗せてしまっている。

 

 「わ!? ……タラの粕漬け持ってきたんだけど、ほんとに一口で効いちゃったね」

 

 粕、というのは、酒かすのことだ。微量ながら、アルコール分が含まれている。

 

 「あぁ。やっぱり、ユウはアルコール弱いみたいだな」

 

 うんうんと、俺と明日香は顔を見合わせてうなずいた。

 

 「さて! それじゃあ――」

 「やるか!」

 

 と、息ピッタリな声をあげ、俺と明日香はユウの体に触れる。

 

 ぷち、ぷちっ……と、ワイシャツのボタンを外していった。

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