12:おやすみジュース

 「お兄ちゃん。ボク、もうそのチョコ食べたくないな……」

 

 唐突に、ユウがそう口にした。

 

 「……え?」

 

 俺は、とつぜん地獄へ突き落とされたような心地がした。

 

 学校から帰ってきた、ある夕方のことだ。


 ちょ、チョット待て。

  

 ……おやつの時間なんだから、おやつを食べるのは当たり前だろ! いい加減にしろ!


 ユウはチョコを食べ、俺はユウを食べる(意味深)。そのはずだったのに、なんで……!


 俺は平静をとりつくろいつつ、

 

 「で、でも、これ美味いじゃん?」

 「美味しいけど……ボク、これ食べたらすぐ寝ちゃう気がするし」

 「チッ、気づいたか……」

 

 と、俺は舌打ちし、小声で言った。

 

 「え、お兄ちゃんなんか言った……?」

 「あーいやいやいや、なんでもないよ? で?」

 「あ、うん。最近よく寝ちゃってるから、宿題やる時間がなくなっちゃうし」

 「しゅっ、宿題なんかやらなくていい!」

 「ええええ!? こ、困るよそれっ!」

 

 ユウは泣きそうな顔で、しなを作った。

 

 細っこい指を、きゅってしてるのが弱弱しい。


 腰が微妙に曲がって、くびれていて、やらしいし。


 ピンク色のくちびるが微妙に開いているのも、エッチだ……。

 

 もう、ユウの存在そのものが、いかがわしかった。

  

 こんな感想を持たれてユウもいい迷惑だろう。

 けど、それ以外表現しようがないんだからしょうがない。

 

 「う、うぅっ……!」

 

 俺は、ちょっと前かがみになってしまった……。

 

 「え、どうしたのお兄ちゃん!? お腹痛いの!?」

 「あ、あいたたた、で、デザートに毛が、毛がからまっ……いや、なんでもない」

 

 ごまかすように、俺はかばんを股間の前において隠した。

 

 「――それで、夜中の寝つきがよくなくなっちゃうし……最近、なかなか寝られないんだ」

 「あぁ、それは俺もだな……」

 「あ、やっぱり……お兄ちゃんもそうでしょ?」

 

 俺の場合は、弟の可愛い仕草やエロい声なんかが次々と浮かんできて、毎晩、謎の超微小地震を発生させる作業が忙しく、寝られないだけなんだが……。

 

 「だから、もうそれは食べるの止めるね。せっかく貰ってきてくれたのに、ゴメンなさい」

 「そうか……」

 

 俺はため息をついた。

 

 ……ヤバイ。どうしよ。

 

 「……ま、気にするなよ。ムリに食う必要ないし。俺、ちょっと部活疲れたし、寝るわ」

 「あ、うん。お休み、お兄ちゃん♡」

 

 ――これから、どうやって弟をオモチャにすればいいんだ!?

 

 俺は、ちょっと悩んでしまったが……。


 すぐに、ある名案を思いついた。

 

 宿題を始めたユウにむかって、

 

 「ん、宿題やってんの?」

 「うん」

 

 真剣な表情で、机に向かっていたユウ。が、俺が声をかけると、コロッと満面の笑みに変わった。

 

 俺は何食わぬ顔で、

 

 「大変だろ、英語なんて頭使うしな。ジュースでも飲むか?」

 「あ、うん。そうするっ♡ ありがとぉ♡」

 

 ユウは、顔を傾けてニコッと笑った。

 

 騙されているとも知らずに……

 

 俺は、台所へ行く。

  

 ジュースをコップに注ぎ、そして。

 

 そっと、ポケットから包み紙を取り出した。 


 「ふふっ……そうだ、こうすれば……!」

 

 チョコレートボンボンだ。

 

 けど、そのまま食べさせるんじゃない。急いでゴリゴリとすりつぶし、粉末状にした。


 「ふふ、ふへへへっ……!」

 

 悪者みたいな(あるいは本物の悪者の)声で笑いながら、包み紙を傾ける。

 

 サーッ! という音を立てて、その粉末はジュースに混ざった。俺はほくそ笑む。

  

 「これで、完璧だ……!」

 

 何食わぬ顔で居間へ戻り、

 

 「お待たせ。オレンジジュースしかなかったけど、いいかな?」

 「うんっ、いいよっ♡ ありがとう、お兄ちゃん♡ んく、ごく、ごく、ごく……」


 ユウの白い喉が上下したかと思うと……

 

 「んぁ……っ。あ、あれ……?」

 

 途端に、ユウのまぶたが重くなる。

 

 「んっ……っ……ふぁぁ……っ」


 睡魔に抗う様は、小動物みたいで可愛かったが。

 

 抵抗もむなしく、ユウはまもなく机に突っ伏してしまった。

 

 「ふふっ、意外と早く堕ちたな。……さぁ、弟解体ショーのはじまりだ!」

 

 寝息を立てるユウを、部屋まで運んでしまい――

 

 「んンっ、ふぅ……っ❤」 

 「ん? この辺がくすぐったいのか? ほらほらーっ、もっと可愛い声で鳴いてみろよっ!」

 「あっ……はぁ~~っ……❤ あンっ、あっ、あっァぁぁ……❤」

  

 けっきょくその日も、さんざん弟をいじくり倒し。

 

 弟は一晩中、気持ちよさそうな寝息を立て続けたのだった。

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