04:❤昏睡キス❤

 「……やったぜ」

 

 こないだ注文しておいたチョコレートボンボンは、既に届いている。


 さっきユウに与えたら、喜んでた。可愛らしい口をもぐもぐさせ――

 

 「すぅ、すぅ……っ」

 

 コロッと、眠りについてしまう。

 

 「うーん。チョロすぎるな、こいつ……。これから先、襲われないかが心配だ」

 

 俺は、ユウの体を布団の上に横たえた。

 

 (べ、別に俺は襲うわけじゃないし……。ちょっと……遊ぶだけだし! ほんとだし!)

 

 自分に下手な言い訳をする俺。

 

 「ん……すぅっ……」

 

 一方、ユウは何も知らずに寝息を立てている。くちびるの端から、よだれが少し垂れていた。 

 

 なんか、赤ちゃんみたいだ。

 

 つつっ、とその唾液を指先ですくってみる。

 

 「はんっ、ん……?」

 

 と、くすぐったそうな寝息を立てた。

 

 表情は「にこぉ~っ……」という笑みに変わる。

 

 寝ているユウの上に四つんばいになり、顔を近づけてみた。天使のような寝顔が、目の前に!

 

 「うわぁ……っ」

 

 たまらなくなり、指先についたユウの唾液をペロッと舐めた。

 

 さすがに味は良く分からない――と思いきや、チョコを食べたばかりだからか妙に甘ったるい。

 

 「うぅっ……!」

 

 やばい……。

 

 いま思いっきりチューしたら、どうなるだろう?

 

 心臓の動悸が激しくなる。

 

 しかし、さすがの俺も、弟相手にガチキスする勇気はない。


 とりあえず、他のことでお茶を濁しておこう。  

 

 「ユウ……!」

 「んん……ん……っ」

 

 体を落とし、俺はユウに抱きついた。

 

 ユウの身長はたしか155ほどで、俺よりも20センチほど小さい。

 

 体つきもほっそりしているし、全身すっぽりつつみこんでしまえそうだった。

 

 なんだか抱きしめているだけで昇天しそうだったが、まだまだ。

 

 ユウの髪を撫でる。

 

 「あ……んん……っ❤」

 

 ユウは、かぱっと口を開けた。

 

 (本当に寝てるんだよな? まぁ、ユウが寝たふりなんて、器用な真似は出来ないとは思うけど……)

 

 「すぅ~っ……くんっ……。ふぁわ……ンっ……❤」 

 「……っ!」

 

 あまりにエロ可愛いので、無言で撫でまくってしまった……。


 ユウの髪型は、首辺りまであるセミショート。その時点でけっこう中性的な髪型なわけだが、でもそれだけじゃない。

 

 髪質が、ネコの毛のようにふわっふわのクニャクニャだ。手ですくうと、水のようにするする滑り落ちていく。

 

 「な、なんだこれ……ほんとに髪の毛か?」

 

 と、アホな疑問が湧いてきてしまうほど。

 

 「ん、んンっ❤」

 

 頬を押し付けてグリグリしてみる。

 

 ユウは目をぎゅっとつぶって気持ちよさそうな顔をした。


 「すぅ~~っ……ん、くーっ……」

 「はぁ、はぁ……っ!」

 

 ユウの深い寝息に、俺の浅い吐息が重なった。

 

 「……あぁ、ユウのほっぺたぷにぷにだなぁっ!」

 

 と、思わずデカい声で言ってしまった!

 

 「んっ……くぅ、くぅ……」

 

 大丈夫、起きてない起きてない……。

 

 ふと、ユウの白い首筋とほっぺたを見る。思わず、ごくりと喉がなった。

 

 「ね、寝てる間にキスかぁ……ちょっと悪い気もするけど……っ」

 

 キスと言えば……そうだ、あんな話もあったな。

 

 俺は、とあるユウの逸話を思い出していた。


 

 ユウが小学生の時、例の修学旅行に行ったそうだが。

 

 寝る前の自由時間に、ユウはある女子に手を引っ張られ、女子の部屋へ連れてかれてしまったらしい。

 

 ユウが突然いなくなったということでちょっとした騒ぎになり……

 

 見つかった時には、ユウは服をひん剥かれて、ついでにその部屋の女子たちも服を脱いで、今にも襲われそうになっていたそうな。

 

 ――聞くからに酷い話だ。ぶっちゃけ、ユウがそこで童貞喪失しなかっただけでも奇跡だろう。

 

 けど、ファーストキス、いやファーストほっぺくらいは、その時に奪われてしまったのかもしれない。

 

 と思うと、妙に腹が立った。

 

 「見ず知らずのアホどもに、ユウが奪われるくらいなら……いっそ俺が!」

 

 俺は、ユウの首筋にくちびるを押し当てた。

  

 くすぐったいらしく、ユウの体がぶるっと震える。

 

 「ふぁっ、ァ……❤」

 「まだまだ……!」

 

 ユウのちっちゃくて温かい体を抱きしめつつ、今度は頬にキスする。

 

 「ふぅっ、んん……ンぁ、ァ❤」

 

 「んにゅ……ンくぅ、っん……❤」


 などと人の劣情を刺激しまくる寝息を立てるユウ。

 

 がたっ!

 

 ふと、部屋の前を、親が通り過ぎた。

 

 「うぉっ!?」

 

 ビビって、飛びのいた。

 

 親は、幸いそのまま通り過ぎて行ってしまった。

 

 「ほっ……。……ん?」

 

 今まで気づかなかったけど。離れて冷静に見てみると、ユウの頬は、俺の唾液でべっとべとだ。心なしか顔色も悪く、うなされているように見える。

  

 俺は、我に返った。


 こ、これは酷い。

 

 まるで、襲われた後みたいじゃないか。

 

 いったい、誰がこんな酷いことを!?

 

 「は、はははは……。も、もうちょい加減したほうがよかったかなぁ……?」

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