03:弟のデザート

 脱衣所での「大量殺戮」は、風呂場でも繰り返された。

 

 はだかのユウが風呂場に入った途端、みんな鼻から赤い噴水を放出して倒れるか、前かがみになって逃げ出してしまったのである。

 

 その場に粘って鑑賞しようなんて、気骨のあるやつはなし。

 

 結果――風呂場は、俺たち兄弟で貸しきり状態になってしまった。

 

 「お、お兄ちゃん、なんか広いね……」

 「か、快適だよな」

 

 なんだか……営業妨害で訴えられないか、心配になってきたぞ。

 

 俺とユウは、隣同士の椅子に腰掛け、体を洗い始めた。

 

 並んで座ると、ユウと俺の体格差が良く分かる。とにかく、ユウは華奢だ。

 

 「お前、ほんとちっちゃいな……」

 「え!? そ、そうかなぁ……❤」

 

 ユウは、困ったような顔をした。

 

 「で、でも、お兄ちゃんだって、大きくてかっこいいよ❤」

 「おぉ、サンキュ。ん……?」


 俺は、言葉を止めた。

 

 石鹸が、俺の手から滑り落ちる。

 

 「え? お兄ちゃん、どうかしたの?」

 

 キョトン、とユウは首をかしげる。

 

 俺の目は、ユウの股間に注がれていた。

 

 そこには、「デザート」と呼ばれる男性特有の器官がくっついている。それが……

 

 でかい!

 

 いつの間に、こんなに大きくなったんだ。

 

 「なぁ、ユウ……お前、それどんくらいでかいの?」

 「えっ……?」


 デザートのことを言われていると気づいて、ユウは真っ赤になる。


 「前からそんなにでかかったっけ?」

 「え、えと……小学校の時から、このくらい……だけど……❤」

 

 と、消え入るように言う。

 

 「ってか、俺よりでかいじゃん……」

 

 なんだか、男として負けた気分である。

 

 「今、大きさどんくらい?」

 「ええっ!? そ、そんなの……恥ずかしいもん……❤」

 

 ユウは股間を抑えて、もじもじし始めた。

 

 「いいじゃん、教えろよ。減るもんじゃないし。あ、俺は、妖精さん14人分だぞ」

 

 ちなみに、妖精さん一人の身長は、約1センチだと言われている。

 

 「ほらっ。兄貴にだけ言わせる気か?」

 「う、うぅ……ええっと、ボクはね……妖精さん、じゅう……っ」

 「じゅう?」

 

 「んんっ……」と、股間をこすり合わせて渋っるユウ。女性で言ったら、バストサイズを聞かれているようなものだし、まぁ恥ずかしいだろう。

 

 しかしついに、

 

 「じゅう……きゅう、だよ……❤」

 

 と、こっそり告げた。

 

 「じゅ、19人分……だと……!?」

 「う、うん……❤」

 

 で、デカすぎる……。

 

 素の体格が小さいのに、ちょっとデザート大きすぎないか? もう、外人並みだ。

 

 「もぉっ……恥ずかしい❤ お兄ちゃん、湯船いこっ?」

 

 俺たちは、体を洗い終わって立ち上がる。

 

 確かに、歩いている最中も、ユウのデザートは大きく揺れていた。

 

 喜ぶべきか、悲しむべきか……。

 

 「ふぅーっ……。いいお湯だね、お兄ちゃん❤」

 

 ユウは、う~んと伸びをした。

 

 「あ、あぁ……他の人もいないしな」

 

 と言いつつ、俺はどうしても、お湯越しにゆらゆら揺れるユウのデザートに、目を釘付けにしていた。

 

 「なんだか、広いし泳ぎたくなっちゃうね❤」

 「そ、そうだな……」

 

 俺は、むしろ目を泳がせた。

 

 「ちょっと、バタ足しちゃおうかな? ふふふっ❤」

 

 ユウは背をもたれさせ、小さな脚を伸ばしてバタバタさせた。

 

 ところが――

 

 ふにっ。 

 

 と、柔らかいものが凹む感触が。

 

 「あっ……❤」

 

 ユウは、あわてて脚を引っ込めた。

 

 どうやら、ユウのつま先が、俺のデザートに当たってしまったようだ。

 

 特に痛くはない。

 

 けれど、当たってしまったことははっきり分かる。スルーするのは無理だ。

 

 「あ、ご、ごめんねお兄ちゃん……❤ 足が……大事なとこに当たっちゃった……❤」

 

 と、脚を慌ててひっこめ、お湯の中で「体育座り」をするユウ。

 

 その仕草が異様に可愛く、俺は言葉を忘れてしまう。

  

 「あれ? お、お兄ちゃん、怒った……?」

 「はっ……! いや、怒ってないよ別に。それより」

 

 「お前も触ったんだから、俺も触らせろ!」――とか要求してもいいんだけど。それはちょっと鬼畜過ぎるかな……?


 「……それより、ちょっと聞いていいか? お前……デザートを、他人に触られたことなんてないよな?」

 「えっ……!?」

 

 ユウはびっくりして目を丸くした。

 

 「ど、どうしたの、お兄ちゃん? いきなり、そんな事……❤」

 「いや、なんとなく思いついて」

 「そ、そう……なんだ❤」

  

 なんだか俺、カノジョの処女性を確認する気難しいカレシみたいだ。

 

 ……俺、こんなことカノジョにも聞いたことないけど。

 

 「まぁ、中二だし、触られたことなんてあるわけないよな! ごめんごめん、ははは――」

 「あ、あるよ……❤」

 「えっ……!?」

 

 俺は絶句した。

 

 ユウの肩をわしづかみにする。

 

 前後に、ガクガクゆさぶった。

 

 「さ、触られたことあるのか!? いつ!? どこで!? 誰に!? どんな風に!?」

 「あわわわわわっ……!?」


 ユウは目を回した。

 

 「まさか……同級生のクソ女にでも襲われたんじゃないだろうなっ!?」

 「ち、ちちちちち違うよぉっ……! しょ、小学校の、水泳の授業でね……っ!」

 「しょ、小学校だぁ!?」

 

 俺は、口からツバを飛ばしてしまった。


 「なんだお前、可愛いからって小学校の時からヤリまくりだったのか!? そうなのか!?」

 「ち、違う違うぅぅっ! あの、た、体育の、先生に……っ!」

 「せ、せんせぇ!? えーなにっ、なになに、どどどういう理由で!?」

 

 湯船のへりにユウを押し付けつつ、俺は必死で問いただす。

 

 「う~ん……授業中、触られちゃったんだけど。きっと、冗談のつもりだったんじゃないかなぁ? イヤだったけど……2、3回くらいだったし、あんまり覚えてないんだ。……ゴメンね?」

 「な、なるほど」

 

 俺は、うーんとうなった。

 

 シチュエーションがよく分からないけど、冗談で生徒の大事なところを触ったりするかなぁ?

 

 「ってか、それぜったい冗談と思うぞ。その教師が変態だっただけじゃね!?」 

 「そう……なのかなぁ?」


 と、ユウは苦笑いした。


 さほど、気にしてはいないみたいだけど……。良い思い出でもないようだ。

 

 「じゃあさ、ユウ」

 「何? お兄ちゃん」

 「俺が上書きしてやろっか?」

 「……え!?」

 

 ユウは、びくっと震えた。

 

 「ほら、最後に触られたのがそんな変態野朗じゃ、気持ち悪いだろ?」

 「そ、そう……かもね」

 「お兄ちゃんに触られたほうが、まだマシだよなっ!?」

 「……うぅん」

 

 ユウは首を振った。

 

 「マシだなんて……。お兄ちゃんのほうが、ずっと良いよ❤ ちょっと、恥ずかしいけど……❤」

 「そ、そうか! じゃあ……まぁ、一瞬触るだけな」

 

 手先を振るわせつつ、俺は湯船の中に腕を伸ばした。

 

 そして、

 

 ふにっ。

 

 と、指先がユウのデザートに触れる。

 

 「あ……❤」

 

 や、やわらけー……。

 

 一瞬だったけど、触れたのは、たぶんマシュマロのところだろう。

 

 うわ、なんかチョー感動する……!

 

 「……」

 「……」

 

 俺もユウも、言葉が出てこない。 

  

 数秒ほど、顔を見合わせて沈黙してしまう。

 

 俺の顔は、かなり熱い。ユウも真っ赤だ。

 

 「あ、あはは……❤」

 「ははは……っ!」

 

 と、二人でごまかし笑いをした。


 その瞬間、俺は湯船に口をつける。

 

 「あ、あれ!? お、お兄ちゃんっ!? どしたのっ、ねぇ!」

 「ぶくぶくぶく……」

 

 色々な意味で、俺はのぼせ上がってしまったようだった。


 「うっ、うわわっ!? お兄ちゃんが、湯船の中で鼻血噴いてる! 誰か、だれかぁっ!」

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