02:真紅の脱衣所

 ある日、家の風呂場が壊れた。

 

 その日はガマンしたけど……。

 

 翌日は仕方なく、俺たち兄弟は銭湯に行くことにする。


 「ボク、銭湯なんて行ったことないなぁ。楽しみだね、お兄ちゃん❤」

 「あ、あぁ……スゲー楽しみだよ。いろんな意味で……!」

 「?」 

 

 銭湯の建物に入り、脱衣所の扉をくぐる。

 

 「わぁ……人いっぱいいるね、お兄ちゃん❤」

 

 ユウがそう言った瞬間、脱衣所にいた男性たちが、一斉にこちらを見た。

 

 ユウの声にひきつけられたんだろう。 

 何しろ、それだけ色っぽい、人の耳をくすぐるような声だ。

 

 その上、ユウの美貌は妖精なみ。

 

 みんな、着替えるのを忘れて、目が釘付けだ。

 

 俺たちは、服を脱ぎ始めたが、

 

 「お、お兄ちゃん……なんか、ボクみんなに見られてない? 恥ずかしいよ……!」

 「お前が可愛いから、みんなどうしても見ちゃうんだよ」

 

 と、ユウは顔を真っ赤にした。

 

 「えええっ!? そ、そんなこと……」

 「ほら、さっさと入ろうぜ。別に恥ずかしくないだろ? 男同士なんだから」

 

 俺は、ユウの服にむりやり手をかけた。

 

 「きゃーっ❤」

 

 これから風呂に入るのだから、遠慮はいらない。

 

 シャツもトランクスも剥ぎ取り、ユウをすっぽんぽんに剥いてしまった。

 

 「よし、これでおっ……ケー……!?」

 

 俺は、口をつぐんでしまう。

 

 素っ裸になったユウは、久しぶりにみた。

 

 それは、筆舌に尽くしがたい、想像を超えた美しさだった。

 

 肌はスベスベで滑らか、その上真っ白。

 

 キュッと締まった腰に、まるみを帯びたお尻。

 

 恥じらいで半泣きの、濡れた瞳――

 

 もう、卒倒ものだ。

 

 「う、ぅ……ぁ……!」

 

 一気に頭に血が上ってしまい、体がふらふらした。

  

 「ど、どうしたのお兄ちゃん!? だ、大丈夫?」

 「な、なんとかな……」

 

 そうだ。こうなるって、俺は分かってたじゃないか!

 

 ユウから、以前こんな話を聞いた。

 

 ユウの、修学旅行のときの話だ。

 

 とうぜん、その時も今みたいに、男子みんなで風呂に入ったそうな。

 

 が、ユウが風呂場に入った瞬間、楽しいはずの旅行に悲劇が起きた。

 

 やたらになまめかしい曲線を描いたユウの肢体を見て、男子の半数が、鼻血を吹いて倒れたという。

 

 そして、もう半分の男子は――

 

 なぜか、「前かがみの姿勢」になってしまい、湯船から上がることができなくなったそうだ。


 小学生に、ユウの裸体なんていう「究極の美貌」は、まだ早すぎたんだろう。

  

 けっきょく、彼らものぼせて体調を崩してしまった。

 結果としてユウは、男子全員を悶絶させてしまったんだ。

 

 ユウは先生から、「歩くわいせつ物」認定されて、風呂から強制的にあがらされる。

 

 そして、みんなが入り終わった後、独りで風呂に入る羽目になったのだという。


 ――そんな武ユウ伝を思い出し、

 

 「まずい……!」

 

 と、言ったときには遅かった。

 

 すでに、脱衣所の男性たち――老若関係なく、みんな鼻血を噴いたり、あるいは前かがみになって、そそくさと脱衣所を出て行ったのだ。

 

 無事だったのは、なんどか裸を見て慣れていた俺だけだ。

 

 なんという大量破壊兵器……!

 

 「きゃあっ!? み、みんないきなり倒れちゃった……ど、どうしたのかな、お兄ちゃん!?」

 「お、お前がエロいのが悪いんだっつーの!」

 「ええぇぇっ!? そうなの!?」


 もはや、脱衣所は血の池地獄だ。 

 

 俺は、管理人のおばちゃんに大声で呼びかけなくてはいけなかった。

  

 「あのっ、すいませーんっ! 脱衣所で人が、人が倒れてます! いっぱい! 血まみれで! 今すぐきてくださいっ!」

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