第7話:北欧神群
「……やっぱり昨日のショックは大きかったですか?」
弥音の心配するような声でふと我に返り、階段に踏み外すところをギリギリ回避できた。噴水下の螺旋階段を下っている間に上の空になっていたようだ。だが、未だに浮かない顔をしている。
「……うん。なんだか不安になってきたよ」
「過去を探るのはだめなら未来ならどうでしょう。未来を視る力を持つ知り合いが居るのです」
「へぇ~。未来視かぁ。未来が分かれば親神も分かるって寸法なのね」
「そういうことです。さて、次は北欧神群聖地ヴァルハラ。今回この門をくぐるのは私たちだけじゃないそうです」
唯吹が咄嗟に「えっ」という声を上げつつ階段を下りきり、ヤマト神群の扉とは真逆の方角に曲がって歩いて行く。まさに戦場のような風景が描かれている北欧神群聖地であろう門の前に紅白の巫女装束を身にまとった白髮の女性が待っていた。その女性のことは唯吹も知っていた。
「あ、フォンさん! どうしてここに?」
「お待ちしておりました。弥音様、唯吹さん。北欧神群の執行人の一人でありフレイ様の子、松橋 フォンヒルドがヴァルハラをご案内致します」
「わぁ、すごい人だったのね!」
自分の周りの人がまさかの想像以上の人ばかりで目を輝かせている唯吹を見て、フォンは照れ隠しをしながら、大きな門を開けた。そこに広がるのは……建物の中だ。空間が広々としており、ところどころに複数の男性が立ち話をしている。
「……ここは?」
「オーディン様の館です。ここはエインヘリヤルやヴァルキュリア達が様々な戦いに備えて訓練を励む場所ですね。おっと、誰か来ました」
「やっほー! 弥音、フォンヒルドさん!」
と別の部屋から出て唯吹たちに近づいてきたのは、赤と黒の大きなコートに黒のタートルネックとズボンを身に着けた茶髪ポニーテールの少女。その少女に対して弥音とフォンヒルドはいつもどおりに挨拶を交わす。
「こんにちは、イルハ」
「イルハさん、こんにちは。今日はこっちでの業務ですか?」
「そうなのよ~。それであんたが唯吹って子?」
「はい。やっぱり……弥音さんの話を聞いて?」
「おぉ~、察しがいいね! 気に入ったよ!」
上機嫌に笑いながら右手で唯吹の左肩に置く。明るくテンション高めといえば、エジプト神群聖地の時に出会った愛里のことを思い出すが、彼女の場合は違うベクトルに居るようだ。左肩に置いている右手が離れ、微笑んだままお辞儀。
「はじめまして。あたしの名前は
「う、うん。よろしく、イルハさん」
「よーっし。唯吹ちゃんが来たということは親神探しの調査でしょ? 早速オーディンさんの部屋へ行こう!」
「は、はい。ちょっと待って、早いです……!」
やることが決まっているためか率先して前に出るイルハと手を引かれてついていきつつも戸惑いが隠しきれない唯吹。この光景を見ている弥音とフォンヒルドは苦笑いをしつつ後を追う。普通なら親神探しの調査を頼み、その間試練一つ二つやった後に教えてくれる。そう唯吹は思っていた。だが……
「断る」
「はい?」
館の奥部屋。書斎に囲まれた部屋の中で、帽子を机の上に置いて本を読む男神オーディンが眉を何一つ動くこともなく息をするように依頼を断った。信じがたい返事に唯吹の口から思わず声を上げてしまう。
「我に同じ言葉を二回言わせるな。戦士の顔をしていない小娘に教えるものは無い。諦めるか出直してこい」
現実は思った以上に甘くないと痛感。今まで出会ってきた神様がノリいいか優しく、先輩の神子たちも自分のためにサポートしてくれたのだ。個人だけなら全く未熟者であると、うつむき加減で両手を握りつつこの場を去ろうと考えていた。
そんな気分の中、イルハはオーディンに対して意見具申してきた。
「あの、オーディンさん。折角遥々とこの聖地に来たし、何も学ぶこともなく帰すのも勿体無い。なので、北欧神群での戦い方を彼女に教えてあげて、その後に考え直す形で良いかと思うのです。この子は北欧神群の子かもしれないからね!」
「イルハさん……」
「あたしだって、唯吹に色々としてあげないとね」
「……お前らも、それでいいのか?」
「はい、問題ないです」
「唯吹さんのためですもの。わたくしも異論はありません」
「弥音さん……フォンさん……。ボクからもお願いします!」
周りに励まされ、唯吹も深々と頭を下げる。沈黙を続けて小一時間。大きくため息を吐いたオーディンは本を下ろした。
「小娘、顔を上げろ」
「は、はい!」
オーディンの呼びかけに顔を上げる唯吹だが、彼から発するプレッシャーをモロに受けているせいか無意識に固まり、余計な動きをすることができない。
「……特別に一度だけだ。瑠璃山、頼むぞ」
「了解しました!」
「河辺と松橋は介入するなよ。お前らでは彼女を教えるには物足りない」
「それでは、わたくし達はどうしたら……」
唯吹の様子を見ること以外やることの無いフォンヒルドと弥音の前に一冊の分厚い資料が置かれる。
「我の仕事に手伝え。すべて終えたら訓練の見学許可をしよう」
仕事をもらうだけでもありがたいのかそうでもないのか、二人はただ軽く笑うだけで済んでしまった。
「ある程度の知識と力がついたらまた来るが良い。このエーミルの首の力を使えるようになったら知りたいことを教えてやる。後は……決して『未来視』の力を使うな」
「は……はーい。今から行ってくるね。さぁ行こう、唯吹」
「はい、イルハさん」
ミーミルの首。知恵の泉の持ち主である巨人ミーミルの首を魔術的措置したもので、テーブルの近くで不気味さを漂いながら配置されている。説明と忠告を聞いた後、唯吹とイルハはオーディンの部屋を後にした。静まり返った部屋の中でオーディンの口からボヤキをこぼす。
「忘却の子と聞いたから期待はしていたのだが。まぁよい。短時間の訓練ではミーミルの首の力を発揮できないだろう」
このオーディンのボヤキの言葉に弥音は思わず両手に拳を作るぐらいに強く握った。表情こそ無表情で変わりないが、発する口調からは半ば憤りが混じる。
「オーディン様。北欧神群の主神でその実力もあり、半年前の『魔界解放』の一件に関しては感謝しています。でも……やはり貴方のことは好きになれません」
オーディンの館の正門から出て十分と数分。森の茂みから括り抜けた先に広がるのは大広場。どうやらエインヘリヤルが訓練を励む場所のようだ。ここで訓練していたらさぞ気持ちよく捗るに違いない。
「さーって。今日は特別に肉弾戦の基礎の基礎。剣術の勉強をするよ!」
「剣術の勉強って……。ボクが持っているのは短剣だよ?」
「短剣でもかなり強いのよ? でも特訓でやるには使いづらいかも。はい、これ」
とイルハから投げ渡されたのは木でできた刀。引き抜いて刃を触れても切れない。不思議そうに刀全面を眺める唯吹にイルハが解説してくれる。
「日本刀を模った木刀でビックリしたでしょ。戦う素質あっても戦い慣れていない戦士用に用意されたものなの。まぁオーディンさんはこのやり方はどうしても渋っちゃうけどね」
「へぇ~。で、では、頑張ります! てやぁ」
木刀を両手で構え、勢いをつけながら斬りかかろうとした。振り下ろそうとしたところでイルハが軽々と回避されてしまう。
「あれ?」
「ん~。さっきの攻撃は実に避けやすいね」
「もう一回!」
避けたすきを見て更に木刀を振り回して攻撃を仕掛けるがそれも回避。何度も振り回すも全部空振りに終わってしまった。
「だめだよ~。まだ使い慣れていない間は腕だけで振り回しちゃ。あたしからしたらこの一撃だけで倒しちゃうもの」
得意げな表情のまま、右手で唯吹の背中を押してうつ伏せに倒させた。倒れないと意識していた唯吹にとってあまりにも信じがたい結果であり、今でも頭をかしげている。
「腕だけ振り回していると腰ががら空きになっちゃうのよね。全身で力を出していけば隙を出さずに済むはずよ。さぁ、かかってきなさい!」
「はい!」
この後も、何度も、幾度も、立ち向かって木刀を振ってはイルハが自分の木刀で受け止めたり避けたりと繰り返す。これを休憩はさみながら続けた。しばらくしていくと、振り回すだけに集中していた腕も身体も使って力を入れるようになった。
「お、いいね~。この調子」
「やっと頭と身体がついていけるように……。続けていきます!」
刀と刀をぶつかりあう訓練の最中、突然遠くから爆音が響き渡る。ただでさえヴァルハラの気候は上着を着ないと自由に動けないのに、この爆音から来る冷風が更なる冷気が襲い掛かってきた。
「さ、さむ……。一体何が起きたの?」
「多分氷の怪物の仕業だと思うの。でもどうしてこんな所に……」
時間が経つにつれて大きくなっていく物音。そして森の茂みから丸っこい体格でありつつも巨体そのもので、手には大きな斧を持つ怪物が叫び声とともに現れた。
「こ、この怪物。ヨトゥンだ!」
「ヨトゥン?」
「大自然を操る妖精の一族。……もしかしてあるエインヘリヤルの軍が捕獲したものが脱走したというの!?」
「それはどういうことなの、イルハさ……うわっ!」
情報整理をする暇も与えず、ヨトゥンの斧で二人の距離を作ってしまう。すばやく避けたイルハは木刀を捨て、腰につけているナイフから直剣を取り出す。
「話す暇はなさそうね。ここであたしが……」
「イルハはだーめっ!」
「わわっ!」
斬りかかろうとしていたイルハを背後から現れた一柱の神様が押し倒したせいで倒れてしまう。後ろを振り返ると、大きな盾を背に抱えた女神様だ。
「スクルド様!? あたしが出なきゃ唯吹はどうなるのよ!」
「慌てないの。このヨトゥンは手負いだから大丈夫。唯吹ちゃん頑張ってね~」
「え、はい!?」
上機嫌に、そして余裕な表情で唯吹に手を振るスクルドの様子を見て戸惑いを隠しきれずツッコもうとしたところでヨトゥンの攻撃により妨害される。外気から吹き出す冷気により身体の自由と思考は奪われ、足場もそろそろ凍り付いてきた頃。振り回して襲い掛かってくる斧を避けながら打開策を考える。すべてのヨトゥンの動きを見て、左足を抱えていることに気づくのだが、その最中で思わず足を滑って仰向けに倒れてしまった。
「……しまった!」
態勢立て直そうにもすぐに襲いかかる斧に短剣で絶妙に受け止める。この瞬間、脳裏にある光景が見える。ヨトゥンが燃え盛って消える姿を。隙を生んでいる間に唯吹は起き上がり、少しでもダメージを与えようと短剣を振り回すがかすり傷一つもつくことが出来ない。攻撃することに集中してしまったがために、ヨトゥンの持つ斧の刃が左二の腕を数センチながら切り裂かれる。
「えっ……?」
そして斧のアックスヘッドで唯吹の腹を的確に打ち飛ばされ、数メートル先の木に激突。この勢いで頭上の木が折れてそのまま頭にぶつける。ここまでの一連の流れで流石にイルハも声を上げてしまう。
「唯吹!」
「イルハはここの性質分かっているでしょ? そんなに心配しないの」
「で、でも……」
「ここでくたばったらそれまでだもの。まぁ、見てなさいって」
一瞬意識は飛んでいたがすぐに戻り、目の前には次の攻撃を備えるヨトゥンの姿。突如襲いかかる頭痛に思わず右手で頭を抱えるが、普通現れないやけどするほどの熱さが右手に襲いかかる。
「あ、熱っ! こ、これは……」
頭から血が流れていたことも驚きだが、何よりもその血から小規模ながら火が出ていることを右手から分かる。先程受けた左二の腕の切り傷からもジャケット越しに小さな火が灯っており、これらのお陰で寒さが完全払い除けていた。とはいえ、このまま放置してしまえば燃え広がって無事では済まないだろう。力振り絞って立ち上がり、左手に持っている短剣を改めて構える。
「こ、今度は確実に!」
襲い掛かってくるヨトゥンに向けて短剣の刃を振り下ろす。この時だけ刃が大きくなり、振り下ろした方向に相手の右腕を切り落とすことに成功。失ったことの衝撃により斧は落とされ、戸惑っているうちに右足で手負い状態の左足を蹴り飛ばしてうつ伏せに倒した。
「今だぁ!!」
自分の血を短剣の刃につけ、ヨトゥンの背中に突き刺す。悲鳴を上げるヨトゥンだがこれだけでは燃やし尽くせない。最後のダメ押しをするため、血のついた右手を背中につける。首に下げている勾玉が光り、右手から炎が吹き出す。氷の塊となったヨトゥンが徐々に溶け出し、消滅していった。
「き、消えた……」
脅威が去り、思わず尻もちをつく唯吹だが攻撃のダメージやその他の要因で疲れ果て、舞い上がる炎で尚体力を消耗していく。心配そうに見ていたイルハだが、空の模様を見て杞憂だと思い始める。
「タイミング的にも丁度良さそうね。もうそろそろ夕暮れ時だし」
訓練開始までは登っていた太陽も沈み始めた時。草木が今日最後の輝きを見せ、その同時に唯吹に纏っていた火種が消えていき、そして傷も綺麗に無くなっていた。
「傷が消えていく……。イルハさんに……近くにいる神様。これどうなっているの?」
「えっとね、これはね……」
「あたしスクルドが説明するよ! この訓練場で受けた傷は夕暮れには回復するの。だからエインヘリヤルの人たちは実戦形式で死に物狂いに訓練行っているわけでね。イルハもそうすりゃよかったのに」
「戦い慣れていない人にそんなことできるわけ無いじゃない!」
今回の訓練、あまり傷を受けることのない木刀でやってよかったと上機嫌なスクルドの話を聞いて痛感し、思わず震えてしまった。
「でも見込みのある人でよかった。さぁさぁ、日も暮れちゃったしオーディンの館に戻ろう、ね?」
「う、うん……」
スクルドに押されて帰る唯吹にとって、まだオーディンに対する不安から拭えないままなのであった。
日が完全に暮れた頃のオーディンの館内にある奥部屋。先程までの出来事を、丁度仕事を終えた弥音とフォンヒルドに伝えた所かなり驚かれてしまった。帰ってきた後の唯吹のボロボロの姿を見た時点でかなり心配されていた。
「なるほど、そうでしたか。無事で何よりですが、服の方は……ちょっと考えておきましょう」
「ごめんなさい。貴重な一張羅なのに」
「服に関してはあたしがどうにかしてあげる。先にオーディンの用を済ませないとね。ほら、何か試しているような目になっているよ」
「あ、オーディン様……」
椅子に座るオーディンからの目線だけで強いプレッシャーが感じ、思わず身を固くなりつつも机の前に立つ。後ろから優しく見守る弥音とフォンヒルド、にこやかに結果を待つスクルド、小声ながら応援をするイルハと様々。
「さっきよりは少しは戦士の顔はしてきたか。ミーミルの首の力を発揮できたら小娘の知りたいことを教えよう。同時に己の未来を見極めるのだ」
「は、はい!」
「イルハもこの時だけ未来視の能力使用を許可する」
「わ、わかりました」
机の上に置かれたミーミルの首を唯吹は両手を震わせながらゆっくりと頭を乗せる。その瞬間、ミーミルの目が光り全面が真っ白な光景が広がった。全面何も見えない空間の中、ある一つの物音が足元から聞こえる。水滴が水上に落ちていくその音は唯吹にとっては気持ちを落ち着くものであった。
視界がいつもの光景に戻ると目の前には椅子に座っているオーディン。両手にはミーミルの頭を触れていたことに気づき、咄嗟に手をミーミルから離れる。
「何か見えたようだな」
「はい。足元には水面が広がっていて、水滴が落ちる音だけでした」
「ふむ。そうか……」
「イルハさんも何か見えましたでしょうか? なんだか浮かない顔をしていますが」
「あ、え、あたし? それは……」
フォンヒルドの声を聞き、少しうつむくイルハを見つめる視線で戸惑いを魅せる。それでも勇気を振り絞って口を開いた。
「……見えなかった。実はあたしが持つスクルド様から引き継いだ未来視の能力はね、現状その人の素質とその過去がある上で未来を推測するしかできないの」
「ということは、過去の記憶の無いボクの未来を見ることができなかったってこと?」
「うん。神様は見えないのは仕方ないとして、弥音やフォンさんの未来は個人差があっても見えているけど、唯吹だけは全く……」
「ご、ごめんなさい。ボクのために」
「いいの。未来が見えたところで絶対にこうなるってわけじゃないからね。あくまで参考程度しかないのよ」
微笑みを浮かべるイルハだったが、未来が見えない事実に少し頭を抱える結果となったのだ。このまま重苦しい空気になるところをスクルドが跳ね飛ばした。
「よーっし! すべての用件が終わったところだし、みんなでエインヘリヤルと混じって宴会だー! あ、勿論唯吹ちゃんと弥音ちゃんも一緒だよ!」
「え、いいのですか!? 私は単に案内をしただけですよ」
「もっちろん! 外部からのおもてなしは大事だからね!」
「で、でも、ボクはオーディン様からの結果を……」
「あのミーミルの首の力を引き出せたのだ。親神探しに関しては宴会終えた後に伝える」
「本当ですか!? ありがとうございます」
表情や態度からして以前と変わらないが、発言の口調は少し優しさを持っていたようにも感じていた。
「それじゃ、行きましょうか。唯吹さん」
「はい!」
「ほーっら、弥音も行こうよ!」
「河辺は少し残っておくれ。その後でも遅くは無いだろう」
「えー!?」
「……分かりました。ごめんね、イルハ。唯吹やフォンヒルドも。後から行きます」
「分かりました、弥音様。また宴会場で」
「大変な目になるまえに早めにね……。ボクどうなるか分からないから」
と先にスクルドや唯吹、フォンヒルド、イルハは部屋を後にし、再び部屋に静寂を取り戻しつつあった。オーディンはドアに前を向けているミーミルの首を自分の方に向けて黙々と眺める。僅かながら意外な表情をするオーディンに対し、弥音が口を開く。
「想定外でしたか? ミーミルの首が使えることに」
「とても不思議だ。忘却の子だから無意識に持っていた可能性もあるが、それでも発動するには色々と足りなさ過ぎる。水面……か……」
どういじっても不備は無いと確認し、大きくため息を吐いて椅子をブカブカと座り、背にもたれる。
「我の見込み違いだった。天笠木唯吹。何者かはさておき、彼女には神子としての素質は大いにある。親神次第では絶大な力を発揮できるに違いない」
「親神探しに何か進展でもありましたか!」
「ミーミルの首の力で見た光景が手がかりとなるなら選択肢としては絞られるだろう。一応調べるが、この北欧神群には該当する神は居ないと思われる」
「そうでしたか……。オーディン様の子かと一瞬思いました。宴会前に伝えないのはある意味の優しさというか……」
「気を落とされると周りにも影響が及ぶからな。軍の士気を保つのも我の役割だ。ところで、次の聖地……クトゥルフ神群アーカムといったな。行くのか?」
クトゥルフ神群のワードとオーディンの発言により弥音の表情に笑顔は消えた。
「アーカムに行くこと自体は問題ありません。でも、あの神にだけは会いたくありません」
「お前の気持ちは良く分かる。だが目と鼻の先にある運命をどう受け入れるかの大切さは他の誰よりも知っているだろう。どうにか乗り切ることだ」
「分かりました。どうするかは考えます」
「天笠木の親神、見つかることを祈るよ。河辺も行ってくるがよい」
「色々とありがとうございます。それでは失礼しました」
深い会釈の後、弥音もオーディンの部屋を後にして大宴会へと向かうことになった。そして一人っきりとなった部屋の中でオーディンは再び本を開き、読みながら呟く。
「これも忘却の子としての試練と思えば……面白いか」
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