空腹

よろしくま・ぺこり

空腹

 腹が減って仕方ない。


 だが、簡単に食べられる、スナック菓子やインスタントラーメンの類は一つもない。


 手間をかければ、食べられるものはある。米を炊いたり、乾物のそばや、そうめん、うどん、パスタあたりだ。


 しかし、今の俺には、それらを炊いたり、茹でたりする気力がない。憂鬱なのだ。憂鬱なのに腹は減る。腹が減れば、ますます憂鬱になり、イライラする。悪循環だ。俺は、重い体を引きずってキッチンへと向かった。


 冷蔵庫には調味料の類しかなかった。分かっていたことだ。俺は一週間、買い物をしていない。


 ひょっと、調味料入れを見ると、ゴマがあった。ゴマでは腹は膨らまない。しかし、ないよりはマシだ。俺はゴマの袋を傾けて、手に取った。そして、薬でも飲むように口に放り込んだ。咀嚼する。


「美味い」


 考えてみれば、ゴマはナッツみたいなものだ。それに煎ってあるから香ばしさが口に残る。俺はゴマの袋を空にした。


 空腹は満たされない。


 次に、粉チーズを見つけた。ゴマと同じように、手に掬い、口を大きく広げて中に入れた。


「美味い」


 粉チーズだってチーズには違いない。別に、何かにかけずに直接食べたってなんの不思議もない。俺は粉チーズを一缶開けた。


 まだ空腹は治らない。


 俺はキッチンの収納庫を開けて見る。見事に何もない。あるのは小麦粉だけだ。


 小麦粉。


 さすがに、これを直接食べても美味くないだろう。水で溶いて、お好み焼きかパンケーキもどきのものを作るしかない。


「やるか」


 俺は小麦粉を水で溶いた。なんだか、つきたての餅のように見えてきた。俺はそれを焼かずに砂糖を振りかけて食べた。


「まさしく、餅だ。美味い」


 俺は小麦粉を全部、ボウルに突っ込み、水で溶かして食べた。


 しかし、空腹は満たされなかった。


 結局、仕方がないので、米を研いで飯を炊いた。でも、おかずもふりかけの類もない。せめてゴマでも残しておけばよかったと強く思った。

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