第22話
「アビ様…!」
村長宅で待っていたジェマが出迎えた。
「ジェマ、お前のおかげで全てうまく行ったぞ!!」
アビが、駆け寄って握手をする。ジェマがうんうんと頷き、いえ、アビ様のおかげですと笑う。
テムルは二人に深く頭を下げた。
「アビ様、ジェマ様、本当にありがとうございます…!ナミを守れたのはお二人のおかげです!」
テムルは心の底から感謝すると共に自分の無力さを感じていた。先頭切って攻めていくとか、俺はどれだけ馬鹿なんだと自分の考えを恥じた。
「それは違うぞ、テムル」
アビの声に頭を上げる。
「お前とボードが民を集めたのだ。あの人数がなければ交渉はできぬ」
そんな、とテムルは言う。
「早馬を城と砦に出したことも良い判断だ。たから私もジェマも間に合ったのだ」
外でわっと歓声が上がる。ボードが村民に危機を脱したことを伝えたらしい。
「テムル、お前は立派に領主としての役割を果たしたのだよ。領主は一人では何もできぬ。民や私たちと共に戦えばよいのだ」
「アビ様…!!」
テムルは溢れる涙をふいた。ジェマがハンカチを渡してくれ、そうですよ、また私のこともきっと助けてくださいと笑った。
必ず、とテムルは泣きながら言った。
「あれ?ジェマは?」
宴が始まったがジェマの姿が見えなかった。アビは長老に囲まれている。領地で急ぎの用があるらしく、ジェマは急ぎで出発したらしかった。
もう少し話したかったな、とテムルは思った。テムルが跡継ぎ問題でバタついてる間にあんなにすごい研究を成し遂げているなんて。
ボードが赤い顔をして近づいてきた。
「テムル様、村を守って下さり、ありがとうございます」
「俺は何も。解決したのはアビ様だ。力不足ですまなかった」
いいえ、とボードが首を振る。
「テムル様が誰より村を守ろうとして下さったのはよくわかっています。もちろんアビ様が素晴らしいこともわかっていますが」
むしろ、長老たちが失礼なことを言って申し訳ありませんとボードが謝る。
「いや、いいんだよ。大丈夫だ」
「この村にもマヤから逃げてきた民がいます。ここは小さな村で年寄りばかりでしたが、よく働いてくれているのです。村のものと結婚し、子も生まれています。私の代では長老たちのような偏見をなくし、みなでを村をよくしていきたいのです」
そうか、とテムルは答えた。
よく見ると村の民たちにはテムルと同じような肌の色の民が何人かいた。
みな楽しそうに歌い、踊り、食べていた。
音楽が鳴り、テムルは目を閉じる。マヤの民にも平穏と幸せが訪れますよう。痩せこけた敵軍を思った。
「テムル」
振り返ると、アビが立っていた。やっと長老たちから開放されたらしい。
「アビ様…。何と感謝申し上げてよいか」
アビは黙ってテムルを立たせ、促した。テムルは不思議に思いながらアビに着いていく。今夜は月が明るく、宴から離れても周りがよく見えた。宴の広場から離れ、アビとテムルは池のほとりに腰をおろした。
「事前に説明できていなくてすまなかった」
「いえ…!そんな」
麦の開発は機密事項で、ジェマとアビ以外には知っている人間は数人しかいなかった。
日照りに強い種はすでにかなり開発できていたらしく、交渉に使うために収穫を一度限りにするところに時間がかかったのだとアビが説明する。日照りの予測がされていたため、こういった事態も推測されていたのだ。
「すごいなあ、アビ様は」
テムルはごろりと寝転がる。
肌の色だなんだと小さい自分が嫌になる。アビの見ている世界は広い。
自分の方が3つ年が上なはずなのに。
「遅れたが、いよいよ正式な領主だな。おめでとう」
「それもアビ様のおかげです。ありがとうございます」
このドタバタで忘れかけていたが、ミネアは歯ぎしりして悔しがっていることだろう。あの人も気の毒な人だ。
「…ところで、お前もいい年だ。領主になったのだから結婚しろとか言われるのではないか」
アビがこちらを向かずに言った。
確かに、テムルは今年19になった。補佐たちにも結婚したらどうかと言われることがある。
「そうですね…」
「何か具体的な話があるのか」
アビがバッとこちらを向いた。いつになく真剣な眼差しだ。
「いや、そういう訳では。結婚すればいいとは言われますが」
「誰とだ」
「誰と言うわけでは…」
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