第17話

村長のボードが駆け寄り、

「じいさま…!」と諌める。テムルは答えた。

「私はマヤとの混血です。母がマヤの出です」

「何と…新しい領主さまがなぜそんなことに。皇帝はお許しか」

「…勅命はまだ出ていません」

やはりな、と長老が満足げに頷く。


冷たい目で見られながら、なぜだとテムルは思う。

自分は何よりも民を思い、努力してきた。それなのになぜ、民はいつまでもテムルの肌の色の事を言うのか。何をすれば、どこまでがんばれば理解してくれるのか。

村長のボードが耐えきれずに言う。

「爺さまたち…!テムル様は間違いなくナミの新しい領主さまだ!勅命はまだ来ていないだけで、すぐに降りる。助けに来て下さったのに何て事を」

長老の一人がドン、と杖を置く。

「ボードよ。今我らはマヤに攻められているのだ。この混血の領主さまと同じ肌の。遠くから見ればどの国の者かわからぬ。領主さまがあちらに寝返らないと、なぜわかる」


ざざ、と音を立ててテムルの血の気がひいた。長老は何と言った?

俺がマヤに寝返るというのか?


「爺さま!なんてことを」村長が大きな声を出す。

「いや、わからんぞ!」

もう一人の長老が頷き、村長に言葉を返す。

「もしや、以前からこの機を狙っていたと言うことも考えられる」

「そうじゃ。この国境の村はこれまで攻められた事などない。なぜマヤとの混血の領主になった途端に攻めてくる」

口々に責め立てられ、村長が言い返せなくなる。


これが民か。

父が必死に守ろうとしてきたもの。自分から必死に守ろうとしているもの。


「…では、私が先鋒にたとう」

テムルはこらえ切れずに言った。

「長老たちが私を信じられぬと言うのなら仕方ない。しかし、私は身をもってあなた達を守る」

「無謀すぎます!まだ砦の兵も着いていない」

ボードは慌ててテムルを止めようとする。

「…そんな事を言って、あちらと合流するんじゃないのかえ」

「爺さま!やめてくれ!」

長老と村長の言い争いになる。


「ボード、もうよい!私が行けばよいのだ」

「領主さま…!」


結局、わかりあえない。

でも自分には見捨てられない。父が大事にしてきたこの民たちを。マヤの民を殺せばこの者たちは納得するのか。マヤのものを奪えば喜ぶのか。

それは正しいことなのか。

わからない。

でも、他にやりようがない。


急に村長の部屋の外が騒がしくなり、バタバタと音がする。「お待ちください!」と誰かの声が聞こえる。


バタンとドアが開き、キラキラと輝く光が目に入る。美しい金髪の輝き。

「アビ様…!!」

皇太子アビだった。テムルがぽかんと立っているとアビは美しくテムルに笑いかけて、すぐに真面目な顔になった。

「勅命だ。テムル・フォン・ナミギル。新しい領主として認めよう」

慌ててテムルも村長も跪く。長老はとっくに、床に額を擦りつけんばかりだ。

「ミネアから直訴があったが、前領主よりテムルが正当な領主である遺言書を預かっている」

アビが胸元から書簡を取り出す。

「証人はこの私だ。先日ナミを訪れた際、立会人として遺言書を作成した」


アビがテムルの手を取る。

「テムル。お前が領主だ」

テムルは混乱していた。アビ様がなぜここに。

父が自分の事をそんなに思っていてくれた。アビ様も同じように準備してくれていた。ありがたいし嬉しいが、うまく状況を咀嚼できない。


「おめでとうございます…!」

村長以下、長老全員が祝いの言葉を述べる。

「新領主、テムル様…!」

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