第11話

こうして、謁見式及び皇室と領主の親睦を深める行事はつつがなく終了した。はりきって準備した爺やは、議論におけるアビの聡明さに感動し、後継者たちを呼んだことを非常に喜んでいた。アビもとても意味のある話し合いだったと思うし、早速日照り対策のプロジェクトをスタートさせた。

しかし、アビには解決しなければならない問題があった。


「父上、まだ起きていらっしゃいますか」

アビは夜更けに父の居室を訪ねた。

「珍しいな、どうした?」

アグリはゆるいガウンを着てアビを迎え入れた。アビは静かに部屋に入り、父の前に立った。

「折り入ってご相談したいことがあります」

息子の真剣な眼差しにアグリは何事かと心配になった。確かに謁見式後、アビは物思いにふけることが多い。

「話してみよ」

アビは深刻な表情でアグリを見た。そしてひとつ息を吸って、言った。

「父上、私には…皇位継承は難しいかもしれません…」

想像以上の言葉だった。

「何故だ!」

思わず大きな声が出た。他の者に聞かれては困るので慌てて声を抑える。アビはこの手で育てた優秀な息子だった。少し傲慢なところはあるが、聡明でよく考える素晴らしい才能の持ち主だと思っている。また、民のことを思う気持ちも強い。

「…何故だ?何があった?」

アグリの動揺が声に出る。

「…申し訳ございません」

アビがうなだれる。

「私は…私には、跡継ぎを作ることができません!」


「…は?…跡継ぎ…?」

驚きのあまり、アグリは間の抜けた声を出した。

「…その心配は早いのではないか?まだ妃もおらぬのに」

アビは真剣な眼差しでアグリを見据える。

「父上、私は妃をめとるつもりはございません」

力強い言葉だった。

「なにゆえ、そのような事を」

「私は…私は、男性を好きになってしまったのです」

アビは絶望的な気分で告白した。これで自分はもう皇位継承権を剥奪されるかもしれない。しかし、一年考えてきて、やはり自分の心を動かすのはテムルだけなのだ。今回、そのことがはっきりした。一生この気持ちが続くかはわからないが、心を殺して生きてゆくことはできない。でも、父や周りの人間に落胆されることは何より辛い。揺らぎながらも、アビには告白するほかなかった。アビが生まれたのは父が18の時だ。父が母と結婚したのは16の時だと聞いている。アビにいつ妃が来てもおかしくなかった。


アグリがふーっ、と息を吐き、アビは緊張して父の言葉を待った。

「何事かと思った…そんなことか」

「父上?」

「皇位継承が無理とかいうから、どこか悪いとか人を殺したとか取り返しのつかないことかと」

「充分、取り返しのつかない事態だと思っておるのですが」

「…そんなに好きになってしまったか」

アグリがアビの目を見る。

「…はい」

「…じゃあ、仕方ないんじゃないか。でもそれと皇位継承は別だろう。私はお前が次の皇帝だと思っているよ」

「父上…!」

嬉しかったが、アビには寛容すぎるように思えた。普通、息子が男を好きになれば皇子でなくとももう少し動揺したり反対したりするものでは?不思議に思ったアビがそう言うと、アグリは微笑んで言った。

「許されない恋なんかない。好きになったら、仕方ないんだよ」

納得のいかない顔のアビに父は静かに言った。 


「お前の母は神に仕える巫女だったのだよ。私が彼女に出会ったのが今のお前と同じ、15の時だ」

アグリが話し始めたのはアビが初めて聞く、父と母の物語だった。

「神に仕える巫女というのは、神と結婚するわけだから本来誰とも結婚できないことになっている。しかし、神事で見た彼女に、一目惚れしてな。あらゆる手を尽くして結婚まで持ちこんだ」

母を語る父の表情はとても優しい。

「ものすごく大変だった。たくさんの人に反対されて、怒られて、でもあの人しか欲しくないと思ったんだ」

「父上…」

「そしてお前を授かった。幸せだった、本当に」

今もお前がいて幸せだけどな、と父は優しく笑った。

「でも、お前が2つになったころに急に体調を崩してな。お前は小さい頃体が弱くて、母さんはお前のことばっかり心配してたから、気づいた時はだいぶ悪かった」

確かにアビは小さい頃、よく熱を出していた。

「罰が当たったって言われたよ。巫女を奪ったから神がお怒りだと」

静かに言っているが、どれほどのことだろうとアビは思った。愛する人が病になった時、お前の行いが悪かったなどと言われることは。

「でも、お前の母さんは気にするなと言った。神はそんなに心が狭くないと。私に何かあっても、私たちの子どもが元気に育って、神の怒りなどないと証明してくれると」

アグリは立ち上がり、アビをまっすぐに見た。アビは父と眼差しがあう身長になっていることに気づいた。

「その通りになった。お前は賢く美しく、民を思う自慢の息子だ。神は怒ってなどいない。私たちを見守って下さっている」

アグリはアビの頬をさすり、言った。

「許されない恋なんかない。人を愛するのは尊いことだ。お前も誰かを愛するような年になったのだな、アビ」


「父上…!」

アビは胸がいっぱいになって何も言うことができなかった。ただ、これまで母がいないことや、皇子に生まれたことを不満に思ってたことがあることを恥じた。そして、この父と母の元に生まれたことを神に感謝した。

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