第5話 クラス、スキル、ステータス?
「どうやら、無事になってしまったようですね。ようこそ、こちら側の世界へ」
大司教は柄にもなく、冗談めいた皮肉を口にした。
「これであなたは神の使徒となり、あなたに洗礼を施した私はあなたにとっての導師ということになります」
「そうなのか」
「ええ。導師と信徒といえば、世間では親子も同然とされる間柄。遅ればせながら、私もあなたが主人を探す手助けをすると約束しましょう」
……おおっ。
思わぬところで協力者を得てしまった。しかも、かなり頼りになりそうだ。
「それは、かたじけない……です。ええと……導師、さま」
「無理に
「あ、ああ。はい、そうです」
いかん、どうも調子が狂うな。というかこの人、日本を知ってるのか?
「そうですか」
と、私の導師様なリリディア大司教は頷いて、
「あなたの目に、この世界がどう映っているかはわかりませんが……ヴォルザークが日本に進出して以降、こちらの世界はかなりあちらの影響を受けています」
「ああ……道理で」
第一印象からつきまとう世界観のチグハグさはそのせいか。
「私たちの住む新世界『セイロニアス』は、そのせいで二つに分かたれました。龍神に仕える従神のうち、双子の妹フブキ神が司っているのが伝統的な世界観が守られた『トルーファス』――そして姉のサクラ神が司るのが、異界の文明を安直に摂取してハチャメチャにとっちらかってしまったこの『アーヴィエル』です」
「なんか……言い方にトゲがないかしら?」
双子の姉のほうが恨めしげに横槍を入れる。
「過ぎたことを嘆いても仕方ありません。こんな世界でも強く生きていかなければ」
「こんな世界って言った!? 聖職者なのに! 私の使徒なのに!」
「まあ、それはさて置き――」
「ちょっと! こらっ、罰当てるわよ!」
喚く神様をスルーして、大司教は私に続けた。
「日本由来の文明については説明の必要もないとは思いますが、元々こちらにあったシステムも相当おかしなことになっていまして。ちょうど洗礼も済んだことですし、〈
「……せかん……?」
首を傾げる私に、横から神様がまた口を出す。
「セカンダリ・チャネルよ。みんな『セカンダリ』って略しちゃうことが多いけど。日本のインターネットに着想を得たこの私の自信作なんだから」
「〈第二魔導帯域〉を起動とかアクセスとか。念じれば、スタート画面が出ます」
「…………。」
二人揃って、ネットだの、画面だの、アクセスだの。念じろとか言われても、私は何の機器も持ってないし……
えーと、『〈第二魔導帯域〉を起動』だっけ?
これで、何がどうなるというのやら。
からかってるのか、と疑っていたらいきなりポンと目の前に現れた。
【ようこそ、〈第二魔導帯域〉へ。
「ゲスト」さん ログインしますか?】
……なんだこれ。
何もないはずの空間に、ホログラムみたいな半透明の表示が出ている。手を伸ばすと届きそうな位置だが、そもそも触れるのかどうかもわからない。
「ログイン、って……したほうがいいのか? やり方がわからないが」
「同じように念じればいいのよ。魔力認証でなりすましとかムリだからパスワードもいらないし。むしろ日本の本家より便利でしょ」
凄いな。ていうか、私って字も読めたのか。むしろそっちにビックリだ。
でもって、念じればログインができる……と。
【こんにちは、「花坂シロ」さん。
お気に入り
『SAKURA.2c』
『さくらちゃねる』
『サクラ様非公式ファンクラブ』
『女神信奉者同盟』
『サクラ原理主義』
『さくらっ娘学院』
『サクラwiki』
『ヴォルザーク教会公式』… 】
ずらずらとなんか出てきた。どうしていいか、いきなりわからない。
立ち尽くす私に、大司教が助け舟を出した。
「デフォルトのスタート画面はサクラ神のゴリ押しが非常にウザいので、後々適当にいじってください。上から七つまでは全部消していいです」
「こらー!」
「そこに並んでいるような『スレッド』を選択すると、他のユーザーがアップロードした情報にアクセスすることができます」
……ふむ。それで新世界版インターネットか。
『
「操作は実際に使っていれば自然と身につくと思いますが……とりあえず、あなたの『個人スレッド』を呼び出してみてください」
個人スレッド……ああ、あった。画面の一番下だ。
呼び出しの仕方は、よくわからない。視線を合わせると項目が光ったので、更に奥を見通すようにぐっと意識を集中させてみる。
画面が切り替わった。
【花坂シロ 獣人 女 11歳 ※〈
ステータス
基礎Lv1
クラス:なし
スキル:「探索Lv1」「索敵Lv1」
加護パラメータ… 】
私は十一歳の獣人だったらしい。後は意味不明だ。Lvはレベルとして、クラスやスキルって何だろう?
パラメータの欄にはHP、MP、
うーん。思い返すと、ご主人のゲームにもこんなのがあったかもしれないが。
「呼び出せましたか?」
「できたと思うけど、意味がよくわからない」
大司教の問いに、私は首を横に振る。
その先の説明は神様がしてくれた。
「それはつまり、信仰というものの有り難さを数値化した超画期的なシステムよ」
得意満面に、神様はのたまわく――
HP…ヒットポイント、耐久力
MP…マジックポイントまたはマインドポイント、精神力
膂力…力の強さ
敏捷…スピード
防御…物理ダメージに対する抵抗力
魔力…魔法行使に係る処理能力と敵性魔法に対する抵抗力
体力…スタミナ
運…運の良さ
各パラメータは大体こんな意味で、これは本人の肉体的スペックではなく神の加護によって得られる能力アップ分を数値化したものらしい。
経験を積むとレベルが上がり、それに伴ってパラメータの数値も上昇する。要は、ゲーム的なお約束のアレだ。
「――で、『クラス』は剣士や魔法使いみたいな能力の属性、『スキル』はそれらに付随する技能、ってとこね。最初は『なし』になってるけど、『秘伝の書』みたいなアイテムを使ったり専門の修行を積んだりすれば――」
神様の説明を、私は遮った。
「いや、あるぞ? スキルのところに……」
「え? そうなの?」
話の腰を折られ、首を傾げる神様。助言をくれたのは大司教だった。
「『設定』を呼び出して『可視化』を選択すると他の人にも見えるようになります」
設定。画面の上に、ダイアログ的な小画面が重なる。可視化を選択した。
二人してそこを覗き込んできたからには、見えるようにはなっているのだろう。
「あ、ほんとだ。『探索』に『索敵』だって」
「『探索者』と『狩人』のクラスの
「そう言われると……ふむふむ。膂力と防御の数値が低めで、敏捷がずば抜けてる。天然でクラスの適性が高いのね」
二人は本人そっちのけで語り合い、神様は何事かを納得した様子だった。
大司教が私に解説する。
「鍵スキルとは、特定のクラスを取得するための条件となるスキルです。『探索』は人や物を探し、『索敵』は魔物を探す効果があります。実地で使用すればそれぞれのクラスも取得できるでしょう」
「……ふうん」
さっきもちょろっと言ってたけど、この世界って魔物とかいるのか。
まあ、モノを探して獲物を狩るのは野生の末裔たる犬の本分だからな。その程度はできて当然だろう。
スピードの代わりにパワーと装甲が貧弱らしいのは不本意だが……人類の友としてイノシシやクマと戦ったご先祖を思えばそれも妥当な評価かもしれない。
「ところで、『大司教』や『勇者』というのもクラスの一種なのか?」
そこは少し気になっていたところだ。あんな少女が『勇者』だなんて。
「大司教という私の肩書きは、単なる教会での役職に過ぎません。私の取得しているクラスは『神官』とその上位にあたる『
「へえ。クラスには上位もあるのか」
見ていればわかるが、やっぱり偉いんだなこの人。
「それほど大したものではありませんが」
「……いや、大したものじゃないと私が困るけどね」
謙遜する当人の後を、あんまり偉くなさそうなほうが偉そうに続けた。
「ちなみに『勇者』は上位クラスよりもさらにレアな特殊クラスの代表格で、特別な資質に恵まれた選ばれし者しか取得できない……はずなんだけど……」
「お察しの通り、勇者とは名ばかりの未熟者にて、師としては恥ずかしい限りです」
やはり実物に思うところがあるのか、神様は自信なさげにトーンダウン。大司教もばっさりと斬り捨てた。
正直、ちょっといい気味だ。
まぁあの勇者、あんまり強そうじゃなかったもんな。貫禄が自然と
「とはいえ……詳しく聞けば聞くほど、まるでゲームだな」
「ええ。二つに分かたれる前は、こんなでたらめでトチ狂った突拍子もない世界ではなかったはずなのですが」
私の素直な感想に、大司教がげんなりと同調する。
「なんでよ! わかりやすくっていいじゃない!」
「まあ、それはそれとして」
神様の抗議を平然と聞き流して、大司教は私に続けた。
「あなたの目的が人探しである以上、それらのスキル自体はかなり有用です。まずは『探索』を実用レベルにまで鍛えることから始めてはどうでしょうか」
「いや、そんな悠長なことは……」
「焦る気持ちはわかりますが、この世界を知らないあなたが無闇に動き回ってもよい成果は上がらないでしょう。あなたの主人の捜索には、私の部下を動員します」
私が焦ってもどうなるものでもない。確かに、尤もな言い分ではあった。
このまま神殿を飛び出したところで、頼る人もいなければ道だって知らないのだ。神様の言う通りにするのは不安だが、この人の言うことなら……
「……わかった。どうか、ご主人のことをよろしく頼む」
「任せてください。では、早速部下たちをここに――」
大司教は〈第二魔導帯域〉を可視モードで起動する。スタート画面のアイコンから『通信』を選択。表示されたリストの中で、最上位の二つが光る。
「二人とも、中へいらっしゃい」
どうやら、ドアのすぐ外で待機させていたらしい。勇者とトーマ。入ってきたのはさっきの二人だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます