第XX話 確信
「街はいつも通りって感じ」
「そうですね。相変わらずどこも盛況のようです」
「この時間帯はどこの飲食店も大変そうね」
私たちはあるカフェテラスに陣取り、料理を楽しみながら街の様子を眺めていました。
私たちと同じように雑談をしながら街を楽しむ人、時間に追われるように先を急ぐ人。
さまざまな人が入り乱れていますが、一つ言える事はいつもと変わらないという事です。
「それにしても食べるわね。そんなに食べてお腹は壊さないの?」
テーブルに並んだ料理とリアを見て、ソルテが苦笑しながら問いかけます。
確かにこれだけの量は常人に食べる事は出来ないでしょう。
ソルテが苦笑するのも頷けます。
「食べないと生きてけない。だから食べれる時に食べる」
「それにしても多すぎるでしょう……」
「リアは食べられるから大丈夫ですよ。リア、あーん」
「はむ」
適当な料理を差し出すと、リアは何の躊躇いもなくもきゅもきゅとそれを口にしてくれます。
ああ、もう本当にリアは可愛らしいです。
料理を頬張る姿も素直にあーんに応じてくれるところも、全てが愛おしく思えてきます。
おいしそうに食べている姿を見ていると、それだけでお腹いっぱいになってしまいそうです。
「こっちはこっちでトロトロね」
そんな感じでソルテに苦笑されながらも昼食を食べ終わり、私たちは再び街の探索に戻ります。
「うーん。さて、情報収集はいいですが、どうやって集めましょうか」
私は伸びをしてどう動けばいいかを考えます。
闇雲に歩くのもいいですが、やっぱり目的を持って行動した方が得るものは大きいはずです。
「情報屋に行けば何かしらの事は掴めると思うわよ。でも、情報屋に行くのはあまりいい選択ではないかもしれないわね」
「情報屋?」
なんとなく想像は出来ますが、それに関して詳しい事を知っているわけではない私はソルテに問いかけます。
「情報屋っていうのは文字通り、何かしらの情報を商品として扱っている人たちの事よ。人脈が物凄く広いからか、この街での出来事は大抵知ってるの。行けば必ず情報が手に入ると言っても過言じゃないくらい、あの界隈の人たちは何でも知ってるわ」
「なんでも知ってるなんて凄いですね。ですが、いい選択ではないというのはどういう事ですか?」
情報が集まっているのなら行くのがいいと思うのですが、何かまずい事があるのでしょうか。
「情報屋に行くって事は、奏がその情報を欲している事を相手に伝える事になるわ。情報を欲しているって事は、何らかの関りを持とうとしているか、何らかの関りを持っているという事。情報屋の嗅覚は異常に鋭いから、そこから何をしようとしているか探られる可能性もあるの。渉が隠れて行動しているなら、それを察してしまう可能性のある情報屋は使いたくないわねって事よ」
「お、恐ろしい世界なんですね……」
依頼に行ったら自動的にこちらの情報も与えてしまうという事ですか。
そしてその情報は、再び情報源として周りに売られてしまうという事なのでしょう。
兄さんのしている事を探っているのに感づかれてしまえば、必然的に兄さんに目がいってしまいます。
そこから兄さんが行なっている事に辿り着かれては、兄さんにも迷惑が及ぶ可能性だってあるのです。
そう考えると、情報屋に頼る事はあまりしたくありませんね。
「それに情報屋は高い。情報屋に頼るのは最終手段でいいと思う。まずは心当たりを当たる」
「そうですね。リアの言う通り、心当たりを探ってみるのがよさそうです」
兄さんが行なっている事にはおおよその見当がついています。
今からはその見当が正しいかどうか、探りに行く事にしましょう。
「それで、どこか心当たりはあるのかしら?」
ソルテがこれからどこを回るか問いかけてきます。
今から行く所は、ソルテにとってあまり好ましくない所でしょうね。
「奴隷商店に向かいます。兄さんのしている事の心当たりは、奴隷しかありませんから」
「人がいっぱい」
「だけど客ってわけじゃなさそうね」
「野次馬ってところでしょうか。やはり何かあったんですね」
私たちは一昨日、兄さんが二人を引っ張ってきた商店に足を運んでいました。
しかし、一昨日のような活気はそこに無く、興味本位に何が起きたのかを窺うような方たちが大勢集まっていました。
これだけ人が集まっているという事は、それだけの事が起きたのでしょう。
「あの、すいません。ここで何か事件でもあったんですか?」
私は適当な人を捕まえ、何があったのかを聞いてみます。
「ん?ああ。なんでも、仮面をつけた謎の男が奴隷を連れ去ったようだ。金庫の金も根こそぎ持ってかれたらしい。雇われていた冒険者も優秀だったみたいだが、全員無力化されたというから驚きだ」
「それでこの人だかりですか。そういった事はこの街でよくあるんですか?」
「なんだ、嬢ちゃんは旅行者か。確かにこの街で奴隷を盗みに入る奴はいるが、大抵は冒険者がどうにかしてくれる。見たこともない魔法と武器を使ったと店主と冒険者は証言しているみたいだが、本当に盗まれたのかどうか怪しいぐらい鮮やかな手口だって話だ」
「見たこともない魔法に見たこともない武器……」
そう言われ、そんな物を使う人の心当たりは一人しかいません。
兄さんの使う武器はこの大陸にある物ではなく、魔法もリアには驚かれる物ばかりです。
ほぼ間違いなく、兄さんが商店の襲撃に関わっていると考えていいでしょう。
「それで、怪我した人は大丈夫?」
「いや、それが怪我人は一人も出ていないとの事だ。冒険者を相手にして無傷で盗みに入るなんて、いったいどんな奴なんだろうな」
「一目見てみたいものね」
「っソルテさん……!?」
どうやら兄さんは誰も傷つける事無く襲撃を終えたようです。
人を傷つける事を極端に嫌う兄さんらしい行動だと思います。
一応他の方にも話を聞きましたが、概ねは初めに聞いた方と同じ内容でした。
夜に襲撃を受け、仮面とローブに身を包み、見たこともない魔法と武器を使って奴隷たちを掻っ攫っていかれた。
そして、同様の事件が他の商店でも起こっている事を聞く事が出来ました。
重要な情報を聞き終えると、私たちはその人込みから抜け出します。
「これで確定」
「そうですね。兄さんは間違いなく奴隷商店を襲撃して回っています」
「これで夜に動く事が出来る。襲撃されてない商店を張ってればいい」
「一人で動くなんて許せません。これはお仕置きしないといけませんね」
私はリアと共に夜の行動計画を練ります。
商店では盗まれたと言っていましたが、兄さんは奴隷たちを逃がしているのではないかと思います。
金庫から持ち出したお金というのも、その奴隷たちに配っているのでしょう。
冒険者ギルドで聞いた登録者が増えたという話。
あれも兄さんが解放した奴隷である可能性が非常に高いです。
兄さんに渡されたお金を持って、冒険者ギルドに登録したのでしょう。
兄さんが夜している事に確信を持つ事は出来ました。
後は私たちがそれに対し、どう行動を起こすのかです。
「ねぇ、渉は私が奴隷堕ちしたからそんな危険な行動を取っているの?」
ソルテが私にそんな事を問いかけてきます。
兄さんのやっている事に自分の存在が影響していると、ソルテは考えているのでしょう。
それは間違いではありませんが、正しいとも私には言えません。
「ソルテとルーナがきっかけになったのでしょうが、兄さんはいずれこのように動いていたと思います。逆に言えば、ソルテやルーナでなくとも、奴隷という存在を目の当りにしたら兄さんは動いていたでしょう。なので、ソルテが気にする事ではありませんよ」
ソルテとルーナの一件はあくまできっかけ。
他の誰かが虐げられているのを見れば、兄さんは間違いなく動いていたと思います。
優しい兄さんの事ですから、それを見て見ぬふりは出来なかったでしょう。
いずれはこうなった事も容易に想像がつきます。
「そう……それで、奏たちも渉と同じ事をするの?」
「はい。私たちはパーティーです。兄さん一人にすべてを背負わせるわけにはいきませんから」
「渉が動いてるなら動く」
「でも、この街の冒険者はとても強いわよ。多分商会も対抗するために多くの冒険者を雇い入れるはず。危険になる事は目に見えているわ」
「だからこそ私たちも動くんです。兄さん一人にそんな危険な事をさせるなんてできません」
たとえ兄さんに拒否されようと私は勝手に動くだけです。
言う事を聞かないと分かれば、兄さんも諦めて行動を共にするようになるでしょう。
隠し事をしていた事、一人で突っ走った事を反省してもらうためにも、私たちは行動に移さなければなりません。
「ご主人様がそこまで言うなら私に止める事は出来ないわ。でも、やろうとしてるのがとても危ない事だというのは知っておいて。今の私には手助けできる事はないけど、出来る事があれば手伝うわ」
「ふふ、ありがとうございます」
ソルテが心配をしてくれている事に、私は少し喜びを感じました。
初めこそ警戒されていましたが、その警戒も少しずつ解けていっているように思えます。
これも、兄さんの誠意の賜物でしょう。
「では、今夜動くであろう兄さんにどう対応するのか、作戦会議を開きましょう。
詰将棋のように詰めに詰め、行動を共にしないといけないような状況を作り出さなければいけません。
そうでもしないと、兄さんは私たちの参加を拒む事でしょう。
私たちは夜の作戦行動を決めるため、適当なカフェに足を運ぶのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます