第XX話 ギルドで情報収集を
「情報集めと言えばギルド。あそこならいろんな情報が集まってくる」
「では冒険者ギルドに行きましょう。とはいっても、昨日の夜の情報がこんな朝早くから出回るでしょうか?」
「この街で噂が広まるのは早いといっても、さすがにそれはないと思うわ。あるとしてデマや推測。ちゃんとした情報が欲しいのなら、夕方辺りに来るのが一番ね」
「では今から念のためギルドに行き、夕方にもう一度行く事にしましょう」
私たちは少し遅れながらも旅館を出て、リアとソルテと共に冒険者ギルドに向かう事になりました。
ルーナは兄さんが起きるのを待つとの事で、寝ている兄さんにイタズラしないように言っておきました。
ルーナに害意はありませんし、もしあってもヴェーラが兄さんの体を操って反撃できるとの事なので、二人きりにしても問題ないでしょう。
冒険者ギルドに着いて向かったのは、多くの冒険者がいる
何故受付なのかというと、いろいろな冒険者の話を聞くであろう受付なら、夜に起こった事を耳にしているのではないかという考えからでした。
美人受付さんの前には数人の列が出来ていますが、アルスさんの前には誰一人として並んでいません。
やっぱり見た目が怖いからでしょうか。
「お前達か。男がいないようだが、野垂れ死にでもしたか」
いえ、見た目が怖いのよりも、この口の悪さが人を寄せ付けないのかもしれませんね。
「兄さんは宿でぐっすりと眠っています。勝手に殺さないでください」
「ふん、随分といい生活を送っているようだな。まあどうするかはお前らの自由だ……で、なんでお前がこいつらについているんだ」
アルスさんは後ろにいるソルテを見ながらそう問いかけます。
「決まっているでしょう。奴隷になった私のご主人様だからよ。というより知ってて聞いてるのよね?」
「当然だ。お前が奴隷堕ちした話はその日のうちに広まったからな。カジノを潰した張本人に買われるとは面白い奴だ。村の奴らには死んだ事にしておいてやろう。ありがたく思え」
「余計な事はしないでちょうだい。村の皆に心配はかけたくないのよ」
「あの、二人はお知り合いなんですか?」
話を聞いていると同じ村の出身みたいですが、私には二人がどういった関係なのかが分かりません。
「俺とこいつは同じアトラスの村の出身だ。知り合いというより腐れ縁といった方が正しいだろう」
「私とこいつは一緒に村を出てこの街に出稼ぎにきたのよ。だからこいつの事は嫌というほど知ってるわ。こんな口調してるけど、誰よりも優しいって事もね」
「黙れ奴隷。殺すぞ」
アトラスというのは確か隣の国ですね。
隣の国からわざわざここまで来たのは、この街がそれだけ稼げるという事なのでしょう。
アルスさんの口が悪いのも昔からみたいですが、いい人なのは察しがついていました。
そうでなきゃ用があれば来いなんて言ってくれませんからね。
「はぁ。こいつの事はもういい。それで、今日は何の用でここに来た。依頼か?」
ため息をつきながらアルスさんは本題に戻します。
そうでした、ここに来たのは情報を集めるためでした。
「いえ、ちょっとこの街の事を聞きたくて。最近この街で何か事件が起きたりとかしませんでしたか?」
「事件?最近大きな事件はカジノが潰れた話があるが、それはお前らがやった事だろう?」
「そうだけど違う。噂話とか、そんな感じの事が聞きたい」
「曖昧で目的が分からんが、噂話と言えば亜種が出現したという話がちらほら出ていたな。ここに来る道中で腐りきった草木を見たという冒険者もいる。国から指示はないが、捜索隊が出るかもしれない事はギルド職員の間でもっぱらの噂だ」
「あ、亜種ですか。それは大変ですね。ですが私たちが知りたいのは街の事なんです。変わった事でも気になった事でもいいんですが、何かありませんか?」
その亜種は兄さんとリアが討伐したと言ったらどうなるのでしょうか。
ただオスマンからも絶対に話すなと言われていますし、ここはあまり触れないでおいた方がよさそうです。
「気になった事か。そういえば今日の朝は冒険者登録をしたいという者がやけに多かったな。普段は一日に数人程度だが、今日は朝だけで一日分の登録をしている」
ちょうど今日の朝ですか。
兄さんが事を起こしたのは昨日の夜なので、タイミング的には当て嵌まります。
これは覚えておいた方がいいでしょう。
「その登録者に話は聞いてる?」
「知らん。知らんが、みすぼらしいのが多かったのは気になっていた。スラムの出なのだろうが、どこかから金を盗んできたのではと疑っている」
「それをギルドは取り締まらないのですか?」
「そういった話はまず衛兵に飛んでいく。依頼があれば動きはするが、その金の出自が分からない以上、今は登録した者に詰め寄るような事はしない。ギルドからしてみれば金になる可能性があるからな」
「即物的ですね」
冒険者になって稼いでもらえばギルドにお金が入る事になります。
経緯がどうであれ、何かしらの依頼がなければギルドは基本的に動かないという事なのでしょう。
とても堅守な企業的発想です。
「あと変わった事と言えは明日に開かれる夜会か。お前らは知らんだろうが、この国では年に一回、有識者を集めて晩餐会を開く国の行事がある。この国の方針が変わる事もある重要な会合だが、お前らには関係ないだろうな」
「そうですね。夜会というのは初耳ですし、国の方針は私たちに直接関係ありませんから」
ただ、夜会という言葉には少し惹かれてしまいます。
貴族のパーティーと言われると少し敬遠したくなりますが、こちらは貴族制もなく人種差別もありません。
きっと獣人でも普通におしゃべりできたりするのでしょう。
お料理を楽しみながら、談笑しながらリアと一緒に楽しんでみたいです。
リアは料理に夢中になってそれどころじゃないかもしれませんが。
そんな妄想をしながらアルスさんから情報収集をし、いつの間にか雑談になっていると気が付いた時にはもうお昼になっていました。
二時間近く拘束していたのですが、それに付き合ってくれるアルスさんは優しい人なのではと思います。
「すいません。ちょっと長話しすぎましたね。そろそろお暇させていただきます」
「気にするな。こっちも仕事がサボれて好都合だった。お前らのようなまともな奴は相手するのが楽でいい」
「そう言ってもらえると嬉しいです」
受付は接客業のようなものですし、変な方もいるので対応も大変なのでしょう。
はたから見れば今の私たちはそれに当て嵌まりそうですが。
「ではこれで失礼しますね。ありがとうございました」
「待て、最後に俺から頼みがある」
私たちがその場を去ろうとすると、アルスさんに呼び止められて私は振り返ります。
アルスさんから頼み事とは、いったいなんでしょうか?
「一応ソルテは同じ村のよしみだ。奴隷とはいえ、あまり酷い扱いはしないでやってくれ」
ぶっきらぼうにそう口にするアルスさん。
しかめっ面ではありますが、言葉からはソルテに対する優しさが感じられました。
「大丈夫です。私も兄さんも、ソルテを奴隷として扱おうなんて思ってませんから」
私は笑みを浮かべながらそう答えます。
奴隷だからといって扱いを変えるような事はしません。
本人の性格が酷ければ相応の対応をしますが、ソルテはとても常識的ですからね。
「そうか。なら何も言う事はない。何をしようとしているかは知らんが、面倒事だけは起こすなよ」
お決まりのように注意を促すアルスさんは、少し安心したような表情を浮かべていました。
やっぱりアルスさんは優しい方ですね。
そんなアルスさんの優しさを感じつつ、私たちは冒険者ギルドを後にしました。
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