第7話 決着です!
「バーストか」
「私もです」
「私は勝ち」
その後数ゲームはブラックジャックが来ることもなく、普通にゲームが進んでいた。
しかし、ゲームが進むにつれ、俺達に有利なような展開となってきている。
『ヴェーラ。Aの数はあと何枚だ?』
『残り三枚となっております。うち二枚はテーブルに置かれたデッキの中。一枚はソルテの持つデッキの中にございます。それに加え、ソルテは小さな数字の使用率が高いため、デッキの中には絵札が多数存在します。60%ほどが10となっていますね』
『普通に考えれば尋常じゃない減り方ですね。ソルテが勝つために多用しているのが窺えます』
『こっちには殆どAが来てない』
『少し揺さぶりをかけるか』
俺は背もたれにもたれかかり、愚痴を吐くようにため息をつく。
「はぁ。俺のとこにはぜんぜんAが来てくれないな。今日はついていないのか?」
「私のところには結構来てますよ?兄さんの運を私が吸っているのかもしれないですね」
「でも一番勝ってるのは渉。凄いと思う」
「流れはいいからな。数ゲームの間ブラックジャックもないし、そろそろ来ると思うんだが……」
「そうですね。今までの経験からすると、私もそろそろ来そうな予感がいたします」
ソルテがそう言いながらカードを配る。
その二枚を見て、ヴェーラが口を開いた。
『渉様。来ました。ブラックジャック成立です。イカサマされてもおりません』
『来たか』
『揺さぶり成功ですね』
『さすが渉』
二人からも喜びの声が上がり、第一段階の関門を突破した。
『ソルテの手札は?』
『絵札が二枚。つまり20です。大賭けをした場合、確実にカードのすり替えを行なってくるでしょう』
しかも、確実に絵札のすり替えを行なってくるときた。
これで第二関門も突破した。
ここで大賭けをすれば、ソルテも後には引けないだろう。
「流れが来てるな。奏、リア。悪いが二人共このゲームは捨ててくれ。俺にすべてを託して欲しい」
「本当に大丈夫?」
「俺を信じろ。俺を信じて裏切られたことがあったか?」
「結構裏切られていると思いますが」
「……いいから信じてくれ」
「まあいいでしょう。兄さんの事を信じる事にします」
「さっきのお返し」
三文芝居で軽く傷つきながら、俺は二人の赤青チップを全て受け取り、それをベッティングサークルに乗せた。
「全賭けだ」
正真正銘の全賭け。
これで、ゲーム前のチップを一度は必ず賭けるというソルテとの約束も達成される。
全てのチップを乗せているのだから、これで向こうも文句は言えないだろう。
カードも数多あり、無謀ともいえるような行為に観客がどよめく。
いきなり全賭けなんて正気じゃない、なんて声も聞こえてきた。
「……本当によろしいのですか?まだカードは残っています。もしこれで渉様が負けた場合、『前約の取り決め通り』、新たにチップを交換していただくことになりますが」
「流れがある今が勝負どころだと判断した。男に二言はない」
「そうですか。改めて確認しておきますが、カードのオープン後、ベットしたものはゲームが終わるまで回収できません。それをご了承の上で、カードをオープンしてください」
「何の問題もない。なぜなら」
俺がカードをオープンにすると、ヴェーラの言った通り、AとJが姿を現す。
「今の俺には流れがあるからな」
全賭け後のブラックジャック成立に、今日一番の歓声が会場を揺らす。
ソルテは表面上冷静を装っているが、内心で焦りまくっている事だろう。
何せ初めて始めのベットで全賭けしたのだ。
予想外の一撃に、ソルテはブラックジャックを成立させ後悔しているはずだ。
「今の兄さんからは厨二的なオーラを感じます」
「……少しぐらいカッコつけてもいいだろう」
奏の一言で出鼻を挫かれた感があるが、いつもの事なのであまり気にしないでおく。
「まさかブラックジャックとは……この大勝負、負けるわけにはいきませんね」
じっと睨みつけるように俺を見るソルテ。
初手大賭けは衝撃が大きかったようだ。
「このゲーム、私たちは見守る事にしましょう。横槍を入れるのも野暮ですからね」
「うん。渉、期待してる」
「任せておけ」
一対一の対立となり、会場はさらにヒートアップする。
ここでソルテがミスをしてくれればいいが、そこはプロとしてあり得ないだろう。
ソルテは一つ大きく息を吐き、心を落ち着かせている。
「それではオープンします」
デッキの上から手が伸び、カードに手が差し掛かる。
何をしているかはた目からは分からない。
だが、
それを見た瞬間、俺は勢いよくソルテの手を掴み、テーブルに押し付ける。
魔法によって強化されたそのスピードにはソルテも対応できず、何が起こっているか分かっていないというような表情を俺に向けた。
そして、何をされているか認識した瞬間、ソルテは手を振りほどこうと必死になるが、冒険者として活動してきた俺の力には遠く及ばない。
「おい貴様!ディーラーの手を離せ!」
「動かないで」
成り行きを見守っていた管理人だかの男が俺の行為を止めに入ろうとするが、リアが先回りをしてその男の止めに入ってくれる。
突然の出来事に観客には動揺が広がっており、何が起きているのかを把握しているのは俺達三人しかいない。
「なんで俺が止めに入ったか、理由はソルテが一番分かっているよな?」
「……分かりません。ディーラーに手を上げる事は禁止行為です。今すぐに離してください」
「言い逃れすればするほどきつくなるぞ?今のうちに白状した方がいいと思うが」
「……」
ソルテは話す気がないのか、口を開こうとしなくなった。
言わなければ解決すると思っているのだろうか。
だが、決定的な証拠を掴んだ以上、俺も食い下がる気はない。
「今この手の中にはカードが一枚あるはずだ。逆に言えば、本来なら一枚しかあってはならない。ブラックジャックで初手に配られるのは二枚。そのうち一枚はこの隣にあるんだからな。だが……」
俺がもう片方の手で何も持っていないことを観客にアピールし、その手の中のカードを抜き取ろうとすると、ソルテは掴まれていない方の手で抵抗しようとする。
「哀れですよ。おとなしく観念しなさい」
しかし、その抵抗も虚しく、奏によりもう片方も拘束された。
俺は手に隠れていたカードを取り出し、それを観客にアピールする。
そこには二枚のカード。
本来そこに置いてあった絵札と、すり替えようとしていたハートの2だった。
「ソルテは自分に配られているカードを把握し、俺には勝てないと踏んでカードのすり替えを行なおうとした。この手の中にあった二枚のカード、それが証拠だ」
ディーラーがイカサマをしていたという事実に、観客にどよめきが広がっていく。
「さらにソルテは、大勝負を賭けたプレイヤーが有利に働かないよう、配るカードも調整していた。その手際は見事な物だ。ここにいる観客が誰も気が付かないくらいに鮮やかだったからな。初めはそのイカサマも控えめだったが、ばれてないと踏んで通常運転に戻ったな?残念ながらそれもすべて分かっていた。だからあんな条件を提示したんだ。そうでなければあんな条件は提示しないと、もっと早くに気が付くべきだったな」
行なっていた行動が明るみになり、ソルテはその場に崩れ落ちた。
イカサマが真実であったと明らかとなり、観客からは罵声と怒声が飛び交っている。
ところどころで乱闘騒ぎが起き、店の従業員がそれを止めようと必死に対抗している。
今まで積み上げてきた信用が、一気に崩れ落ちているのがありありと分かった。
管理人と思われる者も同様に膝を落としており、周囲の観客から非難を受けている。
「イカサマをしていた事が明るみになったわけだが、何か言いたいことはあるか?」
俺は崩れ落ちているソルテに問いかけた。
絶対ばれていないという自信を打ち砕かれた反動か、ソルテは覇気のない声で俺に疑問を提示する。
「……貴方達はなぜ、自分の手元にあるカードが分かっていたのですか?大賭けした時は必ずブラックジャック。分かっていなければそんな博打、打てるわけがありません。貴人方も、何かイカサマをしていたのではないのですか?」
「プレイヤーにカードの操作をすることが出来ないのは分かっているだろう。俺達がやっていたのはカードの記憶。カードカウンティングより確実な、絶対に勝てる必勝法を使っていただけだ」
「……はは、前の卓をまじまじと観察していたのはそれが理由ですか。カードが再利用されることを利用したという事ですね。500枚以上あるカードを記憶する、そんなことが出来る人がいるなんて思ってもいませんでした」
まぁ実際にやってくれていたのは俺でなくヴェーラなのだけど。
これはヴェーラがいてくれたから出来た力技なのだ。
「ソルテの敗因を教えてやる。お前はいつでもイカサマできるからと高を括り、自らの手に執着しなかった事だ。後から揃えればいいという考えをしていたのだろうが、それが甘い。自分の技術への絶対的な自信と客を舐めた態度が仇となったな。次やる時は手を抜くことなくやる事だ」
その言葉に、ソルテはがっくりと頭を落として動かなくなる。
次やる時はなどといったが、ここまですればもう二度とイカサマなんてしなくなるだろう。
少なくとも、もうこの街でイカサマは出来なくなるはずだ。
「これ以上はディーラーもゲームの続行が出来ないと判断致します。申し訳ありませんが、お引き取りの方をお願いします」
男の発言にさらに非難が集中する。
そんな観客に俺は手を上げ、まぁまぁと落ち着くよう呼びかけた。
イカサマを見破った張本人であるからか、観客は素直に俺のいう事を聞いて静かになってくれる。
それを確認し、俺と奏とリアは再び席につく。
「ゲームは続行だ。さっきソルテが口にしていたな。『前約の取り決め通り』、『何があっても』カードがなくなるまでゲームはしてもらうぞ」
俺の発言に男の表情が絶望に染まり、観客からは歓声が沸く。
出てくるカードが全てわかっている相手に、ギャンブルという物は成立しない。
それは一方的な搾取だという事に、男も気が付いているのだろう。
あの表情を見るに男は管理人のようだし、それは重々承知しているはずだ。
「ディーラーの変更は許可しよう。だが、カードはそのままだ。それが取り決めなんだから当然だろう。それと、俺達の白金貨を持ち逃げしようとしないでくれ。何をするか分からないし、ゲームが終わるまでお前にはこの場にいてもらおう。他の従業員との接触も禁止する」
ここで男を見逃すというのは、優しさなどではなく放任というものだ。
それを許してしまえば男は同じことを繰り返すだろう。
それで理不尽に不幸となる人間が出てくるのだ。
徹底的に追い詰め、今後二度とイカサマをさせないようにさせる。
「さあ、ゲームを再開しようか」
俺はその男に対し、柔らかな笑みを浮かべて宣言した。
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