第XX話 リアの弱音

「亜種相手に渉だけじゃ……」

「動かないでください!そんな状態では兄さんの足手まといになるだけです!おとなしく治療を受けてください!」


 リアが自らを省みず兄さんの元へ行こうとするのを、私は単独回復ヒールをかけながら止めに入ります。

 リアの体はボロボロでところどころに裂傷ができ、内臓もやられていて右腕と左足が完全に折れ曲がっていました。

 こんな状態でまともに戦闘できるはずもありません。


「時間は少しかかりますが、これなら絶対に回復します。助けに入るなら回復しきってからにしてください」


 兄さんの一件で、たとえ内臓が破裂していたとしても治療できることは確認済みです。

 内臓が戻せるのなら、骨が折れたぐらいなら回復できるでしょう。


「うっ……」


 私はその腕と手を正しい位置に戻すと、痛みからリアがうめき声を発します。

 その事に私は謝りながら、攻撃を受けた個所だという内臓と折れた部分を集中的に治療します。

 兄さんの時はどれほどかかったか覚えていませんが、この様子を見ると十分もあれば治療は完了するでしょう。


「やっぱり私がいると、皆が不幸になる。一人でいる時は何もなかったのに、渉と奏とパーティーを組んでから、危ないことがいっぱい増えた。やっぱり私は一人でいないとダメ」


 何を思ったのか、リアは涙を浮かべながらそんな事を呟きます。

 亜種という強大な敵と戦い、動けないような状態になってしまった事で弱気になってしまっているのだと感じました。


「そんなことはありません。私達はリアとパーティーを組んだことで楽しい毎日を送れています。リアも知っているでしょうが、私も兄さんもリアが大好きなんです。私も兄さんんもリアといれて幸せなのに、リアが一人でいる必要なんてないじゃないですか」

「でも、私のせいでこんな状況になってる。今までと同じで、皆苦しんで、私は何もできなくて、渉はたった一人で戦って、皆死んじゃうかもしれない。私は災厄を呼ぶ。私がいなければ、こんなことにならなかった」

「そんなのただの偶然です。それに、兄さんもここにいる全員も絶対に死なせません。救済者プリーストとして、必ずここにいる全員を救ってみせます。だから、リアが自分を責める必要はないんです」

「偶然なんて言えない。奏たちとパーティーを組んで三回。たった一か月の間に三回もワイバーンと遭遇するなんてありえない。何か悪いものを私が呼び寄せてるとしか思えない」

「リア」


 私は弱気になっているリアを強く抱きしめます。

 少し冷たいリアの体温からは、その心が冷えているように感じました。

 私はその心を温めるように、ぎゅっと力を入れてささやきます。


「リアは災厄の黒猫ブラックディザスターだとかいろいろと言われていますが、それは全部他人が勝手に言っているだけです。魔物なんていつ現れるか分からないもの。それを自分のせいにする必要はないんです。私たちはリアがいて不幸だなんて思ったことは一度もありません。兄さんもそんなこと思っていないでしょう。もしそう思っていたら、王女様にあそこまでして取り合ってなんてくれないでしょう?」

「……うん」

「ほかの誰が何と言おうと、私たちはリアの味方です。もし本当にリアが魔物を呼び寄せているとしても、私たちなら乗り切れます。なんなら兄さんに全部任せて投げ出してしまってもいいんです。兄さんに任せれば大抵のことは何とかしてくれますから」

「そんな事言ったら渉も嫌だと思う」


 リアの声がいつものトーンに戻ってきました。

 傷もだんだんと癒えてきて、心にも余裕が出来たのかもしれません。


「兄さんは頼られるのが好きですから問題ありませんよ。嫌がる素振りはしていても、心の底では喜んでいますから。だから何もできないなんて言わず、出来ないことは私たちに投げ出してください。前までは私たちがリアに頼りっきりでしたが、今なら私たちも力になれますから」

「うん。そうする。ありがとう奏」


 強く私を抱き返すと、リアはすぐに私から離れて立ち上がりました。

 残るぬくもりは暖かく、これならリアも大丈夫でしょう。


 傷も完全に癒えたようで、その眼には兄さんを助けるという強い意志が込められています。


「兄さんの魔法は強力ですが、攻撃に特化したものではありません。亜種を倒すには必ずリアの力が必要になります。兄さんの事は任せましたよ」

「任せる。もう二度と殺させたりしない」


 そう言ってリアは兄さんの元へと駆け出しました。


 私も行きたいですが、ここにいる方たちを放ってはおけません。


 私は兄さんとリアの無事を祈りながら、亜種にやられた方たちの治療に戻りました。

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