第55話 炸裂弾

 俺はここにいる人達を巻き込まないよう、誰もいない草原へと瞬間跳躍ワープした。


 亜種の敵対心ヘイトは完全にこちらを向いており、瘴気を周囲にまき散らしながらこちらに突進してくる。


『リアは上空からできる限り強力な電撃魔法を浴びせ続けてくれ。こっちがタイミングを合わせて攻撃を仕掛ける』

『分かった』


 天空翔破フライで上空に待機するリアから、大質量の電撃魔法が亜種へと直撃する。

 それに合わせ、俺は亜種の口の中を狙い弾幕を張った。


 外部は厚い外殻に覆われていてダメージは少ないが、外殻に覆われていない体内なら亜種でも大きなダメージを与えることが出来る。

 上手く電磁プラズマ弾と化した弾丸をねじ込むことが出来れば、いくら亜種でも耐える事は不可能なはずだ。

 しかし、狙いを口に絞ったのはいいが揺れ動く口の中に弾丸が入ることはなく、全てが逸れて外殻にのめり込んでいく。


 先ほどまでは僅かながらでも悲鳴を上げていた亜種だが、今は激昂状態にあるためか、雄たけびを上げながら迫ってくる。


「狙いをつけるのは難しいな」


 俺は瞬間跳躍でその場から撤退し、亜種の突進を避けきる。

 本来ならぎりぎりまで引き付け正確に狙いを定めて発砲したいが、亜種の周りには猛毒の霧が常時体か噴き出ており、全くと言っていいほど近づくことが出来ない。


 せっかく攻略法を見出したというのに、それを実行できないもどかしさに焦りが募る。


 今の激昂状態が切れ、いつまた王女の元へ向かうか分からない。

 早々に決着をつけなければならないというのに、これでは時間だけが過ぎていく。


 幾度となく攻防を繰り返し、俺は亜種が全くブレスを使ってこなくなったことに気が付いた。

 もしかして、あいつはダメージを喰らわないように口元を保護しているのではないだろうか。

 そうなると非常に面倒なことになっている。

 唯一の弱点である口の中を晒さないとなると、こちらの攻撃はほとんど通らない物ばかりになってしまう。

 長期戦になるのは必至で、それはこちらに何のメリットもない。


 口以外に何か攻略法を探さなければならないだろう。

 しかし、外殻の継ぎ目を狙うのは非常に困難であるし、翼にも幾度となく電磁弾は命中しているがもげる様子もない。


 どうすればあれに大きなダメージを与えることが出来る?

 近づくこともできない、外殻には大きなダメージも入れることが出来ない、唯一の弱点である口も警戒されて開かない。


 いったいどうすれば……。


『渉にこれをやろう。大型の魔物ならば、この銃弾は役に立つはずだ』


 俺の脳裏に、護衛依頼の前日に行なわれた神奈とのやり取りが思い出される。

 俺はそのやり取りの中で渡された物の一つを次元収納ディメンションボックスから取り出した。


『この弾は通称ダムダム弾。元はライフル銃に使われていたものだが、それを転用してカンナM9P用に作り替えたものだ。これは通常弾とは異なり、弾頭の部分が鉛とアルミニウムで作られている。鉛という物は柔らかく、目標に命中すると変形して多大なるダメージを負わせることが出来る。簡単に言ってしまえば、体内で散弾がまき散らされるようなものだ。少しでも装甲を抜くことが出来るのなら、ワイバーンといえどその痛みに耐える事は出来ないだろう』


 取り出した弾倉マガジンの中には見慣れない弾頭の弾が込められている。

 これが神奈に渡された、通常弾プレーンとは違った新しい弾丸。


『この弾丸は現在では全く使われなくなったが、私が改良に改良を重ねて作り出した渾身の一作だ。目標に命中して少し経つと、目標内部で爆発を引き起こす炸裂弾バーストバレットにもなっている。そのため、目標への加害効率はそこいらの弾とは比較にならない。実験データからは、人間の胴体に当たった時点で致死率が9割を超えるという非常に危険な弾だ』


 その弾丸の先には剣のような先端の尖った物が同心円状に並べられ、中心部分はぽっかりと空いている。


『だが、それゆえに絶対に使い方を誤るな。一つ使い方を誤れば無関係の人間を巻き込む事になる。これを使うのは大型の魔物の時だけ、特に、周囲に誰もいない状況でしか使用することは許さん。基本的には普通の弾丸で対応をし、どうしようもなく追い込まれた時、打開策が何も見つからない時にだけ使用しろ。お前の事は信頼しているが、それぐらい危険な弾だという事を頭に入れておけ』


 この弾は非常に危険な弾だと神奈に釘を刺された。

 渡された時は絶対に使えない弾だと考えていたが、今はそうもいっていられない状況だ。


 幸いにして周囲には誰もおらず、相手は大型の亜種が一匹だけ。

 奏はまだ治療の最中だから来ることはないし、リアは上空で十分な距離を取っている。

 神奈の使用条件はぴったりと揃っていた。


 俺はその危険な炸裂弾の入った弾倉を再装填リロードする。

 使用するのは怖いが、今はこれしか頼れるものがない。


『リア、一度だけタイミングを合わせてくれ。それと、少しの間こちらに絶対に近づくな。下手をしたら巻き込まれる可能性がある』

『何するの?』

『小学生みたいな科学者からの贈り物を試してみるだけだ』

『とりあえず分かった。こっちはいつでも撃てる』

『なら次の突進を避けたらいくぞ』

『うん』


 俺は迫りくる亜種の突進を完全に避けきる。

 そしてその直後、リアによる電撃魔法が亜種に浴びせられた。


「効いてくれよ!」


 俺は必ず炸裂弾が当たるよう、胴体に向かって銃を連射フルバーストする。


 効果がなければ、亜種は関係ないとばかりにこちらへ襲い掛かってくるだろう。


 少しでも装甲が抜ければ神奈はいけると言っていた。

 今はその言葉を信じる他にない。


 俺の放った弾丸は全て亜種に命中した。

 電磁弾となった炸裂弾は亜種の装甲を貫き、その内部へと到達する。


 そして、通常弾にはない炸裂音がした後、亜種は悲鳴のような咆哮を上げて、初めて地面に倒れ込んだ。

 炸裂弾が威力を発揮したのだ。


『渉!』

『ああ!いけるぞ、この弾丸なら!』


 ようやく見出したまともな希望に、俺とリアは喜びの声を上げる。

 あれだけのダメージを与え続けることが出来るのなら、討伐することは可能なはずだ。


 今までとは希望の度合いが段違いで違う。

 怯ませることも可能で、装甲も何とかなるのだ。


 ここにきて俺達は、ようやく勝機を見出すことが出来たのだった。

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