第44話 大きいのが好きですか?
「ふぅ……とりあえずこれで終了だな」
俺は左方に現れた最後の魔物を狩り終え一息ついた。
崩れかかっていた陣も持ち直し、魔物によって作られた穴はなくなっている。
「助かった。それにしても凄い武器だなそれは。そんなコンパクトな殺傷能力のある武器は見たことがない。弓でもないし毒でもないし、それも魔法の一つか?」
「これは魔法じゃない。中で火薬を爆発させて鉄の球を勢いよく飛び出させているだけだ。分かりやすく言えば、小さな大砲みたいなものだな」
俺は助けに入った冒険者の問いにそう答える。
マスケット銃は見たことがなくても、大砲を知らない冒険者はなぜだかいない。
銃の質問を受けた時は、大砲を引き合いに出すと理解されやすいのだ。
「へえ……見たこともない魔法に加え、見たこともない武器も使う。噂ではちょっと怖かったが、話してみるとそうでもないな」
「そうでもないぞ?王女様だって敵に回すからな」
「そりゃ怖い。やっぱり近づかないでおいた方がよさそうだ」
冗談だと分かってくれたのか、冒険者は笑いながら両手を上げた。
冗談が分かる人間でよかった。
これで冗談と受け取ってくれなかったら、単純にただの危ない奴になるところだ。
ただ、噂では俺が恐怖の対象として見られているらしいという事を知り、少し落ち込んだのは心にとどめておく。
「じゃあ俺は陣の方に戻る。また陣が崩れたら助けてくれ」
「当然だ。それが遊撃の仕事だからな」
そう返し、持ち場に戻る冒険者を見送ると、俺は瞬間跳躍で馬車へと戻った。
馬車にはターニャ一人しかおらず、他の遊撃手は出払っていることが見て取れた。
「お疲れ様~。どう?遊撃手も大変でしょう?」
「思った以上にやることがあるな。街から離れるにつれ、どんどん魔物も増えている。常に気を張っていないといけないのは想像以上に辛い」
いつもの呑気な
これを一週間も続けるとなると、なかなかに気が重くなる。
『マスター。王女様の馬車が停止いたしました。本日はここで野宿するようです』
『そういえばもう日も暮れ始めているな』
俺は少し赤らみ始めている空を見る。
暗くなってからではテントを張るのも満足に出来ないし、早めに移動を切り上げるのだろう。
俺が王女の乗った馬車が止まったことを伝えると、それに合わせてこちらも停止した。
本当にここで一夜を過ごすのか、伝令が親衛隊に確認を取りに行く。
「渉君に感謝してるわ~?初日とはいえ、今まで私が援護に回らなかった日は一度もないんだから~。今日私が一日出撃しなかったのは、渉君のおかげよ~。ありがとね~」
そういってターニャはべたべたと引っ付いてきた。
感謝されるのは非常に嬉しいが、こうも引っ付かれると気が気でならない。
主にそのたわわに実った胸のせいで。
「あの、抱き着くのをやめてもらっていいか?」
「え~?なんでよ~?
「いや、精神的に持たないというかなんというか……」
「?もっとやってほしいの~?」
「誰ももっとやってほしいなんて言ってない」
「あ、揉みたいの?少しぐらいならいいわよ~」
「なんでそうなる!」
「きゃっ!」
俺が大きな声を出すと、なぜかさらにくっついてくるターニャ。
やめてくれと言っているのにそれ以上の事を提案するなんて、いったい何を考えているのだろうか。
「じー」
「……リア、いたなら声をかけてくれ、というか助けてくれ」
いつの間にか背後にいたリアに気づき、俺は助けを求める。
これが神奈だったら引き剝がせるのだが、ターニャにやられるとなぜか体が動かなくなってしまう。
これは一種の魔法なのではないだろうか。
「渉はおっぱいが好きなの?」
「否定はしないが勘違いを生みそうだからやめてくれ!こんなところを奏に見られたらどうなるか……」
「私が何ですか?」
こちらもいつ戻ってきていたのだろう。
声のする方を見てみると、ターニャの背後に、にっこにこな奏の姿が確認できた。
あの表情の奏はまずい。
俺の中の経験が警鐘を鳴らしていた。
あの笑顔を見せたときの奏はもう堪忍袋の緒が切れていると……。
「兄さんはそんなにおっぱいが好きなんですか!私じゃ満足できませんか!ならいっそおっぱいと結婚しちゃえばいいんじゃないですかね!」
「かっ、奏っ!苦し……っ!」
そう言いながら奏は俺の背後に周り、チョークスリーパーをかけてくる。
俺は必死にタップをしてギブアップ宣言をするも、奏はそれを解こうとしてくれない。
意識を失うか失わなないか絶妙な力加減でかけられる地獄の苦しみに、俺は耐えるしか選択肢がなくなっていた。
「奏、渉苦しそう」
「いいんです!兄さんはターニャさんのおっぱいに惑わされているんですから、これぐらいやらないと目覚めません!」
「お前もっ……惑わされていたじゃないか……!」
「兄さんは黙っていてください!」
そう言いながら、奏の腕に力が入ったのを感じる。
ぎりぎりで意識を保っていたというのに、こうなってしまっては、もうどうしようもない。
なんて理不尽な。
そう思いながら、俺の意識は奏に刈り取られてしまった。
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