第37話 閑話その1、です!
護衛依頼まで残り一週間を切った頃。
俺とミアは、以前話題に出た飛行魔法の開発を行なっていた。
この魔法の開発を始めて三日目に突入したが、なかなか手掛かりすらも掴めない状況に、俺もミアも少し疲れが見え始めている。
「私が扱える程度の風では、体を浮かす事すらできませんね……」
風魔法を習得したミアはその力で体を浮かそうと頑張っていたが、酷いオーナスの付いた補助適正の風魔法はそよ風程度にしか作用せず、全くと言っていいほど使い物にならなかった。
もし風に乗れたとしても、人の体を浮かせるほどの暴風をどう制御するんだという疑問はあったが、それは口にしていない。
今は開発期間、いろいろと試すことが重要なのだ。
「重力はイメージが湧くのになぜか浮かせられない。空気を固める方法も駄目。ジェットのようなものをイメージしても火力が足りない……」
俺もいろいろと試してはいるが、どれにも手ごたえがない。
重力が最も最有力だったのだが、重力ほどの強い力は制御できないのか、うんともすんとも言わなかった。
何とかして手掛かりだけでも掴みたくはあるが、今の俺ではその手掛かりにすら届かない。
「飛行魔法は私達にはまだ早いという事なのでしょうか」
ミアがそんな弱気な事を口にする。
が、こうも何もないと、弱気になってしまうのは俺も同じだ。
「そうだな……一旦時間をおいて再挑戦するのが一番いいのかもしれない。雲すらつかめないようなこの状況じゃ、いくらやっても同じ気もするしな……」
「では別の魔法を?」
ミアがそう提案するが、今の弱気を引きずってほかの魔法の開発をしても、あまりいい結果は得られないような気がする。
弱気になった原因、重力が操れなかったという事実をどうにかしなければ、この心を克服することはできないだろう。
「なんだか今考えてもいい魔法は出来なさそうな感じがするんだよな……」
俺は開発を放棄し、体を投げ出して芝へと身を委ねた。
見上げるとそこには青々とした空が広がっており、些細な事を忘れさせてくれる。
青く、広く澄み渡ったこの空は、汚れきった空気では感じられない程に美しい。
流れる雲は穏やかに、包み込む空は雄大に、見ている者を包み込んでくれる。
もうこのまま、何もせずに一日過ごすのもありかもしれないな……。
「なーにを寝転んでいるんだ渉?」
そんなことを考えていると、視界の端から神奈が覗き込むように姿を現した。
背中には何か長い袋のようなものを背負い、クーラーボックスを片手に持っている。
いつもの白衣を着ておらず、ワンピースのような服に身を纏っていた。
白衣を着ていてもそうだが、白衣を着ていないと本当に小学生にしか見えないな。
「魔法の開発が手詰まりでな。神奈は珍しくどこか行くのか?」
「珍しく、な。私は兵器の開発が煮詰まったんだ。ちょうどいいし、気晴らしに釣りにでも行こうと思ってな。お前も来るか?」
苦笑しながら横に座り、頬をつついてくる鬱陶しい神奈に、俺は抵抗する気もなくなすがままにされる。
「釣りか。たまにはそんなのも悪くないかもしれないな」
「じゃあ渉もついてこい。ミアも来るか?」
「いえ、私はやらなければいけないことがあるのでご遠慮させていただきます。ですが、今から釣りに向かわれるという事は、お昼はどうされるのですか?」
「ん?ああ、そういえば昼の事を考えてなかったな。まあ昼ぐらい食わなくても死にはしないだろう」
「いけません神奈様。食事は生きるために必要な事です。今すぐに用意いたしますので、少々お待ちください」
そういってミアは屋敷の中へと姿を消していった。
外でも食べられるような昼食を用意してくれるのだろう。
そういうところに気が回ってすぐに動いてくれる辺り、本当によくできたメイドさんだ。
「別に食わなくてもいいんだがな私は」
「俺は食いたいぞ。というか神奈。昼食もなしに人を巻き込んで殺す気かお前は」
「別に殺す気はない。というより本当に腹が減ったら、どこかで買って食えばいいだけだろう」
「ミアに断りなく行こうとしていたようだが、財布は持っているのか?」
「……そういえば持ってなかったな」
はっはっはと笑う神奈に、俺は深くため息をついた。
兵器開発なんて繊細さがないと出来ないだろうに、こんな大雑把な性格でよく勤めていられるなと思う。
仕事とプライベートは別という事なのか、仕事の反動で私生活が雑になっているのか。
どっちにしろ、普段の神奈からは仕事の作業風景が想像できない。
まあ問題なくやっているようだし、俺が気にすることでもないか。
一度忘れ物があると言い、屋敷に取りに行った神奈が戻ってきて少し経つと、ミアがバスケットを持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちらの中に昼食と飲み物が入っております。釣りの合間にお召し上がりください」
「ありがとう、ミア」
俺は立ち上がり、ミアからバスケットを受け取る。
何が入っているか気にはなるが、昼の楽しみとしてとっておこう。
「よし、じゃあ行くぞ渉!」
「おー!」
なぜかテンションの高い神奈に合わせ、俺もこぶしを振り上げる。
釣りをするのは小学生以来のような気がするな。
久々の釣りに俺は少し期待をしながら、ミアの見送りを背に屋敷を後にした。
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