第31話 元気そうで安心しました
俺と奏はリビングに集まり、ミアの用意してくれた軽い飯にありついた。
量が少ないと思ったが、三日も食べていないのにいきなり食べさせると体に悪いとのことで、俺は我慢してその飯を美味しくいただく。
食事をとった後、神奈とミアと共に、この三日間で何か変わった事がないか詳しく聞いた。
リアは昨日から屋敷に来ていないらしいが、何事もなく生活できているようで安心したところだ。
「幸い、私達が足止めをできたおかげで、初めの爆発以外での死傷者は0。あの後王国の憲兵隊がダヴィードを追いましたが、空を飛ばれてはどうしようもなく、再発見することはできなかったそうです」
「加え、魔王軍の手先が現れたことにより、アクロポリス内での警備状況に大きな変化が生まれました。以前にもまして憲兵隊の見回りが強化され、現在王城への入場は規制されており、アクロポリスからの出入りも制限されている状況です。王城への入場規制は分かりませんが、アクロポリスからの出入り制限には市民から不満の声が高まっており、こちらはすぐに解除されることでしょう」
「そんなことになっていたのか。まあ街中で魔物が現れたらそんな騒ぎにもなるか」
ある程度の事情を聴き、俺はダヴィードが現れたことで街がどう変わったのかを把握した。
市民には動揺が広がっているものの、一般の生活は概ね平常通りらしい。
変わったのは王国の警備体制が強化されたぐらいで、これといって特筆する点はなさそうだ。
「俺は寝ていたから分からないが、取り調べなんかは受けたのか?」
「はい、私とリアの二人が受けました。紋章の話は伏せ、突然現れた魔王軍の手先の足止めをしたと誤魔化してあります。ダヴィードに関しては詳しくお話しましたが、それでよかったですよね?」
「ああ、助かる。紋章の話をしたら、どうなるか分かったものじゃないからな」
この紋章を知られると、王国がどういった対応を取ってくるか全く予想が出来ない。
ダヴィードがこの紋章を目的にこの街へ現れたと知られれば、俺はこの街を追い出される、または王国に捕らわれる可能性もある。
他人の手によって生活基盤を崩されるのは非常に厄介で、こちらの行動にも制限がかかってしまう。
そうなることは避けたかったので、奏の対応は現状での最適解だ。
「もうこの街に来ることはないと言っていましたが、本当にもう来る気はないのでしょうか?」
奏が不安そうに疑問を投げかける。
ダヴィードは去り際に、偵察でもう街には来ないと言っていた。
それが本当なのかを気にかけているのだろう。
「ダヴィードの本当の目的が何なのかはっきりしていないからな……本当に来る気がないのか、
あれを相手にもう一度戦えと言われても、俺達には時間稼ぎをするぐらいしかできることがない。
それに、ダヴィードは俺達にその身一つで挑んできたが、上空にはまだ竜が待機していたのだ。
あの竜と連携を取られていたら、今頃俺達はここに生きて帰ってこられていないだろう。
「それにしても
神奈が興味深そうに俺達に問いかける。
ダヴィードの目的も魔王の狙いも謎のままだが、それに関しても気になるところだ。
「顔の半分は鉄のような金属に覆われていたし、ぱっと見は本当に人造人間っぽかったな。力も人間の持てる比でなく、明らかに常軌を逸していた」
「
「あったのは血肉と鉄のような塊だけで、機械らしいものは存在しなかった。それ以前に、この世界では人に埋め込むほどの機械なんて存在しないだろう」
「それもそうだな。それ以外に一つ気になるのは、いくら攻撃しても回復をしてくるという点か。体に無数の風穴を空けてもすぐに復活したというのだから、これもやはり人間業じゃない。人造人間だからと言って納得できるものでもないが」
「あれを討伐できるビジョンが全く浮かばない。あんな魔物がいると知った以上は、どうにか対策を立てたいんだが……」
鎧を無力化してからの銃の火力は、十分ダヴィードにも通用していたように思える。
だが、痛覚を自在に操ることが出来るのか、一度倒れてからのダヴィードはノックバックなど一度もせず、治癒能力に任せてこちらの攻撃を無力化してきた。
あれでは隙を作ることはおろか、討伐なんて考えるのも憚られてしまう。
あいつと戦わないのが一番の対策になるが、相対したら戦わないわけにはいかないだろう。
「ホムンクルスですか……」
「何か知っていることがあるのか?」
神妙な面持ちで呟くミアに、俺は何かを感じて問いかける。
今は何でもいいからダヴィードに関する情報が欲しい。
役に立つにしろ立たないにしろ、情報量は多くて困る事はないからだ。
「はい。以前、私の過去をお話した際、父が第二王子を守りきれず、第二王子が左足を失ってしまったという話を覚えておられますか?」
「覚えてる。確かその件で、ミアの親父さんは親衛隊から除名されたんだったな」
本来ならば処刑されてもおかしくなかったが、その王子自らの申し出で許されたという話だったはずだ。
「その通りです。そして、その時敵対していた魔物というのがダヴィード……つまり、渉様達が戦った
「第二王子の左足を奪った相手と、俺達は対峙したってわけか」
第二王子の親衛隊という事は、王国でも選りすぐりの実力者達が集まっているはずだ。
その実力者達を相手に生き延び、第二王子を負傷させるまで迫ったという事は、ダヴィードにそれだけの力があるという事を裏付ける。
手加減されていたとはいえ、そんなものを相手によく生き延びられたものだ。
「そのようです。そして、これは父から聞いた話ですが、そのホムンクルスは何故か竜をかばいながら戦っていたと聞きました」
「竜を?」
「はい。ブレスを吐く竜を先に討伐しようとしたところ、ホムンクルスは竜を一度飛翔させたり、竜が大きな傷を負わないよう立ち回っていたと話していました。足がなくなるのかを嫌ったのか分かりませんが、不可解な立ち回りをしていたのは事実のようです」
俺達と戦った時も、ダヴィードは竜を上空に待機させていた。
竜自体は戦闘に参加していなかったこともあり、手加減されていると思っていたのだが、今の話を聞くと竜に何かがあるように思えてくる。
ただ、ミアの言うように足がなくなるのを嫌っただけかもしれないし、魔王軍の中でも搭乗できる竜というのが貴重なのかもしれない。
ダヴィード攻略の鍵がそこにあるのかは分からないが、頭に入れておいた方がよさそうだ。
「渉様。私達はある一定以上の知能を持つ魔物を魔族と呼んでおります。魔族は単体で一つの町を壊滅できる実力があるとされ、国家を上げて挑まぬ限り、その討伐は不可能と言われるほどです。魔族と出会った時は決して相対そうとせず、生き延びる事だけをお考え下さい。現に、魔族との戦いで渉様は死にかけております。冒険者としての活動を止める気はございませんが、進んで討伐に向かったりしないよう、お願い申し上げます」
条件は付けたりするものの、結果として大体の事は許容してくれるミアが、問答無用で逃げろという。
それほどまでに、魔族という存在はこの世界で恐れられているようだ。
ダヴィードと直接対峙した俺は、それが間違っていないことが分かる。
「そうだな。ダヴィードと戦っても勝ち目がないことは分かる。次に出会った時は、真っ先に逃げることにしよう」
ミアの言うように、魔族と出会ったりしたら無理して戦おうとせず、逃げることを優先して考えようと思う。
また、奏を泣かせるわけにもいかないしな。
最終的に分かったことは少なかったが、眠っていた三日間で何があったのかは把握できた。
ミアに今日明日の休養を言い渡され、その日の有識者会議は幕を下ろしたのだった。
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