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「思ったより遅かったですね。もう少し早く来られると思っていましたが」
目が覚めると、俺はまたよく分からない空間に立っていた。
この空間は過去に一度来たことがある。
アテナと初めて出会った空間と同じものだ。
「俺は死んだのか?」
俺はそこにいるアテナに問いかける。
ダディードの一撃は、俺の命を奪っても何ら不思議ではない攻撃だった。
俺はあれで命を落とし、ここに意識を持って来られたのではないかと不安に駆られる。
「貴方はまだ死んでなどおりません。肉塊に近かったその身体も、今や優秀な妹のおかげで元通りに治っていますよ。安心してください」
「そんな酷い状態だったのか……」
内臓は潰れていると思っていたが、ダヴィードの攻撃で肉塊というほどに深刻なダメージを負っていたらしい。
よく生きていられたな、俺。
「という事はなんでまたここに呼び出されたんだ。死にかけた記念か?」
「死にかけた記念でここに来られては困ります。ここに来られたのは、貴方が条件を達成したからです」
「条件?」
「はい。貴方はアトランティスにある神殿を訪れましたね?それがここに来られる一つの条件となっています」
「という事は、神殿に足を運びさえすれば、ここへ自由に来ることが出来るのか?」
「そういうことです。とは言っても、ここには誰かを呼んだりすることはできません。もともとが精神の世界ですから。ここに来られるのは、紋章を持つ者に限られます」
「なるほどな」
今まで神殿に寄り付きすらしなかったから知らなかったが、俺は神殿に行けばアテナと接触の機会を得られるらしい。
これは覚えておいた方がよさそうだ。
「あ、おい。お前の紋章のせいで魔王軍に目をつけられた。何の説明もなく押し付けやがって。この紋章はいったい何なんだ」
紋章という言葉であることを思い出した俺は、手の甲の紋章を指しながらアテナに抗議する。
この紋章のせいで、俺は魔王に目をつけられてしまった。
この紋章がなければダヴィードは現れず、死者を出すことはなかったかもしれないのだ。
そう考えると、悔やんでも悔やみきれない。
「そうですね、それは世界の秘密に近づくための鍵。それに加え、この空間に来ることのできる者の証、といったところでしょうか。その紋章がアテナ教で強大な力を持つ事は知っているはずです。世界の秘密を探るのに、非常に役に立つものと思いますが?」
「そんな力は必要ない。この紋章があることで回りに被害が及ぶ可能性があるのなら、今すぐにこの紋章を消せ」
「消すことはできません。それに、この紋章があってもなくても、貴方は魔王に目をつけられていたことでしょう。紋章が分かりやすい目印になっただけで、紋章があるから目をつけられたわけではありませんよ」
アテナは俺の要求を否定し、魔王に目をつけられるのは時間の問題だったと言い張る。
俺のどこに目をつけるのかが理解できないが、アテナにはそう言い切るだけの自信があるのだろう。
そんなこととは関係なく紋章は消してもらいたいが、その望みがかなえられることはなさそうだ。
「紋章についてはいい。じゃあなんで魔王は俺を狙ってくるんだ。女神なら、その理由に心当たりがあるんじゃないのか?」
俺は最大の疑問点をアテナにぶつけてみる。
紋章が目をつけられた理由でないとすれば、他に思い当たる節が一つもない。
魔王ほどの相手が、なぜ一介の人間に目をつけたのだろうか。
「それに関して私に答えられる事はありません。それを話してしまっては、面白みにかけるという物です」
「面白みね……」
俺はアテナのその言葉に不快感を覚える。
まるで遊ばれているような、駒として動かされているのではと思わせるような不快感。
そういえば、前回に来た時も似たような感覚を覚えなかったか?
確かあの時は、不快感ではなく恐怖心だった……ような気がする。
記憶が曖昧ではっきりと思い出すことが出来ないが、あまりいい印象をアテナに持っていなかったのは確かだ。
そんな相手に、なぜ俺は親し気に接しているのだろうか。
えも言われないような不快感がさらに拍車をかけ、俺はアテナへの警戒心を無意識に強めていた。
ここにはあまり長居しない方がいい気がする。
「ふふふ。貴方は世界の秘密を探るための一歩を踏み出しました。神殿を回るのは正解です。パルテノン神殿には何もありませんが、他の神殿には世界の秘密を探るための重要な手掛かりが残されています。それを解き明かし、世界の秘密に辿り着くのです」
アテナは不敵に笑い、俺に対してそう告げる。
会話を終わらせようとしているのか、こちらとしては好都合だ。
「分かった。神殿を回ればいいんだな」
「そうです。神殿を回ればいずれは辿り着くでしょう。全てを回れば、貴方はこの世界を理解するでしょう。さあ、行きなさい。この世界の秘密を探る旅へ」
だんだんとアテナの声が遠ざかっていく。
ここに長居したくない俺にとって、それは非常にありがたいことだ。
薄れゆく意識の中、アテナが深い笑みを浮かべた。
「この世界の秘密を知って貴方がどう動くのか。見せていただきましょう」
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