第28話 ダヴィード

「参る」


 その言葉と共に、ダヴィードは俺に向かって一目散に向かってきた。

 鎧を全身に着込んでいるというのに、その重さを感じさせないかのような軽やかさとスピードだ。


「させない」


 リアは間に潜り込み、ダヴィードの大剣と双剣を合わせる。

 腰を折られた形のダヴィードは、リアの割り込みに相手せざるをえなくなった。


「奏!」

「はい!」


 リアが足止めをしてくれているのを受け、俺と奏は左右に散る。

 同じところに固まっていてはあの大剣の餌食になるだけだ。


 奏と射線が被らぬよう移動し、俺はダヴィードに向け銃を向ける。


『魔法は発動済みですマスター。ですが、このままだと鎧による跳弾でリア様に危害が及ぶ可能性があります。リア様に引くよう指示を』

「リア!いったん距離を置け!」


 俺はヴェーラの助言に従い、リアに距離を置くよう指示を出す。

 その指示を受け、大剣を受け流したリアが鎧を蹴りつけ、その反動でダヴィードとの距離を取った。


 蹴りつけられてノックバックを受けた隙をつき、俺と奏はダヴィードに対して銃を乱射する。

 あの鎧の厚さは分からないが、自動拳銃オートマチックでも1,2cm程度の鉄板は貫通させることが出来る。


 あの鎧は全身甲冑フルメイルに似ており、機動性を確保するためにあまり厚い鉄を使用していないように見える。

 もしそうなら、銃の前では鎧は完全な防具としては成立しない。


「ぐっ……!」


 そしてその予想通り、いくらかの弾丸はその鎧を貫通し、ダヴィードはその痛みに苦悶の表情を浮かべた。

 いくらかは鎧に当たる角度が悪く逸れてしまったが、その身には常人なら膝をついてもおかしくない程の弾丸が撃ち込まれている。


 しかし、ダヴィードは少し呻くだけで、あまり効いている様子はない。


「くくく、面白い武器だ。鎧をいとも簡単に砕くとは。その武器を頂戴して、魔王様に献上するのも悪くないな!」


 そして、その顔に凶悪な笑みを浮かべながら俺に対して突進してきた。


「鎧は貫けてもダメージが入らなければ意味がないな」

「銃弾が効かないなんて化け物ですか」

「流石魔王軍の一人」


 俺は弾倉マガジン再装填リロードしながら愚痴をこぼす。


 しかし、やらなければあの大剣に蹂躙されるだけだ。

 大きなダメージが入らないからと言って攻撃の手を止めることはできない。


 ダヴィードは俺にしか興味がないらしく、二人に脇目も振らずにこちらへと向かってくる。

 これは好機だと思い、俺はヴェーラに念を送った。


『ヴェーラ、攻撃の当たる瞬間に瞬間跳躍ワープを。敵の油断を誘い、もう一度攻撃を叩きこむ。奏の射線には重ならないよう注意してくれ』

『イエス、マイマスター』


 俺はダヴィードの攻撃に備え、二人に視線を送る。


 全然動かないことと、その視線でやりたいことを察してくれた二人は、次の攻撃に備えてその瞬間を待つ。

 俺が再装填を終えるとダヴィードは目の前まで迫っており、俺の肩幅ほどあろうかという大剣を振り上げていた。


「余所見をするとは余裕だな!だがもう遅い!」


 大剣が目の前まで迫ってくる。

 ダヴィードの言う通り、本来ならもう避ける事のできない不可避の一撃だ。


 だが、ダヴィードは知らない。

 俺に瞬間跳躍があることを。


「!?」


 ダヴィードの大剣は俺を捉えることなく、地面へと大きな音を立てて激突する。

 その衝撃に地面は大きく抉り取られ、周囲がクレーターのように陥没した。


 瞬間跳躍によりその場から逃げ切った俺は、当たっていたら真っ二つだったと冷や汗をかく。


「ありがとな、上手く誘い込まれてくれて!撃て!」

連射フルオートです!」

衝撃電流インパルス!」


 完全に不意を突かれたダヴィードの体に、銃弾の嵐とリアの電撃魔法が浴びせられた。

 一足先にリアの魔法が威力を発揮し、ダヴィードの体を稲妻が包み込む。


「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ!」


 リアの電撃魔法は神経を麻痺させ、一時的に行動が出来なくなるほど強力な魔法だ。

 時にその威力は魔物の脳すらも焼き切り、一瞬にして絶命まで持ち込むこともある。


 今のリアは全力で魔法を行使しているはずだ。

 いくら魔王軍の手先といえど、リアの魔法を受けて正気ではいられないだろう。


 続いて、一歩遅れて俺と奏の弾幕がダヴィードの体を蹂躙する。

 リアの魔法を直前で受けた弾丸は疑似的な電磁プラズマ弾と化し、多量の熱を持ってダヴィードの体を焼きながら直進していく。


 先ほど打って変わり、その威力の増した弾丸の雨に耐え切れず、ダヴィードはその場に膝をついた。


 そしてそのままダヴィードは崩れ落ちるようにその身を倒していき、ドサリと音を立てて動かなくなる。


「やったのか……?」


 俺は確かめるように呟く。


 ダヴィードの体には無数の穴が開いており、生きていられるような状態ではない。

 あの弾幕がすべて貫通したと考えれば、既にダヴィードは死んでいると考えていいはずだ。


「さすがにあれを受けて生きてはいられないでしょう。ですがまだ……」

「渉、まだ残ってる。気を抜いちゃダメ」

「……そうだ、まだあの竜がいる」


 奏とリアの視線の先には、いまだに空で羽ばたく竜が存在した。


 ダヴィードを倒したといっても、まだ脅威となる魔物は残っている。

 あれをどうにかしない限り、この討伐戦は終わらない。

 リアの言う通り、気を抜ける状態ではなかった。


 俺は竜を睨みつけながら、空高く飛ぶ竜をどう討伐すればいいか模索する。

 竜は主人を失ったのにも関わらず、いまだにこちらを見下ろすようにその場に留まっていた。


 忠実に主の言いつけを守っているのか、単に動かないだけなのか分からない。

 しかし、その竜の口角は上がっており、まるで笑っているような不気味さを覚える。


 なぜあの竜は主を失って笑っているんだ。

 主がいなくなって喜んでいるのか?

 それとも、もしかしてダヴィードはまだ……。


「くく、くはははははは!」


 その嫌な予感を肯定するかのように、背後から笑い声が響き渡る。


 振り返るとそこにはダヴィードが大剣を片手に膝を上げており、全身が血まみれながらも、俺達が与えたはずの傷が全て塞がっていた。


「なんで……!?」

「生き返った……」


 俺は言葉を失い、奏とリアは心の声が漏れ出しているかのように呟く。


 即死級のダメージを受けてなお、何事もなかったかのように立ちあがるダヴィード。


 いったいアイツは何なんだ。

 魔王軍てのはこんな化け物ぞろいなのか?


「魔王様が興味を示されたのも納得だ。まさか僅かに二手で殺されるだなど思ってもみなかった。だが残念だったな。わが身は魔王様より与えられし永遠の肉体。そう簡単に朽ち果てはせぬ」


 ダウィードは大剣を持ち、凶器に満ちた笑みを浮かべる。


 その凶悪な笑みに、俺は心の底から怖気が走った。


「さあ、第二幕の始まりだ」

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