第27話 魔族襲来
「リア、こいつは一体何なんだ。ワイバーンみたいだが」
俺と奏は先行していたリアの元へと駆け寄り、銃を取り出しながら問いかけた。
リアも双剣を構え、臨戦態勢を取りながら相手の様子を
「背中に人が乗ってるから、あれはたぶん
そういうリアの額には汗が滲み出ており、相当まずい相手なのだと自覚する。
竜騎兵という事は、あの竜に乗って自由自在に攻撃を仕掛けてくるのだろう。
地に立つ平面的な戦闘ならともかく、立体的な戦闘で常に上を取られるというのは非常に厄介だ。
上空にいてはリアも直接手出しが出来ないし、一方的に蹂躙されてしまうのが問題だ。
こちらも飛行できればいいが、あいにく俺は飛行魔法を習得していない。
開発を後回しにせず、先に行うべきだったと後悔する。
「兄さん、神殿を出る人達は必ずこの広場を通らないといけません。誰かが足止めしないと、神殿から逃げてくる人達が魔物の餌食になってしまいます」
奏が神殿から出てくる者を見てそう言う。
今は何かを観察しているのか動きはないが、あれが暴れ始めたら確実に犠牲者が出る。
それだけは絶対に……絶対に避けなければいけない。
「今は戦えるのは俺達しかいない。王国が動くまで、冒険者が来るまで、何としてでも俺達が食い止めるんだ。これ以上絶対に被害者を出すわけにはいかない」
先ほどの爆発のせいで、爆心地から吹っ飛ばされた人達が、その身を引きずりながら必死に逃げようとしている。
半身を失いピクリとも動かない者は、もう死んでしまっているのだろう。
その光景を見て、俺は唇を噛み締めながら魔物を睨みつける。
あの魔物の目的がいったい何なのかが、全くと言っていいほど見えてこない。
一度爆撃をしてからというもの、あの魔物は何か仕掛けてくる様子もない。
何かを観察しているのか、全く動きがないというのは不気味で仕方ない。
「くはは、ようやく見つけた」
竜に乗る者からそんな声が上がった。
その声色は男性の物で、竜に乗っている者は男なのだと初めて分かる。
その男は竜の背中を蹴り、俺達と同じ地面へと飛び降りてきた。
着地の衝撃で地面が抉れ、辺りに粉塵をまき散らす。
しかし、あの高さの飛び降りにも関わらず、その男は何事もなかったかのように立ち上がった。
鎧を全身に纏い、その顔には痛々しいほどの縫い跡が存在する。
まるで、鉄と人間を縫い合わせたかのような風貌であり、左目は明らかに人間のそれではなく、人工物だという事が見て取れる。
「我が名はダヴィード。魔王様より作られた、唯一無二のホムンクルスである。アテナの紋章を持つものよ、我と手合わせ願おうか。もしこれを拒否する場合、この街がどうなるか分かるな?」
ダヴィードと名乗った魔物は背負う大剣を引き抜き、戦闘態勢を取る。
今、ダヴィードは俺を直々に指名してきた。
こいつは俺が目的でここに来たのか?
アテナの手先は先に潰しておきたいという事なのか?
もしかして、俺がいたせいで、ここにいる人達は死ななければならなかったのか?
「お前の目的は俺なのか」
俺はダヴィードに問いかける。
「そうだ。我は魔王様の命により、お前を殺すためにここへやってきた。我も目的はお前だけだ」
「……お前は俺をおびき出すためだけに、ここにいた人達を殺したのか」
「別に人間共がいくら死のうと我の知るところではない。だがお前のために殺したのかと問われれば、その通りだと答えるだろう」
「……」
その言葉に、俺の心は締め付けられる。
訳が分からないことだらけだが、俺がいなければ、ここにいる人達が傷つくことはなかった。
ここにいた人達が、死ぬことはなかった。
その事実はあまりに理不尽で、その理不尽さはあの時の事を思い出させる。
三年前、空襲により助けられなかった、母の事を。
俺は銃を構え、戦う意思のあることを示す。
これ以上、誰も殺させないために。
「お前にはこれ以上誰にも傷つけさせない。絶対にここにいる人達を守ってみせる」
「兄さん、手伝います。何と言おうと、私は絶対に手伝いますからね」
「私も。これ以上やらせない」
二人も武器を構え、そう申し出てくれる。
ダヴィードの実力は分からないが、雰囲気からして俺だけでかなう相手ではない。
しかし、二人がともに戦ってくれるのなら、あいつに勝つこともできるかもしれない。
「一人だろうと三人だろうと構わぬ。何人いても同じ事」
ダヴィードの纏う空気が変わり、押しつぶされるような重圧を感じた。
こいつは今まで狩ってきた魔物とは違う、正真正銘の魔王の手先なのだ。
その事を、戦う前からはっきりと認識させられる。
「参る」
ダヴィードのその言葉と共に、俺達の魔王軍との戦いは始まった。
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