第25話 またワイバーンですか!?
「魔王軍の動きが活発化してきている?」
俺と奏、リアの三人は、冒険者ギルドでエトーレからそんな話を聞いていた。
冒険者ギルドに足しげく通い詰めていたこともあり、エトーレは様々な情報を教えてくれる。
この話もそのうちの一つだ。
「なんでも、
「砦が一つ陥落って凄いことじゃありませんか。防衛線を突破されたってことですよね。大丈夫なんですか?」
エトーレの言葉に、奏が少し不安そうに声を発す。
防衛線が突破されたという事は、魔王軍がそれだけアクロポリスに近づいたという事になる。
魔王領の魔物はA級冒険者のパーティーでも一筋縄ではいかないほど強力らしい。
そんな脅威が近づいてきているともなれば、国として非常にまずい事態だと思われる。
奏はそれが言いたいのだろう。
「緩衝地帯の砦なのですぐに被害が出るという事はありませんが、今まで一度も陥落したことない砦が落ちた事で、噂が加速度的に広まっています。この辺りでも最近はワイバーンの出現報告が度々ありますので、市民の不安は高まっているのは事実ですね」
「なるほど。魔王軍が活発になって、魔物がこちらに来ることを恐れているんだな」
普通に暮らす人にとって、魔物は命を脅かす存在だ。
守る力がない者からしてみれば、それは恐怖の対象でしかないだろう。
「その通りです。もしかしたらこの辺りにも強力な魔物が潜り込んでいるかもしれませんのでご注意ください。とはいっても、お三方ならその心配もなさそうですが」
エトーレは笑いながらそういってくれる。
ここで活動を始めてからまだそんなに経っていないが、俺達の事を信用してくれているのだろう。
とてもありがたいことだ。
その信用を裏切らないよう、今日の任務も頑張っていかないとな。
「で、またこのパターンか!」
「ワイバーンはそうそう出ないんじゃありませんでした!?」
「魔王軍の影響かもしれない」
雄たけびを上げ迫りくるワイバーンから逃げつつ、どこかで見たような光景に、俺と奏は弱音を吐いていた。
リアだけは落ち着いており、冷静にワイバーンからの攻撃を受け流していた。
銃はやはり使い物にならず、俺と奏は何もすることが出来ずに逃げるしかない。
「兄さん!早く
「ワイバーンの攻撃が途切れないとリアに近づけない。リア、どうにかならないか!?」
「ちょっと難しい」
木々をなぎ倒しながら上空から攻撃してくるワイバーンに、リアも俺も隙を見い出せずにいた。
リアに触れることさえ出来れば逃げられるというのに、その行動に移せないのがなんとももどかしい。
「でも方法はある。渉、合わせて」
そういうとリアは、ワイバーンの攻撃を受け流さずにそのまま食らった。
巨体から放たれる渾身の一撃は、リアの体を軽く数メートルは吹き飛ばす。
いったい何を!?と一瞬思ったが、攻撃を食らったおかげでワイバーンとかなりの距離が開いたことに気が付く。
瞬間跳躍を連続で使えば、リアを連れて逃げ出すことが出来る。
『ヴェーラ、瞬間跳躍!リアの元に飛んだ後、リアを連れて適当なところへ!』
『イエス、マイマスター』
ヴェーラの声と共に瞬間跳躍が発動され、俺と奏はリアの元へと飛んだ。
ワイバーンはリアへ追撃を仕掛けようとしているが、これなら余裕で逃げ出せる。
そしてリアを回収するとすぐに景色が飛び、小さな川が目に入った。
「何とか逃げ切れたな……」
俺は脅威が去ったことに、深く安堵の息を漏らす。
出会うことはまずないと言われていただけに、こんな短期間で二度も遭遇するなんて思ってもいなかった。
ワイバーンは俺達の事を相当好いているようだ。
「ワイバーン対策を何か考えなければいけないかもしれませんね。ここまで遭遇するとなると、リアに負担をかけてしまいます」
「そうだな……というよりリア。なんであんな危ない真似をしたんだ。ワイバーンの攻撃を自ら受けに行くなんて自殺行為にもほどがある」
俺は隣で腹を抑えているリアに問う。
その姿を見て奏は急いでリアへと駆け寄り、回復魔法を施す。
「奏は回復魔法を使えるから、私が少し我慢すればすぐに逃げられた。あの時はあれが一番早かったと思う」
「確かに行動は正解かもしれないが、俺達がリアだけ傷ついて何も思わないとでも思っているのか?」
「そうです。もう二度とあんな真似はしないでください。次やったらリアの尻尾を一日中撫で回す刑に処します」
「……やめる」
リアが奏から距離をとって俺の陰に隠れる。
もうしないと言いたいのか尻尾を撫でるなと言いたいのかわからないが、これで次は自らの犠牲に躊躇いを覚えてくれるだろう。
「それにしても凄いな、神奈から貰った軍用戦闘服(ACU)は。あんな一撃を食らったのにかすり傷もついてない」
俺はリアの着ている服を見て感心する。
岩をも砕くワイバーンの一撃を受けて、その服には傷が一つもついていない。
改めてこの服の防御力を認識させられる。
「渉の国の防具は本当にすごい。これならどんな攻撃からも身を守れる」
「そうですね。いったいどんな材料を使ったら、こんな強度でこの柔軟性を実現できるのでしょうか」
「神奈は高分子
「私たちにはわからない世界ですね」
「ぶんし……まとりっくす……」
リアが装備を触りながら呟いている。
細かいことは分からないが、とりあえず使えるのだから深く考える必要もないだろう。
俺達は開発に携わることが出来るほど知識はないのだし、使い方さえ分かっていればいいのだ。
「ワイバーンも発見してしまったことだし、ちょっと早いが一度ギルドへ戻ろう。問題はそのあと何をするかだな」
「兄さん、そういえば神殿に一度も行ってませんよね?確かここにもパルテノン神殿があるそうですし、行ってみますか?」
奏の発案で、俺は神殿巡りをしなければいけないことを思い出した。
ここ最近は実力をつける事ばかり考えていたため、そのことがすっかり抜け落ちていたのだ。
各国に一つずつ神殿はあるらしいが、このアトランティスの神殿はアクロポリスにある。
近くだからと放置してきたが、行くにはいい機会かもしれない。
「パルテノン神殿の場所は分かる。私が案内する」
リアが案内を申し出てくれる。
場所が分かるのなら、時間もあることだし行ってみるのもいいかもしれない。
「じゃあギルドに報告した後は神殿に行ってみるか」
神殿がどんなところか知らないが、何か秘密に関連するものが分かるのだろうか。
俺達はワイバーンの出現報告をするために、冒険者ギルドへと戻るのだった。
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