第23話 ミアとの特訓、その1です!

 翌日から、俺たちの生活は少し変わった。


 リアとパーティーを組んだことにより、俺と奏は毎日のように任務クエストを受けるようになった。

 神奈から与えられた軍用戦闘服(ACU)は魔物との戦闘をより安全なものに変え、数をこなす毎に安定して魔物を狩れるようになっている。


 リアに頼り切ることも少なくなり、戦闘面でもリアに任せられることも増えていた。

 それは、俺達に実力がついてきているという証明だろう。


 リアの足手まといにならないよう、これからも頑張っていかなければいけない。


 そしてもう一つ。


 今までミアから師事を受けていた俺は、逆にミアへ魔法を師事する立場になった。

 師事とはいっても、戦闘のように体に叩き込むというわけではない。


 ミアが使う魔法を一つずつ試し、その魔法の改善点を探して修正していく。

 俗にいうPDCAサイクルと言われるものを、俺や神奈とともに回しているのだ。


 PRAN:ある魔法を改善するという計画を立て。

 DO:その魔法をミアに実行してもらい。

 CHECK:俺と神奈がそれを評価して。

 ACT:ミアがその魔法を改善する。


 これを繰り返すことにより、ミアの魔法は少しずつ完成に近づいてはいる。


 しかし、ミアはこの世界の物理法則を誤って覚えていることが多く、それを正すところから説明しているがために、魔法完成の進捗はあまり早いとは言えない。

 根底にある間違ったイメージが離れないのか、すぐに魔法を改善することが出来ないこともしばしばあった。


 魔法はイメージで決まってしまうため、それが魔法の完成を阻害しているのだ。

 俺達との感覚の違いも結構ネックで、どうしようかと悩んだりもする。


 人に物事を教える事は難しいというが、教える立場になってみるとそれがよく分かる。

 きっと、ミアが体術やこの世界の常識を教えてくれた時も、こんな気持ちでいたのだろう。

 それを根気よく教えてくれたミアには、本当に頭が上がらない。


 この魔法の師事で、それらを少しでも返していければと思う。




「今日は次元収納ディメンション・ボックスの魔法を習得してみるか」

「はい」


 日が昇り、太陽の日差しが強くなってきた頃。


 最近の日課となっている魔法の訓練をするため、俺とミアは屋敷の庭に出ていた。

 神奈は今さっき起きたばかりでこの場にはおらず、奏は遊びに来たリアと共に屋敷で何かをやっているようだ。


 そのため、今日は俺とミアだけの魔法の訓練となる。


「今日は魔法の改善ではないのですね」

「ここ最近ずっとそればかりやっていたからな。そろそろ新しい魔法を覚えて気分転換をと思ったんだ」


 この訓練を初めて二週間近くになるが、今まではミアの魔法の改善しかやってこなかった。


 魔法が違うとはいえ、ずっと同じことをしていては飽きてしまう。

 それではいけないと思い、新たな魔法を覚えてもらおうと考えたのだ。


「お気遣いありがとうございます。改善も様々な発見があり面白かったですが、渉様の使う魔法にも非常に興味がありました。本日もよろしくお願いします」

「よろしくな」


 俺はお辞儀をするミアに、手を一回叩いて訓練の始まりを告げる。


「さて。今回覚えて貰う次元収納だが、ミアは見たことなかったよな?」

「はい。模擬戦の際も訓練の際も、その魔法は使われておりませんでしたので」


 俺はミアの前であまり魔法を使ったことがない。

 能力を上下させる魔法は改善の際に使っていたが、それ以外の俺の魔法をミアは知らないのだ。


「じゃあ説明の前にまずは見てもらおうか」


 百聞は一見に如かず。


 俺は任務クエストを受けるにあたり、最近身に着けるようになった荷物袋を取り出した。

 中には弾倉マガジンやナイフなど、いろいろと任務に使う物が入っており、それらをすべて荷物入れから出して中身を空っぽにする。


「中には何も入ってないな?」

「そうですね。何も入っておりません」

「じゃあ今から教える魔法を使うぞ。『次元収納』」


 中に何も入ってないことを確認してもらい、俺は分かりやすいように魔法名を唱えた。

 最近は無詠唱が普通になっていたから、魔法名を唱えるのも久々な気がする。

 戦闘中、悠長に魔法を唱えている暇なんてないからな。


 魔法を唱えると、荷物袋と収納先の次元とが繋がった。

 俺はその中に手を突っ込み、適当な物を取り出す。


 取り出したのは、昨日任務で狩ってきたデットラビット毛皮だった。

 どうやら売り残しがあったらしい。


 何もなかったはずの荷物袋から物が出てきたことで、ミアは目を見開いて驚いていた。


「いったいこれはどういう魔法なのですか?道具袋の中には確かに何もなかったはずですが……」


 何が起きているのか理解が追い付いていないらしく、しきりに毛皮と袋に目線を送っている。


「これは物を収納する魔法だな。この魔法を使えばどこか別の空間に物が置かれて、自由自在に物を出し入れすることが出来る。戦闘では直接役に立つことはないが、道具袋以上のものを持ち運びできる便利な魔法だ」

「補助魔法はそのようなことまでできるのですか……戦闘面ばかりに気が回り、そのような魔法は考えたこともありませんでした」


 この世界の魔法は、戦闘をすることに特化している。


 これは、魔物という分かりやすい脅威がいるために、この世界の魔法はそのように進んでいったのだと思われる。

 その証拠に、ミアの覚えている魔法は能力を上下させる魔法に集中していた。

 リアの使う攻撃魔法も同様で、火力重視の攻撃魔法が多い。


 つまり、この世界での魔法は、魔物を討伐するための力ででしかないのだ。


「実際に戦闘面の魔法のほうが開発しやすいからな。威力の高い攻撃魔法を使う、能力を上げる、傷を癒す。どれも単純で分かりやすく、誰でも思いつくものばかりだ。そっちに流れるのは、仕方ないといえば仕方ない」


 俺は毛皮を次元収納にしまい、魔法を解除する。


「でもちょっと視点を変えれば、魔法にはこんな使い方もできる。魔法なんてイメージ一つで変わるんだ。それに気づけただけで、これからミアの魔法は格段に幅が広がるはずだ」

「もしかして、空も飛べたりするのでしょうか?」

「お、それは補助魔法でできそうな感じもするな。今度開発してみよう。その時は一緒に開発しようか」

「お役に立てるか分かりませんが、ご一緒させていただきます」


 ミアはやはり飲み込みが早い。

 すぐにそういった発想に至るのはなかなか難しいだろう。


 もしかしたら、すぐに俺の事なんて突き放して独自の魔法を開発してしまうかもしれないな。


「話を戻すぞ。今日はこの次元収納の原理を教える。それをイメージの大本として、ミアには魔法を習得してもらいたい」

「分かりました。ご教授の程よろしくお願い致します」


 ミアが深くお辞儀をする。


 これを覚えれば、買い物などでも楽できるはずだ。


 うまく教えられるか分からないが、ミアのために頑張ろう。


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