???

 暗く、深く、堕ちるような深淵なる闇に閉ざされた王城の一室。


 唯一ある玉座に座る一人の男が、楽し気に呟いた。


「とうとう意思を継ぐ者が現れたか」


 その空間には誰もいない。


「この世の絶望の証を手に、お前は世界に何を望む」


 答えるものも誰もいない。


「私は希望を掴めなかった。私の希望は打ち砕かれたのだ」


 何がおかしいのか、男は嗤う。


「お前はまだ何も分かっていない。お前に与えられたその証が何を意味するのか、何も分かっていない」


 その男の手には、ある紋章が刻まれていた。


「お前は必ず私の元へ辿り着く。俺がそうだったように、導かれるように」


 その紋章は、ある神を表す紋章。


「その先のことは分からない。俺と同じ運命を辿るのか、その運命を打ち砕くのか」


 梟と、蛇と、オリーブと、三日月の描かれた紋章。


「それを少し確かめさせてもらおうか」


 男が指を鳴らすと、誰もいなかった空間にもう一人の男が現れた。


「お呼びでしょうか、魔王様」


 魔王と呼ばれた男は、その男に嗤いかける。


「アクロポリスに行き、俺と同じ紋章を持つものと遊んでやれ。神殿を張っていれば、そいつは必ず現れる。だが、絶対に殺してやるな。殺してしまっては興が殺がれる」

「御意」


 そう命令を受け取ると、その男は再び姿を消した。


 再び、この空間には魔王だけが残される。


「さあ、どう出るのか見せてもらおうか。お前に運命を打ち砕くだけの力があるのかを」


 魔王は嗤う。


 一人で嗤う。


 全ての希望を逸した男は、誰もいない空間で一人、嗤い続けるのだった。

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