第22話 明日からも頑張りましょう
「渉。ワイバーンから逃げ帰ってきたと言っていたが、銃で討伐はできそうだったか?」
俺は神奈に、ワイバーン戦での戦闘を詳しく聞かれていた。
兵器開発に携わる者として、銃が魔物にどれほど通用するか気になっているようだ。
「いや、
「通常弾では話にならない装甲か。これは少し考えなければいけないな」
神奈が少し考え込むかのように顎へ手を当てる。
通常弾ではダメージを与えられなかったという事に、科学者として何か思うところがあるのかもしれない。
「そういえば弾の事を気にしていなかったが、ストックはどれぐらいあるんだ?」
今回の
物資は有限なのだから、それを考慮して使っていかないと銃がガラクタになってしまう。
そうなったら銃で身を守ることもできないし、量によっては任務自体の自粛も考えなければいけなくなる。
そうならないために、物資管理はしっかりとしておかなければならないのだ。
「ん?ああ、弾に関しては気にすることはない。月に一度、日本から物資が届くようになっている。その中に弾の補給も含まれているから、どれだけ使おうと問題ないぞ」
「日本から補給物資が届くのか!?それはこちらから希望を出すことも可能か!?」
その事実に、俺は前のめりになりながら食らいつく。
日本から物資が届くということは、日本にあるものを持って来られるということだ。
それは、今まで俺が望んでいながらも手にすることができなかった物が手に入るということなのだ。
半分諦めかけていた所に降って湧いた希望の光なのだから、その機会を逃すわけにはいかない。
「き、希望を出すことは可能だが、少なくとも来るまでに一か月はかかるぞ。それに制限もあるし、希望に添えるかどうかも保証できん」
俺のがっつきに少し引き気味の神奈は、笑みを引きつらせながらそう答える。
しかし、どれだけ引かれようと、俺にはどうしても通したい要望があるのだ。
「俺はコーヒー要望する!もちろんインスタントで構わない。もう三週間も飲んでいないから飲みたくて飲みたくて仕方ないんだ。インスタントコーヒーぐらいなら頼めるだろう?」
そう、紅茶オンリーのこの世界は、俺の朝の楽しみを奪っていった。
紅茶もいいが、コーヒーと比べると何か物足りない。
しかし、ここで要望を通すことができれば、俺の朝の楽しみが復活するのだ。
これは絶対に通したい要望である。
「コーヒー?それぐらいなら可能だと思うが……まあリストには入れといてやる。だがあまり期待しないほうがいいぞ」
「ありがとう!それだけでも十分希望になる!」
無いと諦めていたものが手に入るかもしれないというだけで、これからの生活していく上での原動力になる。
一か月は少し長いが、期待して待つことにしよう。
「奏様、コーヒーとは何ですか?」
「向こうで一般的に飲まれてる飲料ですね。昔の人は泥水と言って飲んでいたそうですよ」
「泥水……そんなものを渉様は好んで飲んでいたのですか……」
「渉の家って貧乏だったの?」
「説明がひどいな」
奏が変な説明をしたせいで、コーヒーを知らない二人が俺に不信感を持ってしまっていた。
確かに泥水と揶揄されることはあるが、あれはそこまでひどい飲み物ではない。
ブラックでは豆本来の旨みを、ミルクを入れればマイルドに、ミルクと砂糖を入れれば子供でも飲めるという、何にも劣らない万能な飲料水なのだ。
二人は知らないようだが、それを知ってしまえば虜になるだろう。
今は否定せず、その揶揄を甘んじて受け入れよう。
コーヒーを口にした時の二人が見物だな。
「コーヒーの件は置いといて、とりあえず私の渡した装備でこれから先は何とかなるだろう。渉達はこれから、冒険者の真似事を続けるのか?」
神奈が仕切りなおすように問いかけてくる。
真似事といわれるとそうかもしれないが、これでも一応冒険者にはなったつもりだ。
リアもいるし、これからも冒険者家業は続けていきたいと思っている。
「ああ。明日からは本格的にやっていきたいと思っている。魔法も銃も、もっと効率的に活用できるようしたいからな。あ、そうだミア。魔法の訓練、明日からやってみるか?」
魔法という単語で、俺はミアに魔法の師事をしようとしていたことを思い出す。
ミアからの望みでもあるが、俺は国王を相手にミアを親衛隊にするなんて啖呵を切ったのだ。
それを実現させるには、ミアの魔法を上達させなければならない。
ミアは物分かりがいいし、きっとすぐに魔法も上達するだろう。
今日は俺の用を優先させてしまったが、動き出すのは早いに越したことはない。
「よろしいのですか?」
「ああ。ミアを親衛隊に加入させると豪語したんだ。俺の言葉を虚妄としないために、受けてくれると助かる」
「いえ、こちらこそよろしくお願いいたします」
ミアの了解も受けたことで、明日からのやることが決定した。
ミアと訓練をし、リアと共に任務を受ける。
そしてある程度安定してきたら、世界の秘密を探るため、大陸の神殿を回っていく。
「やりたいことが尽きないな、この大陸は」
俺はそのことに充実感を覚えながら、皆とのお茶会を楽しむのだった。
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