第20話 大儲けです!

「なあ奏、いい加減何で機嫌が悪いのか教えてくれないか?悪い事を言ったのなら謝るから」

「心当たりがないんですか。心当たりがないぐらいに何も感じなかったという事ですよね。それがどれだけ傷ついているかも兄さんは分かっていなんです。少しは苦しむといいんです」

「むー……」


 俺はギルドの休憩所にて、奏がなぜ機嫌を損ねているのか分からずにいた。

 奏は水の入った木のジョッキを手に、ツンツンとした態度を取っている。


 先ほどから奏の言葉は刺々しく、とうとうその不機嫌さを表に出す事態に発展している。

 非常に心苦しく、奏に言われたら反省する気もあるのだが、奏はそれを良しとしてくれない。


 どうにかして機嫌を直して貰いたいのだが、一体俺は何を言った、またはしたのだろうか。

 いくら思い出そうとしても、その原因に思い当たらない。


「奏、喧嘩は良くない。仲良くする」


 リアが見かねて助け船を出してくれる。


 リアからならば、奏の機嫌も治るかもしれない。


「リア、これは喧嘩ではありません。目には目で、歯には歯で。ハンムラビ法典タリオの法にも書かれている事を実行しているだけです。私が精神的苦痛を味わったんですから、兄さんも精神的苦痛を味わうといいんです」

「は、はむ?」


 ハンムラビ法典など知る訳もないリアは、奏の言う事が理解できずに混乱している。

 リアを跳ね除けるなんて、相当奏は怒っているようだ。


 まずい、機嫌が悪いままだと、俺の日常に影響が出てきてしまう。

 ただでさえ奏に頼り切った生活をしているのだ。

 そのサポートがいきなり無くなるなんて事になれば、俺の生活は危うくなる。


「ヴェーラの事か?」

「さあどうでしょうか」

「ワイバーンの事か?」

「さあどうでしょうか」

「奏を守った時の事か?」

「それは違います」

「奏を乱雑に扱った事か?」

「……どうでしょうか」


 最後に少し間があったという事は、瞬間跳躍ワープの時の扱いに問題があったのだろう。

 とはいってもあの時は緊急事態で、乱雑に扱わざるを得なかった。

 それは奏も分かっているだろうし、恐らく奏はそんな事では怒らない。

 となると問題となるのは……。


「もっと乱雑に扱ってほしかった?」

「私はそんなドMじゃありません!」

「いった!」


 ジョッキで頭を殴られ、俺は頭を抱えて悶絶する。

 ないとは分かっていたが、もうそれぐらいしか浮かばなかったのだ。


 他に瞬間跳躍時に考えられる事は、脇に抱えた事?は乱雑か。

 振り回したのも乱雑さだし、後は変な所を触っていた可能性があるぐらいしか……。


 そういえばあの時、奏が何か騒いでいた気がする。

 ついでに何か柔らかい感触もあったようななかったような……。


 あれ、もしかして奏は……。


「……俺はあれぐらいが好みだぞ?」

「~!馬鹿兄さん!妹が好みだなんて最低です!」

「がふっ!」


 奏は俺の脳天にダブルスレッジハンマーを振り下ろし、俺は机に思いっきり叩きつけられる。


 どうやらまた選択肢を間違えたらしい。


 両手を組んで振り下ろすこの技の威力は高く、俺は衝撃で目の前がちかちかと明滅してし、耳鳴りが鳴り響く。


「か、奏、やり過ぎはダメ。渉が死んじゃう」

「回復魔法を使って永遠に苦しめ続けるのもありかもしれませんねっ!」


 延々と続く痛みを想像して、俺は恐怖に身を震わせる。


 拷問で気絶するような痛みを与え、気絶すれば気絶回復フェント・ヒールで起こされまた痛みを与えられるなど、一体どこの拷問だ。

 回復魔法のそんな使い方を思いつくなんて、奏はなんて残虐な子に育ってしまったのだろう。


 優しくなるよう育てたつもりだけど、世の中はそう上手くいかないらしい。


「えへへ……好み……」

「奏、嬉しそう?」

「そ、そんなことありません!激おこぷんぷん丸です!」

「激おこ」


 何やら奏とリアがやり取りしているが、耳鳴りのせいであまり聞き取れない。


 奏の奴、どれだけ本気で攻撃を食らわせたんだ……。


「渉様―。査定のほうが終わりましたので、受付までお願いしますー」


 耳鳴りが収まってきた頃に、俺を呼ぶエトーレの声が聞こえてくる。


 こんな状態でいかないといけないとは、まともに話を聞けるかどうか心配だ。


「ほら兄さん、行きますよ」


 休憩する間もなく奏に無理やり引っ張られて、俺は受付まで連れていかれてしまう。


 無理やりに応対させようとするなんてなんて鬼のような妹だ。


「お待たせしました渉様。本日の査定が終了しましたので、ご確認のほうお願いします」


 受付の前まで移動した俺は、エトーレに渡された羊皮紙の内容を見る。


 デットラビットの角142本銅貨28枚、デットラビットの肉157kg銅貨16枚、デットラビットの毛皮218枚銅貨107枚、キラービーの毒袋4個銅貨3枚……。


 そのように明細がずらっと並んでおり、最終金額として、銀貨4枚と銅貨が17枚という買取金額になっていた。


「リア、これっていいのか?」


 相場が全く分からない俺は、後ろから除くリアに相場が正しいのかを問いかける。


「上々どころか大儲け。これなら文句なく換金できる」

「そんなに稼げたのか。頑張った甲斐があったな」

「そうですね。リアが言うぐらいですから間違いないのでしょう。必死に戦った甲斐があるというものです」


 冒険者のリアから見て大儲けだというのだから、今回俺たちは相当魔物を狩ったのだろう。

 デットラビットだけで軽く100体を超えていたし、それらの討伐品をすべて回収できたのも大きい。


 次元収納はかなり使える魔法だなと認識するのだった。


「では全て買い取りでよろしいですか?」

「それで頼む」


 エトーレはすぐに硬貨を取り出し、銀貨を6枚と銅貨を4枚置いた。

 買取価格が銀貨4枚なのに、銀貨が6枚あるのはおかしくないだろうか。


「ではこれが報酬となります。お受け取りください」

「少し額が多い気がするが」

「はい、これはデットラビットの任務報酬も含まれています。今回確認できたのが142体なので、銀貨1枚と銅貨17枚が買取金額に上乗せされております」

「ああ、そういうことか」


 どうやら、討伐品とは別に討伐自体に対しても報酬が入るらしい。

 討伐品の売却と任務報酬で金が入るなんて、二重取りで旨いじゃないか。


 まあその代わりに命を張っているわけだから、その対価ということなのだろう。


「初日でここまで稼ぐ方は初めてです。応援していますので、これからも頑張ってください」

「ありがとう。これからも世話になるがよろしく頼む」


 エトーレに感謝を言い、俺たちは冒険者ギルドを後にした。


「いやー!楽しかったな初めての狩りは!」

「そうですね。ワイバーンに遭遇した時はダメかと思いましたが、何とか生き延びれてよかったです」

「渉の魔法のおかげ」


 俺たちは今日の任務の感想をぶつけ合う。

 いつの間にか奏の機嫌も治っており、取りあえず良かったと安堵する。


 まだ日は明るく、晩飯というにはまだ早い。

 どうせならここで一息つきたいところだ。


「リア、暇だったら家によって行かないか?ティータイムと洒落込もうじゃないか」

「うん。私も渉たちに言いたいことがあった」

「リアから言いたいことなんて怖いですね。いったい何を言われるんでしょうか」

「それは後で」


 リアの言いたいことも気になるが、ここではゆっくり話してもいられない。


 任務を終えた俺達は、ゆっくりと休むために屋敷へと帰るのだった。

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