アトランティスが出現したので世界の秘密を探しにいきます

第１９話 無事に帰ってこられました…

「兄さん、瞬間跳躍（ワープ）が使えるなら言って下さい。無駄に寿命が縮んだじゃないですか」

「渉しか使えないと思ってた」

　ワイバーンから瞬間跳躍で逃げてきた俺は、二人から抗議を受けていた。

　確かに、初めっから使っていれば、あんな思いはしなくて済んだだろう。

「俺も忘れてた事をヴェーラが思い出させてくれたんだ。その時まで瞬間跳躍の事は完全に忘れてたんだよ。許してくれ」

「そのヴェーラさんは、ワイバーンに接敵した時にそれを教えてくれなかったんですね」

　じっとりと奏に見つめられ、俺もそれについて疑問に思う。

　なぜヴェーラはすぐに教えてくれなかったのだろうか。

『渉様は防具をしていない事に気付いておりませんでしたので、防具の重要性を分かっていただくために助言を控えておりました。痛みが伴った今ならば、渉様は防具の重要性を十分にご理解いただいたと存じます』

『任務に行く前に教えてくれればよかったじゃないか……』

　事前に教えてくれていれば、俺はあんな思いをしなくて済んだだろう。

『では今後は全て事前に助言させていただきますが、よろしいですか？』

『……いや、やっぱ止めておこう。自分で判断できなくなったら困る』

『かしこまりました。では今までどおりに助言させていただきます』

　ヴェーラに任せれば楽になるだろうが、頼り過ぎて自分で何もできなくなったらおしまいだ。

　頼り過ぎには注意しなければ。

「ヴェーラは俺と奏に防具がないのを気にしてたみたいだ。それを分からせるためにギリギリまで引っ張ったらしい」

　俺はジト目でこちらを見る奏にそう伝える。

　すると奏は、疑っているけど理解はできるといった感じで納得した。

「そうですね。防具を忘れていたのは事実です。一応納得してあげます」

　いまだにヴェーラの存在を疑っている奏が、少し棘がある言葉を吐く。

　なんだか瞬間跳躍してからの奏の言葉は何か棘がある。

　ヴェーラの事を快く思っていないのだろうか。

　いや、ヴェーラにじゃな、もしかして俺がかばった事に素直に礼が言えないだけか？

　それとも何か俺が怒らせるような事をした？

　何で棘々（とげとげ）しいのか分からんが、とりあえず頭を撫でておこう。

「むー、気付かない程小さくないと思うんですが……」

　奏がうつむきながら胸に手を当てる。

　何かを呟いたように見えたが、声が小さすぎて何を言ったのかは聞き取る事は出来なかった。

「あ、あの、大丈夫ですか？」

　その場にへたり込む俺達に対し、受付嬢のエトーレが心配そうに声をかけてきた。

　改めて辺りを見てみると、突然現れた俺達のせいか、周りは非常に騒がしくなっている。

　今まで誰もいなかった所に、突然三人も現れたら騒ぎにもなるか。

「ワイバーンに追いかけられてな。必死こいて逃げてきたんだ」

「ワイバーン！？どこで出たんですか！？」

　いきなりエトーレに詰め寄られ、俺は少し身を引いてしまう。

　答えたいが、俺はどこで出たと言えばいいのか分からない。

　リアに助けてくれと視線を送ると、リアが立ち上がりながら答えてくれる。

「南の森の深奥の辺り。翼に少し傷は付けたから機動力は落ちてるはず。でもここに来るのも時間の問題」

「南の森の深奥ですね。情報提供感謝します。あ、任務の報告の方申し訳ありませんがすこし待っててください！」

　エトーレはそう言うと、受付の奥に引っ込んでいく。

　そちらを観察していると、急に受付の奥が慌ただしくなり、何人かが慌てて外に駆け出して行った。

　そういえば、ワイバーン出現時は討伐隊が組まれるらしい。

　その討伐隊を編成するための人集めだろうか。

　まあなんにしろ、逃げ帰って来た俺達に出来る事は無いだろう。

　それから少しすると、エトーレが布のような物を持って再び姿を現した。

「すいません、お待たせしました。あ、渉様、これをお使いください。背中が丸見えです」

「ああ、ありがとう」

　エトーレが持ってきてくれたのはローブだったようで、俺はありがたくそれを受け取って使わせて貰う。

「ワイバーンと遭遇して無事に帰ってこられて良かったです。ワイバーンと遭遇して生きて帰ってこられる方は多くありませんから。それで、任務完了の報告でよろしかったですか？」

「そうだな。頼む」

　ワイバーンに遭遇して帰ってくるのは難しい事らしい。

　リアがいなかったらと考えると、そう言われてもおかしくないように思う。

　A級冒険者ですら足止めがやっとなのだ。

　下級冒険者では太刀打ちも出来ないだろう。

「デットラビットの討伐任務でしたね。では討伐証である角の方を提出してください」

　エトーレに言われ、俺は次元収納を発動してデットラビットの角を取り出す。

　袋いっぱいに入ったデットラビットの角を前に、エトーレの表情が少し強張ったのが分かる。

「こ、これ全部ですか？」

「渉、他のも出す」

「分かった」

　俺は他にもゴブリンやキラービー等の討伐証や剥ぎ取り品を置いていき、エトーレの表情が驚きに染まっていく。

　最終的に受付は素材の山となり、エトーレの顔が僅かに見える程度まで積まれていた。

　流石に出し過ぎかと思ったが、リアが何も言わないので問題ないと勝手に思い込む。

「あの、荷物持ち（ポーター）もいないのにこれだけの量をどこに？」

　驚いていた理由は、どうやらこの荷物を隠し持っていた事に起因しているらしい。

　俺の腰にある荷物入れから、こんな量の荷物が出てくるのは普通考えられないだろう。

　驚くのも無理ないかもしれない。

「魔法でこの荷物入れの容量を増やしてるんだ。便利だな、補助魔法は」

「そんな魔法まで使えるんですか……流石渉様ですね」

　尊敬の眼差しを向けてくるエトーレに、あまり悪い気分はしない。

　表では非常に嬉しい言葉をもらったが、背中では突き刺さる奏の視線が物凄く痛く感じる。

　何か奏を怒らせてしまったようだが、なぜ奏が起こっているのか見当がつかない。

　本当に、一体俺は奏に何をしてしまったのだろうか。

「では査定の方に入らせていただきます。お時間頂きますので、しばらく休憩所でお待ちください」

「よろしく頼む」

　かなりの量だが、報酬にもなかなか期待が持てるのではないかと思っている。

　俺は楽しみにしながら、ギルドの査定を待つのだった。