第17話 剥ぎ取りチャレンジです!

「二人共、初めての実践にしては凄かった。あの数を相手に立ちまわるなんて普通は出来ない」

「リアが殆ど倒してくれたからな。リアがいなければ俺達はあの角に串ざしだったよ」

「私と兄さんだけでは、あれ以上の魔物は対応しきれませんでしたね。リアがいてくれて助かりました」


 俺達はデットラビットの群れを倒し終わり、つかの間の会話を繰り広げていた。


 俺と奏は自分の事で手いっぱいで、周りの事など考える暇もなかったのだ。

 改めて周りを見渡すと、俺が倒した数倍ものデットラビットの死体が転がっている。

 リアがいなければ、本当に死んでいたかもしれない。


「初めてだから仕方ない。上手くできる自分のやり方を見つけるまで、地道に討伐してく」


 そう言いながら、リアは腰のポーチから取り出した手袋をはめ、デットラビットの角を切り落とし始めた。


「何をしてるんだ?」

「討伐したって証に角を持ってく。他にも食べれる肉と毛皮を剥ぎ取って持っていけばお金になる」

「剥ぎ取りか。じゃあやらないと損だな」


 俺はリアに習い、見よう見まねで剥ぎ取りをしようとする。


 ナイフは事前に、CK5TBSと言う折りたたみナイフを神奈から預かっている。

 神奈曰く、銃器メーカーのS&W社が出しているこれは非常に使いやすく、どんな状況でも使える万能ナイフらしい。

 切れ味がいいから扱いには気をつけろと言われているため、魔物の解体ぐらいなら出来るだろう。


「駄目」


 俺が角を斬り落とすためデットラビットに手をかけようとすると、リアが手を伸ばしてきてその動作を止める。


「そのまま触ったら毒を受ける。デットラビットとか魔物の解体の時は、絶対に手袋をする」

「あ……」


 リアに言われ、デットラビットが毒を持っていた事を思い出す。


 戦闘中はあれだけ気を付けていたというのに、戦闘が終わった途端にこれとは。

 気を引き締めるとは一体何だったのか。


 リアがポーチをまさぐり、もう一つの手袋を俺に渡す。


「はい。これ使って」

「ありがとう、リア」

「予備が一つしかないから、奏は見てて」

「では私は見てますね」


 リアに借りた手袋をはめ、俺はデットラビットの解体を始める。


 角自体はすぐに解体が終わるものの、毛皮と肉の分離作業は非常に手間取る。

 ナイフのおかげで切断面は綺麗に見えるものの、毛皮には肉が張り付き、食用肉はリアに比べると非常に小さい。


 なんだか解体作業は、魚の三枚おろしに似ている気がする。


「兄さん、私にもやらせてくれますか?」

「いいぞ。このナイフ切れるから気を付けてくれ」

「分かりました」


 俺は手袋とナイフを奏に渡す。

 それを素早く装着した奏は、リアの真似をしてデットラビットを解体していった。


 奏は俺よりも手際よく、しかも綺麗に毛皮と肉を分けていく。

 特に毛皮の剥ぎ取りはリアにも劣らず、見ていて感心してしまうほどだ。


「奏上手い」

「魚の皮引きは結構やりますからね。毛皮は少し難しいですが、このナイフが良く切れるおかげで何とかなってます」


 奏の中では魚も魔物も変わらないらしい。

 我が妹ながらワイルドだなあと思いつつ、男であるはずの俺は、女性陣二人の剥ぎ取りを傍から眺めている。

 俺も魔物の剥ぎ取りを出来るようにならないといけないな。


 そんな感じで眺めている事しばらく。

 結構な量の角と毛皮と肉が、二人の手によって解体された。


「これだけの量どうするんだ?」

「角以外の一部は捨ててく。奏と渉の解体の練習になっただけで十分」

「捨てていくんですか……なんかもったいないですね」

「仕方ない。あまり持っていくと、戦闘にも影響が出る」

「これだけの荷物を持って戦闘なんて確かに出来ないな」


 非常にもったいない気がするが、こればかりはどうしようもないだろう。


『マスター。次元収納ディメンション・ボックスを使われてはいかがでしょうか。使用すれば、荷物の心配をする事無く討伐に集中出来ます』

『そういえばそんな魔法も開発したな』


 ヴェーラに言われ、合宿中に開発した魔法を思い出す。


 次元収納はその名の通り、どっかの異次元に物を収納する事の出来る魔法だ。

 容量も不明、どこに収納されているかも不明だが、とりあえず自由自在に物の出し入れができるという優れものだ。


 重量は増えないが、時間経過による腐敗や劣化は存在する。

 とはいえ、少しの間しまっておくには全く問題ない。


 全然使っていなかったから忘れていたが、こう言う時こそ役に立つ魔法だろう。


「次元収納」


 俺は魔法を唱えると、懐の荷物入れと異次元が繋がる。

 これでどれだけ荷物を入れても、この荷物入れがいっぱいになる事は無いはずだ。


「何唱えたの?」


 唱えた魔法に反応したリアが問いかけてくる。


「いくらでも収納できる魔法を習得したのを思い出してな。これ全部入れられそうだ」


 角の入った袋と毛皮と肉をポンポンと荷物入れに投げ込んでいく。

 荷物入れに討伐品が消えていくが、荷物の重量は増えず、荷物も大きくはならない。

 これならこの先の討伐に影響は出ないだろう。


「凄い」

「便利ですね、次元収納」


 全ての討伐品をしまい終え、俺は次元収納を解除する。


 これで後の事を考えず、素材をすべて回収しながら討伐に回る事が出来る。


「よし、次の魔物を討伐しに行こう。早いところ数をこなして慣れるに限る」

「そうですね。ですが次はもう少し優しい事を望みます」

「それは運次第。次はもっといっぱいかも」

「リア!脅さないでください!」

「ふふ。でも、いっぱいきても私が守るから」

「本当にお願いしますよ?」


 背に隠れるように移動する奏に、リアは頼られる事が嬉しいのか笑顔になる。


 先ほどのような群れでも、リアは俺達に気を配りながら難なく対応したのだ。

 あれより多くの魔物が来ても、リアなら安心して任せられる。


 俺達はもっと魔物を討伐するために、さらに森の中へと進んでいった。

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