第16話 デットラビット討伐戦です!
「デットラビットは街の周辺にもいる危険な魔物。群れて行動して、角に毒があって当たると痛い。動きも早いから、見失わないように気を付ける」
街の外の森に入り、俺と奏はリアの後をつけながら、魔物に関する情報を聞いていた。
動物ではなく、魔物もどこにいるか分からないので、気を抜く事は出来ない。
「当然、他にも魔物はいる。人型をしたゴブリン、オーガ。トカゲみたいなエアリザード。人の頭ぐらいあるキラービー。木に見せかけて人を襲うウッドミミクリー。たくさんいるけど、出てきても落ち着いて行動して」
「デットラビットだけって訳じゃないんだな」
「あたりまえ。魔物がいるって事は、それを食べたりするさらに強い魔物がいるってこと。この辺りでもたまに、ワイバーンっていうかなり強い魔物が出る。私が最近討伐したから、しばらくは出ないと思うけど」
魔物が一匹でもいれば、それにつられて別の魔物もやってくる。
弱肉強食の世界は魔物も同じ、と言う事なのだろう。
魔王領から離れていても、時折脅威となる魔物は出現してしまうようだ。
「討伐したって、ワイバーンはかなり強いんじゃないですか?Aランクパーティーでも苦戦すると聞きましたが」
奏の言うように、ワイバーンはかなり強いとミアから聞いている。
強靭な顎は鉄をも砕き、硬い外殻は業物でもないと傷つけられないという。
さらにワイバーンには亜種が存在し、非常に凶暴性が高く、尻尾に含まれる猛毒は、ほんの少し掠めただけでも人を死に至らしめるらしい。
ワイバーンが出現すると国は討伐隊を組み、優先的に討伐に向かう程に危険視されているようだ。
リアはパーティーを組んでいないが、一人で討伐したのだろうか?
「随分と弱ってたから私でも何とかなった。ワイバーンが万全な状態だったら、多分私一人じゃ太刀打ちできない」
「それでも、そんな魔物を一人で狩れるなんて凄いです」
「リアがいればこの任務も安心して取り組めるな」
「……あまり持ち上げないで」
リアが少し恥ずかしそうにローブを被る。
あまり褒め慣れられていないようで、その頬も少し赤らんでいた。
リアをからかうには褒め殺しにするのが良いかもしれない。
今度やってみる事にしよう。
「……止まって」
リアがその場で停止し、辺りを見渡した。
俺達も同じように止まり、今までよりも辺りをじっくりと観察する。
かさかさと草木の擦れる音が聞こえた。
それも一つ二つでなく、かなり多くの何かが周りを移動している。
「来る。準備して」
その音はだんだんと近づいてくる音に、リアが双剣を抜いて臨戦態勢を取った。
俺と奏もカンナM9Pを引き抜き、周囲を警戒する。
『魔物の存在を確認しました。これよりマスターのサポートに回ります』
脳内に
今までずっと俺の中で潜んでいたようだが、戦闘に入るので出てきたらしい。
ヴェーラのサポートが優秀なのは、リアとの決闘で判明している。
今回も頼りにさせて貰おう。
『お任せください。マイマスター』
ヴェーラのその言葉と共に、身体に熱を帯びたような感覚を覚える。
「ありがとうございます兄さん」
「ありがとう」
ヴェーラは奏とリアにも魔法をかけたようで、これで迎撃の準備は整った。
俺は銃の
今回使用するのは、いつもの
実弾は人をも殺す事が出来る。
間違っても二人に当てぬよう、扱いには十二分に気をつけなければいけない。
「くる」
リアのその言葉に反応するように、茂みから何匹もの魔物が姿を現した。
ウサギのような格好をしているが、頭から生える大きな角が、ただのウサギではない事を分からせる。
いったいどんな進化をしたらあの形になるのだろうか。
デットラビットは角を突き出し、相当な勢いで俺達に向かって突っ込んできた。
あれに刺さったら痛いどころではなく、含まれる毒にやられてしまうのだろう。
あの一撃は絶対に喰らうわけにはいかない。
「奏、角には絶対に当たるなよ、毒を受けるぞ!」
「解毒魔法があるから大丈夫ですよ兄さん。でも痛いのは嫌ですから絶対に当たりません!」
そう言いながら奏は銃を発砲した。
一発必中によって補正された弾丸は、逸れる事無くその体に吸い込まれる。
着弾の衝撃か、デットラビットの頭は大きく吹っ飛び、辺りに肉片を散乱させる。
やはり実弾は恐ろしいと思いつつ、俺も脅威を排除するために
弾丸が当たり、勢いを失ったデットラビットが弾けながら地面に落ちる。
『マスター、背後より三体来ます』
しかし、襲い来る魔物の数は多く、一度では捌き切れない。
俺は避けられる魔物は避けながら、迫りくる魔物たちに対抗していく。
「ちょっと多くありませんか!?」
あまりの魔物の多さに、奏が悲鳴を上げる。
奏の言う通り、初めての討伐だというのに、これだけの相手をするのは非常に厳しい。
「思った以上に大きな群れ。あと少し頑張って。二人なら出来る」
リアが首を切り落としながら俺達を鼓舞する。
リアの足元には既に数えきれない程の死骸が積み上がっており、俺と奏が対応しているのはその一部にすぎない。
その事に驚愕しつつ、俺は必死に攻撃に当たらないよう捌いていく。
「奏、もう少し踏ん張れ!」
「ひい~!」
奏が涙目になりながら必死に引き金を引く。
身体能力をあげているとはいえ、数の暴力に勝つ事は出来ない。
『マスター、次で弾が無くなります。
『もうそんなに撃ったのか!?』
ましてや銃は10発も撃ったら再装填しなくてはいけないのだ。
これを戦闘中にスムーズに行うのは難しい。
デットラビットの群れは、それを嫌と言うほど分からせてくれた。
「あと三匹」
リアがそんな事を口走る。
対応に必死で気がつかなかったが、周囲を見渡すとデットラビットは数えるほどしか残っていなかった。
いつの間にか群れを駆逐していたらしい。
「終わり」
『お疲れ様です。マスター』
そして、その三匹もリアの手により瞬時に狩り取られる。
周りに魔物がいなくなったと分かった途端、俺と奏は腰が抜けたようにその場にへたり込む。
「うぅ、グロいです……覚悟はしていましたけど、ここまでとは……」
周りに散乱した肉片に、奏が弱音を漏らす。
辺りはデットラビットによる血と肉が広がっており、見ていて気分のいいものではない。
「初めての討伐だが、あまり嬉しくならないな……」
過去に見てきた光景を思い出し、流石に心にくるものがある。
これは人間ではないが、肉の塊と言う点では全く同じだ。
あの時の情景が浮かんでくる。
人の焼ける匂い、体を失った人、悲鳴を上げる人、逃げ惑う人。
そして何より、自分が生き残るために他人を蹴落とす人間達が……。
「兄さん、兄さん!」
「っ。すまん、ぼーっとしてた」
奏の呼びかけで俺の意識は戻される。
いけない、思い出さないようにしてるのに、こんな光景を見たらどうしても思い出してしまう。
「無理しなくてもいいんですよ兄さん。討伐は私達がやらなければいけないなんて事は無いんですから。今日はもう帰りますか?」
奏が優しくそう言ってくれる。
奏も同じ思いをしているというのに、妹に気を利かされるなんて恥ずかしい限りだ。
「大丈夫だ。ありがとな」
俺は奏の頭を撫でて立ち上がる。
妹にあまりかっこ悪い所は見せられない。
気を引き締めていこう。
「そうですか」
奏は踏み込む事も無く、笑顔で立ち上がる。
優しいその笑みに、俺は気を使わせてしまったと反省する。
もう少し兄らしく、妹を守れるようにならないといけないなと思うのだった。
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