第15話 初任務です!

 翌日。


 奏とリアを連れ、俺達は冒険者ギルドへと足を運んでいた。

 目的はもちろん、魔物の討伐任務クエストを受けるためだ。


「ちょっとドキドキするな」

「そうですね。魔物を見るのも初めてですし、どんな魔物がいるのか楽しみです」

「無理だけはしないで」


 雑談をしながら冒険者ギルドに足を踏み入れると、何故か俺達に視線が集中する。


 何やらひそひそと話しているが、それは今までのように不快な物ではなく、どちらかと言えば近寄りがたい芸能人を見ているようだ。

 声をかけたいけどかけられないみたいな、よく分からない視線に疑問を抱きつつ、俺達は任務掲示板クエストボードの前へと足を運ぶ。


「リア、俺達が受けるならどれがいいんだ?」


 任務を見てもよく分からない俺は、先輩冒険者であるリアに意見を聞いた。


 任務クエストにはいくつか種類がある。


 常に発布され、依頼者を通さずにギルドが直接管轄する広域任務。

 一度依頼者と面会し、要望を聞いた上で依頼をこなす専属任務。


 さらに、国が発行する物は任務、個人から依頼が出せれる場合には依頼と表現される。

 任務掲示板にはこれらを掛け合わせた四つの依頼が張り出され、やりたい任務をギルドに報告してから向かう事になっている。


 今回は専属ではなく、常に国から発行されている広域任務を受けるとの話だが、俺にはどれが最良なのか分からない。


「今日はデットラビットの任務がある。奏もいるし、これがいいかもしれない」

「デットラビットって何か聞いた事がありますね」

「初めてルゥのいる飯屋に行った時に聞いた魔物だな。俺が頼んだあの肉だ」

「あのお肉ですか。あのお肉は食べやすかったですね。また食べたいです」

「じゃあ昼はあそこにするか?」

「いいですね。是非そうしましょう」

「あの、任務……」


 勝手に話を進める俺達に、リアが少し戸惑ってしまう。


 そうだ、俺達は飯の話をするためではなく任務を受けるためにここに来たんだった。


「すまんすまん。リアがそれがいいって言うならそうしよう。受付にそれをやりたいっていいに行けばいいんだよな?」

「そう。じゃあこの任務を受ける」


 リアの言葉に従い、俺達は受付へと移動した。


 すると受付嬢が、何故か緊張した面持ちで俺達の対応をする。


「あ、渉しゃま!ようこそいらっしまた!」

「……何でそんなに緊張してるんだ?」


 もしかして新人なんだろうかと思ったが、明らかにそんな感じではない。

 なぜか俺の事も知っているようだし、原因は俺にある気がする。


「せ、先日の戦い見せて貰いました!あんなボロボロになりながりゃも戦う渉様を見て、ファンになってしまったんでしゅ!あ、あの、私エトーレといいます!握手してくだしゃい!」

「あ、ありがとう……でも一旦落ち着こうか。深呼吸して」


 握手をした後、エトーレにそういって落ち着くようお願いする。


 エトーレは言われた通りに深呼吸すると、先ほどまでより落ち着いた様子で対応してくれる。


「す、すいません。緊張しすぎていました……ですが渉様はギルド内でも相当な有名人です。補助適正サポートの渉様がA級冒険者であるリア様に勝つなんて誰も思っていませんでしたから。多分、私のような子も多いと思います」

「なるほど、この視線はそういう事だったのか」


 俺が感じていたよく分からない視線は、先日のリアとの決闘が原因だったらしい。

 リアに勝った事で、良くも悪くも俺の名は広まってしまったと。


 今更ながら観客なしにすればと良かったと思ったが、あれは補助適正が使えると知って欲しかったからおこなったパフォーマンスでもある。


 広まってしまったからには、もう諦めて開き直るしかない。


「人気者で羨ましいですね、兄さん」

「ほっとけ。お前も引く手あまただったくせに」


 俺は決闘前の事を引き合いに出して言い返す。


「私は全部切り捨てましたからいいんです。それに、回復適正ヒーラーと分かった途端に群がる連中なんてろくなのがいませんから」

「辛辣」


 奏は基本的に優しいが、こういう時は手厳しいからな。

 リアの意見も最もだ。


「それで、本日は任務の受注ですか?」

「ああ、デットラビットの討伐任務を受けたいと思ってる」

「デッドラビットですか?渉様ならもっと高難易度の任務も可能度と思うのですが」

「実は俺と奏は魔物を一度も狩った事が無いんだ。だから今日はお試しって事だな」

「リア様を倒せるだけの実力があって魔物と戦った事が無いんですか!?」


 受け付けから身を乗り出すエトーレに俺は苦笑する。


 その姿を見たエトーレは、恥ずかしそうに咳払いをして仕切り直す。


「申し訳ありません、興奮してしまいました。ではギルドカードの方を預からせていただいてもいいですか?」


 そういえば、任務を受けるのにはギルドカードなんて物が必要だったな。


 ギルドカードは冒険者ギルドの発行する身分証明書のようなものだ。

 これが無いと、任務を受けたり報酬を受け取ったりする事が出来ないという。


 任務を受けた事が無かったから完全に忘れていた。


「俺と奏はギルドカードを持っていないんだが、それは今すぐ作れるか?」

「カードの発行はすぐに可能ですが、発行に銀貨15枚が必要になります。お二人ですと、銀貨30枚となりますがよろしいですか?」

「銀貨30枚か。そんなに持ってるか?」


 俺はミアから渡された硬貨袋を取り出す。


 出かける際にはミアからこれを預かっているのだが、昼食ぐらいにしか使っていないのでどれぐらい入っているか把握していない。


 中を見てみると、いつもは入っていない紙切れが入っており、俺はそれを開いて何が書かれているかを確認する。


『本日は任務を請け負うとの事でしたので、いつもより多くの硬貨を入れておきました。ギルドカードの発行は銀貨15枚と記憶しておりますので、金貨とお昼代が入っています。ギルドならば大丈夫だと思いますが、金貨は相場によって変わりますので、詐欺にあわぬようご注意ください。くれぐれも危険な真似はなさらぬよう、怪我無く帰って来る事を願っております。PS.昨日の金貨の相場は33枚と銅貨が4枚です。ご参考までに』


 硬貨袋の中を見てみると、金貨が3枚と銀貨が入っていた。


「ミア、お前は最高のメイドだ」

「何でもお見通しですね」


 手紙を覗いていた奏と共に、ミアの先見の明に脱帽する。


 ギルドカードの事もさることながら、金貨への注意喚起と俺達の身を案じている所にミアの優しさを感じる。

 いいメイドさんがいて俺達はとても幸せだな。


「今日の金貨の相場はどうなってるんだ?」


 俺はミアの忠告を聞き、しっかりと相場を確認する。


「金貨ですか。今日はええと……銀貨33枚と銅貨8枚ですね。なんだか最近は金貨の価値が上がってるのか、昨日よりも銅貨3枚分高くなっています」

「じゃあ大丈夫そうだな。支払いは金貨で頼む」

「分かりました。こちら銀貨3枚と銅貨8枚のお返しとなります。では少々お待ち下さい」


 会計を素早く済ませると、エトーレは受け付けから姿を消す。


 ギルドカードを作るのに少し時間がかかるんだろうと思っていると、数分もしないうちにエトーレは戻ってきた。


「お待たせしました。こちらがギルドカードになります。ギルドカードは任務の受注、発注、そして任務完遂の際に提示していただきます。ギルドカードの再発行には銀貨2枚がかかりますので、無くさないようお願い致します」


「これがギルドカードか。鉄のプレートなんだな」

「カードと言うので違う物を想像していましたね」


 差し出されたプレートを受け取り、俺と奏はそのプレートを確認する。


 鉄で出来たプレートには名前と適正が刻印されており、冒険者ギルドのマークも刻印されている。

 紐を通す穴は開いているため、首にかけたり腕に巻いたりは出来そうだ。


 それにしてもこのプレートに書かれている刻印は、数分やそこらで打ち終わる物ではないと思う。


「これって事前に用意してくれていたのか?」

「はい。お二人はリア様とパーティーを組むとの事で、ギルドマスターから事前にギルドカードの作成要請が出ていたようです。私も知らなかったのでびっくりしました」

「ギルドマスターがやってくれていたのか。これですぐに任務にいけるな」


 パーティーを組むと知った時点でギルドマスターは動いてくれていたらしい。

 ありがたいことだ。


「ではリア様、ギルドカードの方を確認させていただけますか?」

「はい」


 リアが自分のギルドカードを渡し、それを確認したエトーレは羊皮紙に何かを書き込む。


「任務の受注が完了しました。ご健闘をお祈りします!」


 そしてリアのギルドカードを返すと、エトーレは笑顔で俺達を送り出してくれた。

 任務の受注自体はすぐに終わるらしい。


 エトーレに礼を言い、俺達は冒険者ギルドを出る。


「よし、じゃあデットラビットを狩りに行くか!気合入れていくぞ!」

「初めての魔物討伐です!頑張りましょう!」

「おー」


 俺と奏の掛け声にリアも乗ってくれる。


 これが初めての任務であり、初めての実践となる。


 大きな期待と不安を抱きながら、俺達は魔物を狩るために街を出た。

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