第12話 今後の方針が決定しました!
そんなこんなで夕食時。
ミアの用意してくれた魚料理に舌鼓を打ちつつ、俺は昨日あったアテナとのやり取りを四人に伝えた。
直前のヴェーラとの会話も話したが、そちらの方は皆に冷たい目をされた。
脳内フレンドとして扱われていて少し悲しかったのは言わないでおく。
ともあれ、アテナの事に関しては俺の主観も話し、大体の出来事は伝えられたはずだ。
「今日魔通の儀を行って魔法が使えるようになったというのに、いきなり魔法の存在を否定するか。なら私は教会に何をしに行ったんだ」
「それも気になりますが、私としてはアトランティス大陸が出現した経緯にも理由があるというのが気になります。何かのきっかけでアトランティスが出現したというなら、一体何がきっかけとなったのでしょう」
「私が気になるのは文明が低いという点です。渉様達の文明がこちらよりはるかに高いというのは承知しておりましたが、アテナ様の言葉からは、意図的に文明が滞らせているとのではと感じました」
「魔物も気になる。私達は普通だと思ってたけど、超常的ってことは普通じゃない。魔物ってなに?」
各々がそれぞれ疑問を持つが、それに対する回答は誰にも分からない。
アテナの言っていた事は疑問を加速させる事ばかりで、それに対する回答は「アトランティス大陸には秘密がある」という事だけ。
その回答も直接的な回答ではないのだから、疑問に思うのは当然だろう。
「分かっている事は、世界の秘密に辿り着かないと何も分からないという事だ。俺はこの秘密を暴きたいと思ってはいるが、いかんせん情報が少なすぎて暴く手立てに検討がつかない。そこで聞きたいんだが、アテナに関して知っている事を教えて欲しい。もしかしたらそこに世界の秘密を暴くための鍵があるかもしれない」
ミアも一緒に聞いて貰いたかったのは、アテナの事に詳しいのがリアとミアの二人しかいないからだ。
俺も奏も神奈も、この世界のアテナの事を全くと言っていいほど知らない。
重要となるのは、ミアやリアの持っているアテナに関する情報だ。
冒険者と貴族から見るアテナ像は違うだろう。
持っている情報もそれぞれ違うと思うし、二人のアテナに関する情報を共有したかったのだ。
「アテナ様に関してですか。私はアテナ教ではありませんので詳しくは知りませんが、それでもよろしければお話しさせていただきます」
「頼む」
ミアは一つ間を置くと、自分の知っているアテナに関して話し始める。
「このアトランティスでは遥か昔、三人の神による戦いがありました。守護女神アテナ、天空神ゼウス、天空神ウラノス。この三人がアトランティスの地で争い、その覇を競っていたとされています。ゼウスは全知全能の力を以って、ウラノスは星の力を以って、アテナは知恵と戦略を以って戦を繰り広げていたのです」
ミアは静かに、そして厳かに話を続ける。
「しかし、その戦は民を巻き込み、その被害は広がっていきました。ウラノスはアトランティスの一部を焦土と化し、民を守るためにゼウスは
話を聞くと、ウラノスは相当の野心家だったみたいだ。
ゼウスも民のために戦っていたようだが、アテナは民に寄り添って戦っていたらしい。
民に寄りそうアテナはその国の民にとって、それはとても心強かった事だろう。
「神の力の源は人の信仰により変わります。民の信頼を集めたアテナが力を強めていった結果として、ウラノスはゼウスによって葬られ、ゼウスは信仰を奪われ弱体化。その虚を突いたアテナがゼウスに引導を渡し、アテナの勝利によってこの大陸に平和が訪れました」
三人の神々の戦いは、アテナの勝利によって終焉を迎えたようだ。
宇宙を初めて統べたといわれるウラノスと、全宇宙を支配するといわれるゼウスに勝利したというのは驚きだ。
信仰の力は、それを凌駕するほどに強いらしい。
ゼウスも民のために戦っていたというのに、信仰がアテナに奪われるというのも皮肉な話だ。
「そのような逸話があるからか、そのお膝元となったアトランティスが、この大陸で一番大きな国家として誕生しました。アテナ教はこの大陸でも一番の宗派となっていて、他の国々にも教会が立ち並ぶほどです。恐らくこの大陸でアテナ教を知らぬ者はいないでしょう。私が知っているアテナ様に関する情報はそれぐらいです」
「そんな話があるならアテナ教も信仰されるわけだ。宗教で国が確立されるなんて、やっぱり宗教は強いな」
俺はミアの話を聞き終え、そんな感想を抱いた。
宗教は国滅亡させる力を持っている。
その例としては、東パキスタンが挙げられるだろう。
宗教上の理由で戦争が起き、バングラディッシュが独立した事で東パキスタンは消滅してしまった。
宗教戦争は国を滅ぼすと共に、国を立ち上げる力も持っているという事だ。
やはり、宗教の持つ力には末恐ろしいものがある。
「そういえばアテナ教は、それぞれの国に神殿を持ってるって聞いた事がある。冒険者の間では、その神殿を全部回ると至上の幸福が得られるって噂。もしかしたら、神殿を回れば何か分かるかもしれない」
「至上の幸福?」
リアの言葉に、俺は少し興味を惹かれる。
神殿を回るだけで得られる幸福なんてあるのだろうか?
「何か分からないけど、お金とか地位とか言われてる。でも、その神殿の一つが魔王領のアテナイにあるから、誰も行こうとしない」
アテナイとは、魔王の支配する国の名前だ。
この大陸には、アトランティス、アトラス、エレフセリア、アテナイの四つの国がある。
リアはそれぞれの国に神殿があるというが、魔王領にも神殿が存在しているらしい。
魔王領は魔物に溢れかえり危険であるため、冒険者でもそうそう近寄らない。
死に直結する可能性がある所に、噂程度で行くような奴はいないのだろう。
「本当にその神殿はあるんですか?」
奏がリアに対して問いかける。
「ある。魔王城がその神殿って言われてる。魔王を討伐しに行った冒険者がそう言ってたらしいから間違いない」
「魔王を討伐しにいった奴がいるのか。そいつらはどうなったんだ?」
「負けたけど全員生きて帰ってきたらしい」
「魔王相手に生きて帰ってこられるなんて、相当な実力なんだろうな」
魔王がどんな奴か知らないが、魔物を統べるという事はそれだけ強力なのだろう。
もし神殿を回るとなると、魔王と敵対する事になるかもしれないな。
「手掛かりは神殿を回るという事だけか。渉はそれを回る気でいるのか?」
神奈から疑問の声が上がる。
他に手掛かりとなるようなものもないし、神殿を回る以外に今は選択肢が無い。
当面はその神殿に向かう事が目的となりそうだ。
「魔王城はともかくとして、他の国は回ってみても損は無いだろう。現状では他に手がかりもないし、俺は回ってみたいと思う」
「私も気になります。それに、他の国にも行ってみたいと思っていました。ついでに秘密探し出来るのならいいと思います。リアも行ってみませんか?」
「私も行きたい」
奏とリアも同意してくれる。
二人も世界の秘密を探る事を手伝ってくれるみたいだ。
俺一人では限界があるし、手伝ってくれる気満々なのは非常にありがたい。
「まあ手伝えることがあったら言ってくれ。武器を見繕うことぐらいなら私にでも出来るからな」
「私も何かあればお申し付け下さい。微力ながらお手伝いさせていただきます」
「ありがとう二人共。その時はよろしく頼む」
二人の後押しもあり、世界の秘密を探る事に関しての目標が決まった。
大陸を回り、各地の神殿に赴いて手掛かりを探る。
その為に色々とやらなければいけない事はあるが、目標が決まったのはとても大きい。
目標があるのと無いのでは、天と地ほどの差が存在するからな。
目標があった方が、日々の生活にもハリが出るというものだ。
「よし、方針も決まったし明日からはそれに向かって動く事にしよう。明日は今日出来なかった魔物の討伐
「任された」
リアの力強い頷きに、俺は頼もしさを覚える。
A級冒険者がいるのだから、何も不安に思う事は無いだろう。
こうして当面の目標も決まり、色々な事があった一日が幕を降ろすのだった。
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