第4話 ミアは強くなりますよ?

 俺達は昼食を取る為に、城の中庭へと場所を移していた。


 城の中庭も前庭と変わらないほど見事に造園されており、ちょっとしたピクニック気分を味わう事が出来るほどだ。

 そんな庭に設置されたテーブルには既に料理が並べられ、いつでも食べられるような状態になっている。


「兄さん、フルコースみたいですよ」

「ああ、初めてだな、フルコースは」


 目の前に置かれた前菜は、色鮮やかな見た目で食べる者を楽しませてくれる。


 トマトの器に入っているのは何かのムースだろうか?

 その器から伸びるバジルソースで描かれた天使の羽は、食を通り越してもはや美の域に達しているように思える。


 こんな料理を間近で見るのも初めてだ。


「最近新しいシェフを雇い入れたんだ。味や見た目は保証しよう。マナーなんて気にず、存分に楽しんでくれ」


 国王が上座に座り、笑顔で着席を勧める。

 俺はリアの隣に、向かいに父と奏とミアが座り、国王との昼食会がスタートした。


「渉といったか、ミアはメイドとして働けているか?」


 国王が前菜に手をつけながら問いかけてくる。


 ミアと最も関わっているのは俺と奏だ。

 ミアを送りだした国王としては、上手く馴染んでいるか気になるのだろう。


「十二分に。家事全般はもちろんの事、私達の細かなサポートまでしてくれているので、とても助かっています。ミアが居なくなったら、私達はろくに生活できなくなるかもしれませんね」

「そうかそうか。ローゼンタール家の娘を親衛隊に入れる事は無いと聞いた時はどうしようかと思ったものだが、ローゼンタール家の娘を寄越したのは正解だったようで安心したわ。西川家に送っていなければ、こうして飯の席を共にする事もなかっただろう」

「無能な私の為に国王自ら苦心いただいた事、まこと光栄に存じます。これからも誠心誠意、西川家の方々にお尽くしし、方々ほうぼうの期待を裏切らぬよう邁進していきたいと思います」

「うむ。親衛隊から外れてしまったとはいえ、ローゼンタール家には期待しておる。これからも精進せよ」


 国王とミアのやり取りに、俺はどうにも引っかかりを覚える。


 ミアは自分の事を卑下しているし、国王もそれを否と否定しない。

 補助適正は使えないという根幹が、ミアにも残ってしまっているのだろう。

 そのイメージは払拭しなければいけない。


「ミア、無能だなんて自分を下に見ないでくれ。お前は自分が思っている以上に優秀だ。俺はそれを、ミアの親衛隊入りで証明してやる」

「え……?」

「ほう……?」


 俺の言葉にミアは驚きを、国王は面白いと言ったように笑みを浮かべる。


 ミア曰く、補助適正が親衛隊入りを果たした事は無いらしい。

 それは、補助適正が使う魔法が未完成品だった事に起因すると思われる。


 しかし、俺は魔法を完成させる方法を知っている。

 ミアがそれを覚えてくれれば、誰にも負けないような最強の騎士となることだってできると思っている。


 これは決して法螺話ほらばなしなんかじゃない。

 本気でそう言えるだけの自信はある。


「私はギルドでも結構強い。でも、私は補助適正の渉に勝てなかった。今の渉は多分、親衛隊にも劣らない戦いが出来る」


 リアが後押しするようにそう説明してくれる。


「リアちゃんはこの街の冒険者ギルドでも1,2を争う実力なんだっけ?本当に渉君が勝ったの?」

「ボロボロの死にかけでしたけどね。兄さんはは何もしてないって言いますけど、兄さんの魔法は正直人間の範疇を超えています」

「酷い言いようだな」

「あんなしゅぱしゅぱ瞬間移動出来るだなんて聞いていませんよ。それに脳内にもう一人の自我があるなて、にわかには信じられません」

「渉君、なんか人間やめ始めてない?」

「気のせいだ」


 父も奏も酷い物言いをする。


「渉様、本当にそんなことできるのですか……?」


 疑うようにミアが問いかけてくる。


 親衛隊に入る条件は、話を聞く限りでは王族にどれだけ貢献できるかだ。

 攻撃魔法は王族に降りかかる火の粉を払いのけるのに役立つが、補助魔法は王族に直接役立つような使い方が出来る。

 攻め入られた時の王族の安全な場所への避難、敵の足止め、私生活でも王族のサポートに回る事も出来るだろう。


 攻撃魔法ではこなせない、補助適正だからこそできる事はいくらでもある。

 それをミアに叩きこめば、親衛隊に入ることなど造作もないだろう。


 戦闘力は問題ないし、騎士団時代の実績もある。

 障害として立ちはだかっているのは魔法だけなのだから、それさえ克服してしまば引っ張りだこのはずだ。


「絶対に出来る。ミアが補助魔法を完璧に操れたらっていう制限は付くがな。逆に魔法を覚えたら、誰にも負けない最強の親衛騎士にもなれるぞ」

「その言葉、偽りはないのか?」


 国王が笑いながら聞いてくる。

 その笑みが嘲笑か期待かは分からないが、俺は断言する。


「我が言に偽りなし。とくとその眼に焼き付けようぞ」

「兄さん、時代劇ごっこはいいですから。意味分からないですし恥ずかしいんでやめてください」

「……辛辣すぎない?」


 奏のツッコミは時たま心を抉るように強く突き刺さる。

 悲しくなってくるので、出来るならソフトにやってもらいたいものだ。


「ははは!では見届けるとしよう。期待して待っておるぞ!」


 しかし、国王には気に行って貰えたようで、国王からは大きな笑い声が響いたのだった。


 やったぜ。

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