第3話 足が痛かったです……
三十分後。
「なあミア、いつになったら国王様は現れるんだ?」
俺は微動だにしないミアに問いかける。
今のところ、国王が現れる気配は全くない。
「国王様はお忙しいお方です。私の謁見の際もかなりお待ちしました。もうしばらくお待ちください」
「そうか……」
国王ともなると、そう簡単には時間も取れないのだろう。
これぐらいは仕方ない事か。
一時間後。
「足が痛い……」
国王を待ち始めて一時間。
ずっと同じ体勢を取っているため、俺は足に痛みを感じ始めていた。
リアもミアもずっと同じポーズを取っているのに、全然疲れた様子が無いから流石だ。
そして、驚くべき事に奏もずっと同じポーズを取ったまま弱音を吐かずにいる。
真っ先に音をあげそうなのだが、一体どんな魔法を使っているのだろうか。
奏の方を観察していると、少し足がプルプルしてくる。
やはりそろそろ限界なのだろうと思っていると、奏の口元が少し動いた。
「
その言葉と共に、奏の足の震えが止まった。
こいつ、自分に回復魔法をかけて疲労をなかった事にしてやがる……!
こんな事に魔法を使う奏に驚いても、国王はまだ来ない。
二時間後。
先ほどまで誰も入って来る気配のなかった王の間に、突然幾人もの兵士が入ってきた。
そしてその兵士たちは壁際に立つと、剣を掲げて動かなくなる。
「ようやく国王様のお出ましか……?」
俺は少し嫌味ったらしくそう呟く。
もう待ち続けて二時間以上が経つ。
ここに入った時は、まさかここまで待たされるとは思ってもいなかった。
大体、謁見したいと言ってきたのは向こうなのに、ここまで待たせるなんてありえないだろう。
「もうしばらくお待ちください」
しかし、ミアの言葉は先ほどまでと変わらない。
なんだか、凄く嫌な予感がする。
「待たせたな」
そう言って国王が現れたのは、この王の間に入って三時間後の事だった。
外ではきっと日が昇りきり、もう昼となっている頃だろう。
俺はここまで待たされた事に苛立ちを覚えつつ、必死にそれを心の底にしまっておく。
「面をあげよ」
国王のその言葉に従い、俺達は一斉に顔をあげた。
王座には一人の壮健な男性が座っており、あれがこの国の王、リチャード・アクロポリス・パラスなのだろうと認識する。
その隣にはなぜか父が立っており、声が出そうになるのを抑え込んだ。
なんでさも当然のように隣に立っているか分からないが、このように登場されると、ここまで待たせたのは父なんじゃないかと疑いたくなってくる。
「よくぞ参った、大陸外からの来訪者よ」
仰々しくそう言う国王からは、国王と納得出来るだけの重圧を感じる。
普段ならば縮こまってしまうだろうが、今は不思議とその重圧を何とも感じない。
「今日お主らを呼んだのは他でもない、ある依頼を受けて貰いたかったからだ」
その言葉に俺は内心で愚痴をこぼす。
謁見は俺達に興味があるからと父は言っていたが、頼み事があるなんて全く聞いていない。
一体何を命令されるんだと思いながら、俺は国王の話を聞く。
「この大陸のはるか南、そこには魔王の城がある」
この大陸には魔物が跋扈しており、それらを統べる魔王という存在がいる。
そしてその魔王は、はるか南にあるという魔王城に籠っているらしい。
「我々は日々魔物の脅威に怯え生活しておる。この街は魔王の城から離れているため被害は少ないが、魔王の城に近い街では常に被害が出続けておるのだ」
この国も一部が魔王領と接しており、そこから被害が魔物の被害が広がっているというのはミアから学んだ事だ。
「お主にはその城に行き、魔王を倒してもらいたい」
なるほど、頼みごとがようやく理解できた。
国王は俺達にRPGでよくある勇者をやらせたいらしい。
だが、魔王と戦うという事は、自らの命を差し出すのと同等だ。
魔王がどれほどの強さかは知らないが、ミア曰く、本気を出されたら世界が終わるほどに強力らしい。
そんな相手を倒せと言われ、特に忠誠心もない俺が頷くと思っているのだろうか。
「受けてくれるな?」
三時間も待たされていなければどう答えていたかは分からない。
もう少し詳しい話を聞いて、億が一の可能性で受けていたのかもしれない。
だが、今の俺は最高に苛立っていた。
三時間も待たせておいて、何を言っているんだと。
だから、俺はここまで酷い言葉が出てしまったのだと信じたい。
「受けるわけないだろう。少しは考えろ、脳足りん」
……我ながら、国王様に向かってこの口調は無いなと思う。
「渉様……!」
声を殺しながらもミアが俺を攻めてくる
。
流石に脳足りんは酷すぎた。
もしかしたら不敬罪でしょっ引かれるのかもしれない。
「……武雄、君の言っていた反応と違うじゃないか」
「流石に三時間は待たせ過ぎかと。恐らく、堪忍袋の緒が切れかかっています。取り扱いにはご注意を」
「そういえばお前の国では時は金なりというのだったな。これが普通だったから忘れていたわ」
そう言って父と言葉を交わすと、国王は俺へと視線を向ける。
「挨拶は冗談だ。こちらに来て間もない人間に魔王討伐に行けなどと、土台無理な話だという事は分かっておる。今のはお前たちの父から教わった通過儀礼だと聞いて言っただけだ、気にするでない。時間に関しては私も多忙の身。どうか理解してくれ」
「あ、いえ。こちらこそ無礼な物言い、申し訳ありませんでした。謹んで訂正、お詫び申し上げます」
国王にの言葉に、俺は気が抜けたようにそう謝罪していた。
父から聞いたという事は、RPGの初動を国王が真似したという事だ。
思っている以上に、この国の国王はユーモラスな人なのかもしれない。
「構わんよ。お前の父には世話になっておる。お前も出来た息子のようだし、もっと気楽に接してくれ」
「ではそのようにさせていただきます」
「敬語もいらんぞ」
「そう言っていただけるのはありがたいですが、国王にそのような言葉遣いはできません」
「脳足りんだと言った奴が良く言うわ」
そう言って国王はくっくと笑みを零す。
良かった、どうやら不敬罪でしょっ引かれる事は無さそうだ。
「そうだな、待たせた侘びといっては何だが、今から共に昼食会でも開くか。今は家内も全員で払ってしまっているからわし一人となるが、まあその方が都合はいいだろう」
国王がリアを見ながらそう口にする。
わざわざリアを見て発言したという事は、獣人に何かあったりするのだろうか。
国王が獣人の事を嫌っているのかは分からないが、共に食事をすれば何か分かるかもしれない。
「ぜひご一緒させてください」
こうして俺達は、国王主催の昼食会に参加する事となった。
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