第2話 城はおっきいのです

 王城内は思っていた通り、いや、思っていた以上に広かった。


 城門を抜けてすぐに広大な庭があり、色とりどりの花や草木は城の艶やかさを演出し、見るものを魅了していく。

 その先にある城は端然とそこに建ち、見事に風景と調和して自然と溶け込んでいた。


 城へと辿り着くと、今度は城の広さに目を見張る。

 天井は数メートルもあろうかというほどに高く、通路も十人は余裕に横並びで歩けるんじゃないかと思うぐらい広い。

 随所に散りばめられた装飾は王の権威を表し、この国に力があることを思わせる。


 俺は初めて見る城の内部に感動を覚えたが、父は通い慣れているのか、こっちだよと言ってスタスタと歩きだした。

 ミアだけがすぐについていき、俺と奏とリアは慌ててその後を追う。


「あの、本当に私も一緒に行っていいの?」


 俺の少し後ろを歩くリアから、そんな声が上がる。

 獣人として国王に謁見するのが不安なのだろう。

 差別されている側として、その人種のトップと顔見せするのは恐れ多いのかもしれない。


「良いも悪いも俺達はパーティーなんだぞ。もしリアだけ省かれるようなら、この謁見自体なかった事にして貰おうと思ってる」


 ここでリアの同席を許可されないのなら、俺はこの謁見を蹴ろうと思っていた。

 本当に俺達と会話をしたいというのなら、獣人の一人ぐらい許容してくれるだろう。

 ここでリアの同席を許可されなかったら、所詮はその程度だという事だ。


 逆にリアの事を許容してくれるなら、もしかしたら獣人の差別問題に提言する事が出来るかもしれない。

 もし国王が動いてくれるような事になれば、獣人の待遇もかなり改善される事だろう。


 すぐにとはいかなくても少しずつ変わるきっかけになるのなら、リアも同席する大きな理由になる。


「なかった事にされるのは困るんだけどなあ。でもリアちゃんがいても問題ないと思うよ。相手は他の国とも対談する王様なんだ。獣人の一人くらい受け入れてくれるよ」


 父の言葉に、俺はそれもそうかと納得する。


 国王ともなれば様々な人種とも外交している事だろう。

 獣人であるからといって対談を断るのは、あまりにも国益に大きく影響してしまう。

 嫌っているかどうかは置いておいて、無下にする事は無いのかもしれない。


「何でそんな国を相手取る国王様が俺達に召集をかけたんだ。親父の外交の手伝いって訳じゃないんだろう?」


 俺は父にそんな疑問を呈する。


 今の俺達は場違い感が半端なく、間違いなく周りから浮いている。

 服は何でもいいと言われ私服を着てきたが、周りは制服のようなものを来ている者しかおらず、それらの者から刺さる視線が痛い。


 なぜここに、という声が聞こえてきそうだが、それは俺が一番に聞きたい事だった。


「渉君達に外交させようだなんて考えていないから安心してくれていいよ。今回の謁見は、単純に王様が君達に興味を持ったからだ。王様に渉君達の事を話したら興味を持たれちゃってね。あまり失礼な事はしないで貰いたいけど、そこまで深く考えずに王様とお話してくれれば十分だ」

「……余計な事は言ってないだろうな?」


 話しの種にされるのは別に構わないが、国王が興味を持つような事は何一つないはずだ。

 何に興味を持ったのか甚だ疑問だが、ある事無い事話されでもしていたら、たまったもんじゃない。


 外交は関係ないと言ったが、出来るならば王族とは上手くやっていけた方がいいだろう。

 出来る限り父に支障のないよう対応したいが、ない事を話されて失望されたらどうしようもない。


「大丈夫。君達の事で話したのは、ミアに子供が世話になっているって事と、渉君が補助適正サポート、奏ちゃんが回復適正ヒーラーになった事ぐらいだから」

「それぐらいならいいが、それはそれで俺達に興味を持った理由が気になるな」


 補助適正も回復適正も、人数は少ないとはいえこの国にはいるだろう。

 ミアだって補助適正なのだし、興味を持たれるには弱い気がする。


 一体何に興味を持ったんだろうな。


 そんな雑談をしながら歩く事しばらく、俺達は王の間のようなところへ辿り着いた。


 普通にパーティーが開けそうなほど広い空間には俺たち以外誰もおらず、入って向かいには王座のような物が二つ置いてあった。

 恐らく、あそこに国王と女王が座るのだろう。


 豪華な装飾の施されている椅子は無駄に背もたれが長く、その背もたれの上の方には国章が飾られていた。

 梟とオリーブ、そしてアテナの持っていた盾・アイギスが描かれた国章は、この国の安寧を願ったものである。


 王座の背後に飾られた垂れ幕にも同じ国章が描かれおり、この国の存在感を全面的に押し出している印象を受けた。


「じゃあ君達はここで待っていてくれ。王様を呼んでくるから」


 そう言い残し、父は足早にこの部屋から出ていってしまう。


 国王を呼んでくるとは、父と国王の関係は一体どうなっているのだろう。

 今にして思うと、案内もなしに王の間まで普通に来れたのも驚きだが、謁見というのは普通、時間を指定していくものではないのだろうか。


 そんなことを思っていると、ミアは王座に向かって片膝をつき、頭を垂れてその場に静止した。


「ミア、何やってるんだ?」

「王が来て無礼のないよう、王が来るまでこうして待つのが通例となっています。御三方も私に習ってお待ちいただきたく思います」


 どうやら、この国には国王を待つのにも礼儀作法があるらしい。

 片膝をつくのは忠誠心を示すためだから分かるのだが、顔を伏せるというのはどういう事なのだろう。

 いきなり顔を見るのは無礼という事なのだろうか。


 その事を聞いたリアは、すぐにミアに習って片膝をつき頭を垂れる。


「俺達もやるか」

「そうですね」


 俺と奏もリアに習って同じポーズを取る。

 面倒だが、これが通例ならば仕方ないだろう。


 俺達は片膝をつきながら、国王の到着を待つ。

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