第一章

第1話 登城です!

「はー、やっぱり近くで見るとでかいなー」

「そうですね。第一運河も第二運河と比べ物にならないほど広いですし、とても綺麗です」


 俺と奏は馬車から見える景色に目を奪われていた。


 目の前に見えるのは、首都・アクロポリスの中心にあるサンタ・クルース城だ。

 そびえ立つ城壁はその堅牢さを物語り、周りに広がる第一運河はその城の優美さを醸し出している。


 城と第一区画を繋ぐのはたった一つの橋だけで、今の俺達はその橋を渡っているところだった。


 橋が一つしかないというのは不便だと思うのだが、城の出入り口がそこしかないというのだから仕方ない。

 城へと用のある者は結構いるようで、思った以上にその橋の通行量は多い。


「なんで私まで王宮に」


 そう言いながら向かいで愚痴をこぼすのは、つい昨日俺達のパーティーに加わった、災厄の黒猫ブラックディザスターことリアである。

 いつもと同じローブを羽織るリアの表情は曇りに曇っており、これが世間に名をはせるA級冒険者の姿なのかと突っ込みたくなる所だ。


「パーティーメンバーなのですから、死ならばもろとも、毒を食うなら皿までです」

「その通りだ。パーティーメンバーに加わったのなら一蓮托生。王宮から魔王城まで、どこまでも一緒に来て貰うぞ」

「どうせなら魔王城の方がよかった……」


 リア的には気を使う王様より、気兼ねなく相手出来る魔王様の方がお望みらしい。


 かくいう俺も、本心では王様なんかとは謁見したくなんてない。

 しかし、父がもう謁見は決まっているというのだから、道連れは多いに越した事は無いだろう。


「リア様が緊張なさるのも無理はありません。国王様との謁見なのですから、お二人ももう少し緊張感を持たれてはいかがでしょうか」


 リアの隣に座るミアから、そんな注意の声が飛んでくる。


 古くから親衛隊に名を連ねるローゼンタール家の長女として、今の俺達の緊張感の無さは少々気になってしまうらしい。


「一応これでも緊張はしているんだぞ?ただ、国王様と会うって言うのが今はあまりピンとこなくてな。その緊張感が薄いのは事実だ。まあ、王の間までいけばおのずと緊張感も増してくるだろう。それまではこの状況を楽しませてくれ」


 なにせ、王城を間近で見るのは初めての事なのだ。

 少しぐらいはしゃいでも罰は当たらないだろう。


 そんな俺の態度に、ミアは諦めたようにため息をつく。


「差し出がましいようですが、くれぐれも無礼のないようお願い致します。私から申し上げたい事はそれだけです」

「善処しよう」


 父の事もあるし、よほどの事でもない限り無礼を働く事は無いだろう。

 大体、国王に無礼を働くなんて、後が怖くてできたものじゃない。


「いやー、それにしても驚いたよ。まさかもう獣人の子と仲良くなっているなんてね。人族の友達を作っていると思っていたからびっくりだよ」


 俺の隣に座る父が、嬉しそうに声をあげる。

 この大陸では人族に分類される俺達が、同族である人族の友達を作ると考えるのは当然の事だ。


 それに、この国では獣人の地位が低いという事もある。

 真っ先に獣人が友達になるなんて、父には考えられなかったのだろう。


「リアはとっても素直で可愛いのです。こんないい子放っておけるわけありません」

「恥ずかしい」


 フードを取って抱きかかえながらその頭を撫でる奏に対し、リアは顔を赤面させながらそう呟く。

 しかし、相も変わらずリアは抵抗せず、奏のなすがままにされている。


「ははは!仲が良いようで何よりだよ。これからも仲良くしてあげて欲しいな」

「……私なんかでよければ」


 リアのその言葉に、奏がより一層抱きしめる力を強めたのが分かった。

 きっと、昨日までのリアだったら完全に拒絶していただろう。


 奏のスキンシップは過剰な所はあるが、そのおかげでリアは心を開いていくのかもしれない。

 リアも嫌がっていないようだし、これからも上手くやっていけそうだ。


「王城が近づいてきましたよ」


 ミアの言葉に、俺は外へと視線を向ける。


 そこにはもう城は見えず、城壁だけが悠然とその存在を主張していた。

 城壁でこれだけとなると、城はどれほど大きいのだろうか。


 俺はちょっとした期待感と緊張をもって、城へと入っていくのだった。

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