"?����?��??��??���� ?"
「……?知らない天井……天井すらない?」
目を覚ますと、俺はよく分からない空間に立っていた。
雲の中にいて、その雲に光が乱反射しているような空間。
足元は不安定に思えるのに、不思議と落ちるようには思えない。
むしろ浮いているような感覚すら覚え、もう上か下かも分からない。
まるで宇宙にいるかのようだ。
行った事は無いが。
「やっとここに辿りつく人間が現れましたか……」
背後からそんな声が聞こえてくる。
そちらに目を向けると、どこかで見た事があるような可愛らしい少女が立っていた。
しかし、初めてで見る訳ではないのに、その声は一度も聞いた事が無い。
それは例えるなら、雑誌で見たモデルのような感覚。
顔は知っているけど、声は知らない。
俺は一体どこでこの少女を見たのだろう。
「初めまして。私は女神アテーナー。アトランティスでは女神アテナとして祀られている、首都アクロポリスの守護神です」
「……ああ、どこかで見た事あると思った。そうか教会で見た事があったのか」
俺はアテナの自己紹介で、ようやくここにいる少女をどこで見たのか思い出した。
初めて教会に行った時、その教会に祀られていたアテナ像で見た事があったのだ。
ただ、ああいった像は大抵見た目が変わったり、誇大表現されるものだと思っている。
まさかあの像が、本当にアテナを模しているだなんて思わないだろう。
「一つ聞きたいんだが、この空間は一体何なんだ」
「私は神室と呼んでいますが、無重力状態の空間ですかね」
「それで、貴方は神様」
「そうです」
「なるほど、夢か……寝よう」
俺はそう結論付け、静かに目を閉じる。
この世界に神などいない。
死にかけたせいで頭のネジが飛び、こんな夢を見ているのだろう。
一度しか見た事ない物を引っ張り出してくるなんて、我ながら酷い夢だ。
「寝ないでください。私は貴方に伝えなければならない事があるのです」
アテナのその言葉と共に、俺の目の前を何かが飛びまわった。
顔に当たるくすぐったい感触に不快感を覚えて目を開けると、何か鳥のようなものが俺の目の前で羽ばたいている。
「おい、やめろ!鬱陶しいわ!」
「では寝ないでください。黙って私の話を聞いてくれるのなら引っ込めましょう」
「分かった!話しぐらい聞いてやるから早く引っ込めろ!」
「グラウクス、戻りなさい」
アテナがそう言うと、その鳥はアテナの手元へと飛び去っていく。
その鳥を良く見てみると、烏だとか鷹だとかではなく真っ白な梟だった。
素晴らしい調教をされた優秀な梟だこと。
「で、話って言うのはなんだ。天地開闢の慣れ染めでも教えてくれるのか?」
「貴方、随分と失礼ですね」
「生まれてこの方、神様なんて信じられる世界に生きていなかったからな。どうせ夢の話しなんだし、別に良いだろう」
この空間は明らかに現世のものではない。
さっきの梟の感触や感覚は起きている時と同じだが、この空間を説明するには不十分すぎる証拠だ。
夢と断言しても不思議でないだけの条件が整っている
「まさかここに来る人間がこんな方だとは……このような方に、本当に任せてしまっても良いのでしょうか」
何かを呟いてため息をついているアテナ。
何を考えているか知らないが、早く解放してくれないだろうか。
「まあいいでしょう。では、とある秘密を一つ貴方にお伝えします。これを聞けば、貴方は嫌でも興味を示すはずです」
「随分と自身があるみたいだな。じゃあ聞こうか、その秘密って奴を」
自身ありげにそう口にするアテナに、俺はしっかりと向き合って話しを聞く態勢を取る。
アテナの言う秘密がどんなものかも気になるからな。
話しを聞く態勢を取った俺に、アテナは不敵に笑みを零しながら言った。
「この世界に魔法なんて存在しません。貴方が今まで魔法だと思って使ってきたそれは、魔法なんかじゃないのですよ」
「……魔法が無い?」
俺はアテナの発言に首をかしげる。
魔法が無いのなら、今まで俺達が使ってきたものは一体何なのだろうか。
奏の回復魔法、俺の補助魔法、リアの攻撃魔法。
どれも、科学の力では証明できない力だ。
それは、あの小学生科学者、神奈の口から明言されている。
ゆえに、超常的な魔法以外のなにものでもないはずなのだ。
俺の反応に満足したのか、アテナは笑顔で話し始める。
「第三次世界大戦中、突如として出現したアトランティス大陸。現代に置いてはるか後方を歩く文明にも関わらず、世界はアトランティス大陸への侵攻をする事が出来ませんでした。それどころか世界は戦争を停止し、アトランティス大陸への調査に乗り出したのです。不思議な事だとは思いませんか?文明でははるかに勝っているのに、世界はアトランティス大陸へ手出しも出来なかった事を」
「確かに……」
アテナの話を聞き、俺は考え込む。
アトランティスは謎に包まれた大陸とはいえ、資源の宝庫である可能性は非常に高い。
当然、戦争をしていた世界各国は、この大陸を侵略しに訪れた事だろう。
しかし、この大陸には侵略された形跡など微塵もあらず、国民は大陸の外に世界が広がっていることすら知らない。
今にして思うと、それは非常に不可解な事だ。
生活している様子を見ると、この国が世界大戦を生き残る事は出来ないと思われる。
国の発展具合から察するに、この街は空襲一つで壊滅するだろう。
魔物もいるにはいるが、数で攻めればどうにでもなる。
抵抗できるだけの力など持っているはずもないというのに、世界はこの大陸を侵略出来ず、わざわざ戦争を止めてまでこの大陸の調査に乗り出した。
どうやって世界からの侵略を食い止めたのか。
そして、世界の国々が戦争を止め、調査を言ないといけないと迫られるものは一体何なのか。
一体、この大陸に何があるというんだ。
「このアトランティス大陸には秘密があります。アトランティス大陸の出現。貴方の行使する「魔法」の力の源。魔物という超常的な存在。そして、アトランティスの文明の低さ。それらには全て理由があり、そして、アトランティス大陸の秘密に繋がるのです」
「アトランティス大陸の秘密?」
その言葉に、俺は少し冒険心をくすぐられた。
秘密といわれると、非日常感を覚えてしまうのは俺だけではないだろう。
秘密というのは、いわばパンドラの箱。
そこに何があるか分からず、触れていいのかどうかすら分からない。
しかし、人間はそういったものに好奇心を抱く生き物だ。
その秘密を暴きたいと思うのは自然なことだと思う。
「貴方には、これからその秘密を探っていただこうと思います。ここに来るだけの力があるのなら、世界の秘密に辿り着く事も出来るでしょう」
「お前が教えてくれればいいだろう。もったいぶらなくてもいいぞ」
「残念ながらそれはできません。それをしてしまっては面白くないじゃないですか」
「面白い面白くないで世界の秘密があるって教えるのはどうなんだ」
「今まで信じてなかった私の話を鵜呑みにするのはどうなんでしょうね」
にやにやと笑いながら覗き込むアテナに、俺ははっとする。
初めは夢だと思いながら話を聞いていたのに、いつの間にか俺はアテナの話を真実だと思いながら聞いていた。
なぜだか分からないが、アテナの言葉には不思議な説得力がある。
アテナが白だと言えば。烏も白くなるような不思議な感覚。
思考が誘導されているのではと気付いた時、俺はアテナに潜在的な恐怖を感じた。
ヴェーラの時とは比べ物にならないほどの怖気。
信用とか信頼なんてもので覆るものではない、それら全てをひっくり返したような恐怖感。
あまりここには長居しない方がいい。
ここに居続けると、俺は俺でなくなってしまう。
滲む汗を感じながらどう逃げ出すか考えていると、アテナは笑いながら頬に手を当てた。
「……ふふふ。なるほど。大丈夫かと心配になりましたが、あながち無能ではないようですね。警戒していてそれを解く者はいましたが、最後になって私を警戒する人間は初めてです。貴方なら楽しめるかもしれません」
笑っているのに笑っていない、その突き刺さるような冷たい目に、俺は身体の震えを抑えられなくなる。
今更ながらに、俺はここが夢の世界ではないと実感した。
この恐怖心は本物だ。
こいつは人とは違う、何か別の存在であることを認識させられる。
それこそ、人を超越した神という存在。
今なら、その存在を信じる事が出来る。
人ならざる者の存在を強く感じた今なら。
「恐怖心でもうろくに喋る事も出来ないようですね。残念ですが、今日はここまでにしておきましょう。私から伝えたい事は伝えましたし、これからは自然と秘密に近づいていく事になりそうです。簡単には死なないでくださいね?貴方には期待しているんですから」
俺の眼前まで迫り、吐息がかかるほどに近づきながら、アテナは笑顔で俺にそう言った。
普段なら胸も高鳴るだろうが、今の俺にはその笑顔が恐怖の対象にしかなっていない。
俺が何も出来ずにいると、アテナは俺のおでこを人差し指ではじいた。
「貴方の今後を楽しみにしましょう。願わくば、貴方が世界の秘密に辿り着かん事を」
その言葉と共に、俺の意識は闇へと沈んでいく。
なぜ、俺があそこにいけたのかは分からない。
なぜ、世界の秘密があると教えられたのかも分からない。
アテナの提示した疑問には何も解を見出せず、残ったのはただの謎ばかり。
あの空間に行って唯一分かった事は、神は恐ろしい存在だという事だけだ。
もう、二度とあそこには行きたくない。
そう願いながら、俺は意識を失った。
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