第59話 それでもやっぱり、リアがいい
「さて、これから一緒にパーティーを組む事になった訳だが、何かリアから聞きたい事はあるか?何でも答えるぞ」
俺は運ばれてきた料理をつまみつつ、ようやく奏から解放されたリアにそう問いかける。
ちなみに、奏は30分ほどリアを拘束しており、リアは終始奏のおもちゃになっていた。
しかし、その間リアは全く嫌がる事も無く、奏になされるがままだったのには驚いている。
リアの性格からどこかで面倒になると思ったのだが、リアは案外人懐っこいのかもしれないと認識を改めた。
奏はとりあえず満足したのか、今はリアの隣でその感触を思い出しながらにやにやしている。
我が妹ながら変態である。
「いくつか聞きたい事はあるけど……渉は何人いるの?」
リアが俺に対してそんな質問を投げかけてきた。
丁寧だったり急に動きが変わったり、かと思えば決闘後にフランクになったりと、リアにとっては俺の人格がころころ変わっているように思えたのだろう。
言葉遣いが変わったのは、デリックに丁寧な言葉遣いはやめた方がいいと言われたからだ。
貴族が下の人間に丁寧に接する事は、あまりよろしくない事だというのはミアからも学んだことだった。
こっちは説明しなくてもよさそうだが、決闘で突然動きが変わったのは説明しないといけないだろう。
「俺は一人しかいない、と言いたいところだが、途中から動きが変わったあれは、俺のもう一つの人格みたいなものが身体の操作をしたからだ」
「???」
俺の言葉に、リアは当然のように首をかしげる。
言っている事が良く分からないのだろう。
正直、話している俺ですら言っている事を信じがたい。
「そうだな……まあ俺の中にもう一人いると思ってくれて構わない。たまに入れ替わったりするかもしれないが、その時はすぐに分かるだろう」
『マスター……』
『!?お前まだいたのか』
突然脳に響いた
魔法は既に切れていると思っていたため、まさかまだいるのは思っていなかったのだ。
『驚かせてしまい申し訳ありません。私を生み出していただいた多重思考の魔法は、ミア様の
初めにミアにかけられた翻訳魔術は、今でも俺達に効果をもたらし続けている。
これは、一度魔法を唱えれば永久的に効果の持続するタイプの魔法であるからだ。
多重思考はそれと同じで、一度目に唱えた時点でずっと俺の思考に居続けたらしい。
『……ん?ずっと思考にいたって事は……』
俺は一つ、嫌な考えに行き当たる。
ずっと思考にいたという事は、俺の考えがだだ漏れだという事だ。
つまり……。
『えっちな事を考えるマスターも、私はとても愛おしく思っていますよ?ですからお気になさる必要はありません。どんな性癖であろうと、愛するマスターに変わりありませんから』
『ああぁぁぁぁ!そんな事聞いて冷静でいられるかよぉぉぉぉ!』
俺はあまりの羞恥に頭をテーブルに何度も打ち据える。
日々あれこれの妄想が多重思考に全てさらけ出していたのだ。
こんなの全く想定していない!
「ふ、二人目……?」
「違う!」
俺はリアに大声をあげてしまい、落ち着かなければと深呼吸する。
リアから見たら、いきなり頭を叩きつけ始めたただのキチガイだ。
ずっと思考の片隅にいるという事は、もう諦めるしかないのだ。
もう開き直ってしまうしか方法は無い。
興奮を落ち着かせた俺は、突然怒鳴ってしまった事をリアに謝罪する。
「すまない。そのもう一人とは頭の中でやり取りできるんだが、それがアホな事を言って俺を混乱させたんだ。怒鳴って本当にすまない」
「別にいい。渉が大変なのはなんとなく分かった」
リアは理解してくれたのか、笑顔でそう言ってくれる。
俺は、その笑顔が可哀想な子を見る目だとは思いたくなかった。
「じゃあ一番気になってた事を聞く。貴方達は一体何者なの?」
笑顔から一転、リアが鋭い視線を向けながら俺に問いかける。
獣人ではなく人だ、というのはリアの求める回答ではないだろう。
「何者、というと?」
「貴方達は獣人の事を嫌いもしないし、あの魔法だって見た事も体験したこともないものばかりだった。貴方達はこの街の人間の価値観からかなりずれている。貴方達は一体どこから来て、どんな生活をしていたの?」
どうやらリアは、俺達の生い立ちを聞きたいらしい。
まんま話してもいいものかと少し考えたが、リアなら問題ないか。
俺は一応店員の目を気にしつつ、小さな声でリアに俺達の事を伝えた。
この大陸ではなく日本という国から来た事。
その国では魔法が存在しない事。
その国では魔法の代わりに科学が発展しているという事。
俺の魔法は、その科学を元にイメージして創られているという事。
その事を話し終えるとリアは目を回し、疑問符が頭の上に浮かびあがって見えるほどに混乱していた。
科学もろくに発展していないこの大陸で、科学がどうこう言っても理解されるのは難しいだろう。
気持ちは分からないでもないが、正直に話しているがためにこれ以上弁明しようがない。
「ごめんなさい。渉の言っている事は信じたいけれど、突拍子もなさ過ぎて信じられない」
「まあ信じられないならそれでいい。一度で理解出来る範囲を超えていると思うから、少しずつ分かってくれれば十分だ。俺達はこれからパーティーを組むんだからな。時間はいくらでもある」
俺は料理を食べ終え、ナイフとフォークを置いた。
今すぐ全てを理解する必要はないと思っている。
これから先関わっていく中で、少しずつ互いの事を知っていけばいいのだ。
焦る必要はどこにもない。
俺がそう言うと、リアは申し訳なさそうに耳を垂らしながら表情を暗くする。
その仕草に、俺は不適当ながらも可愛いと思ってしまった。
「貴方達は私の事を信用してくれているけど、私は貴方達の事を信じきれてない。それでも、私とパーティーを組んでくれるの?」
とても不安そうに、こちらの様子を窺うようにリアは問いかけてくる。
幾度と確認しても、ずっと嫌われ続けてきたリアは不安で仕方ないのだろう。
だが、リアが言ったように、俺達はリアの事を信用している。
リアの不安を払拭するために、俺は優しく断言する。
「俺にはリアが必要なんだ。そこらへんにいる誰でもない、リアがいい」
その言葉に、リアの頬が赤く染まった。
恥ずかしくなったのか、ちょっと強く言いすぎたかもしれない。
「兄さん、それ告白になっています」
奏に指摘され、強いどころか最強の言葉を選んでいたのだと気付かされる。
そりゃ羞恥で赤くなるわ。
「だが俺はもうリアの猫耳が無いと生きていけない。だから訂正はしない」
「それを言うのなら私もです。リアは私と結婚するのですから、兄さんは引っ込んでいてください」
「喧嘩ならいくらでも売ってやろう。妹が兄にかなうと思うなよ」
「上等です。その認識、私が打ち崩してみせましょう」
「け、喧嘩はダメ」
喧嘩腰になる俺達を、リアが顔を真っ赤にしながら止めに入る。
顔を真っ赤にするリアも非常に可愛らしい。
そんなリアを見て奏は戦意を失ったようで、だらしない笑顔で「ごめんなさい」と言いながらリアを撫でまわしている。
色々とあったが、この様子なら俺達は上手くやっていけるだろう。
これから先どうなるかは分からないが、パーティーとしてはバランスも取れている。
後は、少しずつリアとの距離を詰めていくだけだ。
きっと、楽しいパーティーになる事だろう。
こうして俺達は騒ぎつつ、リアの歓迎会はお開きとなった。
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