第58話 猫耳です!猫耳です!
「じゃあリアのパーティー加入を祝して!」
「かんぱーい!」
「か、乾杯」
テンションの高い俺と奏に対し、向かいに座るリアが少しのまれながら乾杯の合図を取った。
店は当然、猫耳ウェイトレスであるルゥが働いている店だ。
しかし、ルゥは夜シフトが基本とのことで残念ながら姿は見えない。
まだ開店したばかりだったらしく、店内には俺たち以外の客はいない。
「いやー、死にかけたが無事に目的を達成できてよかった。死にかけたかいがあったもんだ」
「そうですね。私も死ぬほど心配しましたが、リアが仲間になったのはとても嬉しいです。これからよろしくお願いしますね」
「う、うん……」
リアは元から喋る性格ではないと思うが、喜ぶ俺達と違って借りてきた猫のようになっている。
それは嫌がっているというより、どうすればいいか分からないと戸惑っているように見えた。
きっと、俺達とどう接していいか分からないのだろう。
「リア、俺達は仲間になったんだ。そんなにおどおどしなくていいんだぞ」
「そうです。私達はもうお友達なんです。怖がらなくていいんですよ―?」
「お前は馬鹿にしてるだろ」
両手を振ってアピールする奏に、俺は脳天チョップをして突っ込みを入れる。
「いったい!強すぎますよ兄さん!もう少し手加減してください!」
「お前がアホみたいなことをするからだ。リアは赤ん坊じゃないんだぞ」
「分かってますよ!」
「ふふっ」
俺と奏のやり取りを見て、リアは笑みをこぼしていた。
馬鹿にされてるのに何が楽しいのか分からないが、リアにとっては面白い事だったのかもしれない。
だが笑みはこぼれたものの、リアは未だに距離があるように思える。
「リア、一つお願いがあるんだがいいか?」
「ん、何?」
距離を詰めるにはやはりスキンシップを取るのが一番だ。
多分、何の確証もないのだが、リアは俺の提案をのんでくれるはずだ。
「リアのその猫耳、撫でさせてくれないか?」
「耳を?」
リアは何を言っているか分からないというように首を傾げた。
これは決して自分が撫でてみたいから、なんていう低俗な理由ではない。
古来より人々は、手や頭などといった箇所を触ることにより仲を深めていった。
欧米では普通とされているハグがいい例だと言えるだろう。
よっぽど嫌われていない限り、人との触れ合いは仲を深めるのに効果的であるといえる。
つまり、リアとの距離を縮めるには、猫耳……もとい頭を撫でるというこの方法が最も効率的なのだ。
「ずるいです兄さん!抜け駆けは許しませんよ!リア、私にも撫でさせてください!」
「お前に先に撫でさせると占領するのが目に見えてるんだよ!お前は俺の後にしておけ!」
我先にとリアに向かっていこうとする奏を、俺は身体を抑え付けて阻止する。
こいつを先に撫でさせてしまったら、俺が撫でる時間が無くなってしまう。
俺もリアの猫耳を撫でてみたいんだから、絶対先に撫でさせるわけにはいかない!
「撫でていいから喧嘩しないで。順番は先に言ってくれた渉からで」
喧嘩する俺たちを、あたふたしながらリアが仲裁する。
なんだかリアの動揺している姿は新鮮だ。
俺の中で既にクールだというイメージがついていたため、そんなリアがわたわたしていると可愛らしく見えてくる。
「むぅ、分かりました」
リアの言葉もあり、奏は少しむくれながら抵抗を止める。
リアの明言に感謝しつつ、俺はリアの隣へ移動した。
「はい、これでいい?」
リアはコートのフードを脱いで頭をこちらに向けてきた。
獣人の耳は初めて触るため、少しドキドキしている。
「じゃあ、触らせてもらおう」
俺はゆっくりと手を伸ばし、ぴょこぴょこと動く猫耳に触れた。
触れた瞬間、逃げるように耳がぴくりと動いたが、その耳を包み込むように手のひらで触れる。
「ん……」
リアの耳はほのかに温かく、ちゃんと身体の一部として機能している事が分かる。
その事に感動しながら、俺はゆっくりとその頭を撫でまわした。
ふにふにと耳に当たる感覚は猫そのもので、触れると可愛らしくぴくぴくと動く。
撫でられるのを気持ちよさそうにしているリアを見ると、耳を触られる事は嫌な事じゃないようだ。
本当に猫耳が生えているんだと実感するとともに、俺はえも言われぬような幸福感を覚えてしまう。
「あぁ……ここは天国か」
リアの頭を撫でる俺を、奏が羨ましげに眺めている。
早く変われという意思をひしひしと感じるが、この至福の時間をすぐに終わらせることなどもったいなくて出来ない。
奏は占領すると言ったが、このままだと俺が占領し続けてしまいそうだ。
「撫でるの上手い。とっても気持ちいい」
……あ、駄目だ、理性が保ちそうにない。
「!兄さんもう終わりです!離れてください!」
「あぁ!」
俺の理性が切れそうになるのにいち早く気づいた奏が、俺とリアを大きく引き剥がした。
離れていく幸福に喪失感を覚えながら、理性が飛ぶ前に引き戻してくれて助かったと安堵する。
「いつでも撫でていい。だからそんな悲しそうな顔しないで」
しかし、俺の表情には喪失感が色濃く出てしまっていたらしく、リアからそんなフォローが入った。
自分が思っている以上に、リアを撫でる事に喜びを覚えていたらしい。
だが、リアはいつでも撫でていいとの事なので、俺も暴走しない程度に撫でさせて貰う事にしよう。
「本当に頭から猫耳が生えてるんだな」
俺はリアの猫耳の感触を思い出しながら感慨に浸る。
「なんだと思ってたの?」
「装飾品でもおかしくないなと」
「リア!私も撫でさせて貰いますよ!?」
「痛くしないで」
我慢の限界なのか奏が興奮気味にリアに迫り、リアはそんな奏に撫でる許可を出した。
奏は息をのみ、恐る恐るリアの頭に手を伸ばす。
そしてリアの頭を撫でた瞬間、奏の表情が蕩けきった。
「はぁ~♪これが猫耳なのですね~♪」
奏はリアを抱き寄せると、もはや自分のペットのようにその頭を撫でまわす。
「ん」
しかし、リアは嫌がるそぶりや抵抗を全くせず、むしろ嬉しそうですらある。
男である俺と違い、リアと奏は女同士だし、このままでも良いだろう。
初めの緊張は何処へやら、リアもすっかり気を許している様子だ。
距離を縮めるにはやはりスキンシップだなと、俺は二人を見ながら思うのだった。
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