第52話 決意

「これが私のした事。私は三つのパーティーを壊滅させた。私とパーティーを組んでも良い事は無い。諦めた方がいい」

「……なるほどなぁ」


 俺はリアの話しを聞き、ようやく謝罪の意味を理解し、確信した。


 リアは未だに過去を引きずっている。


 それに加え察しはついていたが、リアは人との関わりを未だに求めているのだ。

 もう誰とも関わらないと決めているのに、見知らぬ俺達の事を助けたりしているのがいい例だ。

 その事で自責の念にかられ、俺達に謝罪をしたのだろう。


 リアは誰かと関わることを怖がっている。

 それはつまるところ、誰かと一緒にいたいという裏返しなんだ。

 そう思っていなければ、リアの言動に説明がつかない。


「どうやら私は間違っていたようですね」

「分かってくれた?」


 俺の言葉にリアが顔をあげた。

 その顔は無表情ではあったが、無理をして無表情を作っているように思える。


「はい。負けても貴方を仲間に出来ればと思っていましたが、それは間違いだったようです。この決闘に勝ち、有無を言わさずに貴方をパーティーに加えたいと思います」


 そう言いながら俺はショルダーホルスターから銃を取り出し、銃口をリアへと向ける。


 先ほどまでは、銃など使わずに補助適正の有用性を説き、リアの優しさに漬け込みつつパーティーに引き摺り込もうと思っていた。


 しかし、今の話を聞いて気が変わった。


 上手く説得出来たとしても、俺達に何かあった時、リアは自分のせいだと決めつけてパーティーを離れてしまうだろう。

 リアがパーティーから離れそうになるたびに説得するのは骨が折れる。


 しかし、ここで言い訳の余地なくパーティーに加入させる事が出来れば、そんな時でも脅しかける事は可能になるはずだ。

 デリックのような考え方になってしまうが、今後の事を考えると勝った方が手っ取り早い。


 とまあ理由付けはしたものの、その根本はリアを独りにさせたくないと思ったのが一番だろう。


 話しを聞く限り、リアに非は無い。

 リアが責められ、独りでいる理由なんて一つもないはずなのだ。


 周りを責めたくなるが、当たり散らしても事態が好転する事は無い。

 周りが何もしてくれないのなら、俺達から歩み寄ってやればいい。

 リアは人との関わりに飢えているのだから、歩み寄らない理由はない。


 突然銃口を向けられたリアは困惑していた。


 ミアに聞いていた通り、この国の人間は自動拳銃オートマチックというものを知らないようだ。

 ショルダーホルスターは服の中に隠す事の出来る拳銃嚢けんじゅうのうであり、そんな小さく隠し持てるものがマスケット銃のような機能を持っているなんて思わないだろう。


「……私の言ってる事が分かってないみたい。私は絶対にパーティになんて入らない」

「必ず入れてみせますよ。これがあれば貴女に勝つこともできるでしょう」

「……それは何?」


 そんな問いかけに俺は安全装置セーフティーを外し、耳を押さえながら答える。


「そうですね。最強の飛び道具、といった所でしょうか」


一発必中ダイレクト・ヒット


 脳内でそんな声が響き渡ると、俺はすぐにその引き金トリガーを引いた。


 消音機サイレンサーは切ってあり、鼓膜が破れるかと錯覚するほどの発砲音が鳴り響く。


 それに対応できたのは闘技場内では俺と奏だけで、リアを含め、他の奴等はその音を直接聞いてしまう。

 その音に耳を押さえる者、その音にビビり転げ回る者とさまざまいるが、リアはその場に腹と耳を押さえて膝をついていた。


 使った銃弾はプラスチック弾であるから、死ぬ事はまずない。

 リアは何が起こったか理解しきれていないようで、表情を歪めながらこちらを睨みつけている。


「投石なのに爆発音……?何をしたの……?」


 あの様子から察するに、大きな音がしたと思ったら腹に大きな衝撃を受けたといったところか。

 この銃の脅威に気がついていないなら好都合だ。


「この戦闘が終わったら詳しく教えて差し上げます」


 俺は、リアに詰め寄りながら銃を発砲する。

 リアは発砲に対してローブを翻し、自分の身を守ろうとしたが、布切れのようなローブでは守ることなど出来ず、銃弾は無慈悲にその身に突き刺さる。


 まだ銃を撃つのは二度だというのに、もう反応してきた。

 人の反応速度を超えているっていうのに、この国の住人はどいつもこいつも化物ぞろいか。


「ぐっ!」


 模擬弾とはいえ、その威力は相当なものだ。

 俺だったら激痛で動けなくなるというのに、リアは表情を歪めるだけで反撃してきた。


「っ!」


 少し詰め寄り過ぎた俺の頬を、双剣の切っ先が掠め取っていく。


 勝負をつけようと焦り過ぎていたようだ。

 もう少し踏み込んでいたら顔面傷スカーフェイスになっていたな。


 俺は一歩後退しながら再び銃を撃ち込む。

 流石にこの距離では対応できないだろう。


 しかし、天性の才能か。

 三度目の発砲は身を翻したリアを霞めるだけに留まり、ダメージを与えるに至らない。


 その弾丸を見事にかわしたリアは、好機とばかりに俺との距離を詰めようとしてくる。


「本当に、この国の人達は規格外の人が多いですね!」


 俺は後退しつつ、銃を連射フルオートで全弾吐き出す。

 連射出来るとは思っていなかったのか、弾のいくつかがリアに被弾した。


 しかし、リアの動きは止まらず、双剣の間合いに持ちこまれてしまう。


「それを言うならそっち。貴方は今までの人と違いすぎる」


 リアは苦悶の表情を浮かべ、踏み込みながら両手の双剣を振るう。

 絶対必中の間合いであり、避ける事は不可能である。


『瞬間跳躍』


 多重思考が危険と判断し、魔法を唱えた。

 そして一瞬、転移先の光景が目に浮かび俺はその魔法の行使に許可を出す。


 双剣が身を斬り裂く刹那、俺の姿はそこから消え去り、その刃は無情にも空を斬った。


 転移先はリアのはるか後方であり、俺はその隙に弾倉マガジン装填リロードする。


「あれでもダメ……瞬間跳躍は厄介」


 リアがこちらに向き直り、双剣を構える。


 瞬間跳躍があるとはいえ、リアの身体能力と双剣は恐ろしい。

 さらに攻撃魔法もある事だし、最後まで気は抜けないだろう。


 とはいっても、攻撃魔法はもう使ってこないと思われる。

 何せ、麻痺したら瞬間跳躍で逃げ続けるだけだからだ。

 リアもその事は分かっているだろう。


「そう簡単には勝たせてもらえなさそうですね」


 そんな言葉と共に、俺は再び引き金を引いた。

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