第51話 リアの過去2

 そのパーティーを組んでしばらく経った頃、ある一人のメンバーが独断専行し、近場にあった鉱山に姿を消した。


 鉱山で採掘できる鉱石は換金率が高く、稼ぎになると踏んでの事だろう。

 しかし、その鉱山は魔物の巣窟となっており、リスクとリターンが釣り合わず、誰も近寄らないような鉱山だった。


 鉱山内は非常に危険で、他のメンバーは連れて行けるような強さではない。


 私はそのメンバーを助けるため、他のメンバーに対し鉱山内に絶対入らないよう警告し、一人で鉱山へと足を踏み込んだ。


 生きている可能性は低いと考えながら、私は一縷の希望に縋ってそのメンバーの捜索をした。


 しかし、その甲斐むなしく、私は独断専行したメンバーの死体を発見してしまう。


 私はまた守る事も出来ずに、仲間を見殺しにしてしまった。


 その事実に私は自己嫌悪に陥りそうになったが、この事を他のメンバーに伝えなければと思い留まり、私は鉱山を出た。


 しかし、そこに広がっていたのは、見るも無残な死体の集まりだった。


 地面は踏み荒らされた形跡があり、魔物が集団で行動する魔物行進(デモンマーチ)が起きたのだと考えが及ぶ。

 周りに散らばる武器の欠片や死体の纏う装備から、全員が死んでしまっている事が分かってしまう。


 その光景に、私の頭の中は真っ白になっていた。


 私は何故一人で行動してしまったのだろうか。


 鉱山は危険とはいえ、共に鉱山に連れていくべきだった。


 私がいれば、皆を守れたはずなのに……。




 こうして、私は二度目の喪失を味わった。


 その頃から、私は倦厭されるようになっていったのだと思う。


 一度目は事故でも、二度目となれば疑われ、周りから懐疑の目を向けられる。

 私をフォローしてくれる人は誰もおらず、腫れ物に触れるかのように扱われる事が増えた。

 獣人という事もあり、嫌がらせも増え、私はどんどん孤立していった。


 しかし、私はそれでいいと思うようになっていた。


 一人でいれば、誰かを傷つける事はない。

 一人でいれば、誰かを巻き込む事はない。

 一人でいれば、誰かを失う様な事はない。


 スラムにいた頃と何も変わらない、自分の事だけを考えた、一人だけの生活。

 パーティーはもう組まない、そう心に誓った。



 しかし、一度浸った幸福は、私の中でずっと燻ぶり続けていた。


 あの頃のように、皆と楽しくやりたい。


 私も、周りと同じように、些細なことで言いあったり、くだらないことで喧嘩したりしたかった。

 ちょっとしたことで一喜一憂して、ちょっとした喜びや、ちょっとした苦しみを共に分かち合いたかった。


 そんな感情が消える事無く燻ぶり続けた結果、私はパーティーを組まないという誓いを破る事になる。




 三度目のパーティーは酷いものだった。


 獣人という事で私の扱いは酷く、囮や特攻など危険な事をやらされた。

 しかし、人との関わりに飢えていた私は、どんな危険な事でも喜んでやった。


 何でもやれば、人との繋がりを持つ事が出来る。

 どれだけ手酷く扱われようとも、誰かと共に行動できる、たったそれだけの事で私は幸せを感じる事が出来た。


 だが、それも長くは続かない。


 ある時、そのパーティーの実力に見合わない、高難易度に分類される討伐任務を受ける事になった。

 私は反対したものの、パーティー内で発言力の低い私の意見は通らず、その任務は受諾された。


 一度目の苦い経験が蘇ったが、今度こそ守りきってみせると、私は密かに決意する。


 そして、私達は魔物と対峙した。


 私は当然のように、囮として行くよう命令される。

 皆を守るためには、前線に行かなければいけない為、私は喜んでその役割を引き受けた。


 一匹の魔物が現れ戦闘に入り、私は役割をこなしていたが、高難易度だけあって、拮抗か少し優勢ぐらいで進行していた。

 この調子なら何とかなると思っていたところ、不幸な事にイレギュラーな事態が発生してしまう。


 後ろから悲鳴が上がり、そちらに顔を向けてみると、パーティーの一人が食い殺される瞬間だった。


 その魔物にはつがいがいたらしく、私達のパーティーは、その魔物達に挟まれる形となってしまったのだ。


 一匹で拮抗状態であったのに、二匹に増えて勝機が保てるわけがない。

 一人が死んだのを皮切りに、パーティーが総崩れになってしまう。


 落ち着いて撤退するよう叫んでも、パニックを起こしているメンバーには効果がない。

 助けようにも私の身体は一つしかなく、二匹の魔物を同時に相手にする事は出来ない。


 私は、一匹の魔物を抑えるのに精いっぱいで、仲間が死んでいくのをただ見ているしかなかった。




 この出来事で、私はギルド内で完全に孤立した。


 三度目ともなれば、疑いは確信へと変わってしまう。

 たとえそれが事実でなくとも、噂はそれを真実へと変えてしまう。


 私が、パーティーメンバーを殺した。

 私と組むと、パーティーが壊滅する。

 私は、災厄を運ぶ黒猫である―――




 この時、私は理解した。

 私は、誰かと共に過ごす事は出来ないのだと。

 生まれた時からずっと一人で、これからもずっと一人で生きていく事になるのだと。


 私と関わる事で、離れていく事になる。

 私と関わる事で、不幸になる人がいる。

 私と関わる事で、命を落とす人がいる。


 それなら、私は人と関わらない方がいい。

 それなら、私はずっと一人で良い。

 そうする事でしか、私は被害を抑えるすべを知らないから。




 いつからか私は、災厄の黒猫ブラック・ディザスターと呼ばれるようになった。


 この二つ名は、私にとって都合がよかった。


 これで、皆を傷つけるような事はなくなる。

 自分勝手な都合で、皆を失う事はなくなる。


 案の定、私に近づく人はいなくなった。

 私を知る者は私を避け、二つ名を知る者は怯えて近寄らない。


 これでいい。


 これで、私は一人でいられる。


 これで、皆が死ななくて済む。


 私が孤独であれば、傷つく人は少なくなるのだから。


 故に、私は孤独でいる。



 今も、そしてこれからもずっと―――

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