第50話 リアの過去

 私はずっと孤独(ひとり)だった。


 物心ついた頃には既にスラムで生活しており、私は両親というものを知らない。

 スラムにいた頃は獣人だと言うだけで差別され、底辺の中でもさらに貶められながら、私は生き残るために必死になっていた。


 盗み、たかり、強請り、殺し、そんなものが跋扈するスラムで、子供が生き残る事は難しい。


 しかし、街を出るにはこの街にたった一つしかない城門を通過せねばならず、通行証のない者はその城門を通る事が出来なかった。


 故に私は街を出る事も出来ず、スラムで生きるしかなかった。


 小さかった私は常に周りを観察し、どうしたら生き残る事が出来るのかを必死に模索していた。

 強いものを観察し、虐げられるものを観察し、一体私に何が必要で、何が必要ないのか、それを一つ一つ探り出していく。


 そして、私は一つの真理に気が付いた。


 スラムにおいて必要なのは力、ただ一つだった。


 強いものは何かしらの力を持っている。

 お金、地位、腕力、それらを持つものは、スラムでは確実に搾取する側に回っていた。


 生き残るためには、何かしらの力がいる。


 それに気付いた私は、とにかく身体を鍛え上げた。


 地位もお金も、私に無い事は分かっていた。

 私は獣人で、獣人の地位は何処に行っても低い。

 その日のご飯にも事書くありさまの私に、お金なんてある訳がない。


 必然的に、私は体を鍛えるしかなかった。


 泥水を啜り、空腹に耐え、時に殺されかけながら、私は生き残るために必死に体を鍛え続けた。


 何故このような思いをしているのか、疑問に思った事もある。

 時に自分の運命を呪った事もある。

 しかし、そのように考えるのも一瞬の事で、私は日々の生活に忙殺された。




 私もある程度強くなり、身の安全を保証できるようになってきた頃、私は冒険者ギルドというものがある事を知った。

 何でも、そこでは任務というものを請け負う事ができ、その任務に成功すると報酬が受け取れるという。


 冒険者というものは、登録料を支払いさえすれば、誰でも登録できるらしい。

 その登録料は銀貨十五枚と、スラム暮らしの私からしたら物凄い大金だった。


 しかし、登録さえしたらそれ以上に稼げると私は踏み、死に物狂いで登録料をかき集めた。


 そうして、冒険者ギルドを知ってから二年。

 私はようやく冒険者となる事が出来た。


 冒険者になってから、私の生活は一変する。

 冒険者になったことで、外に行かなければならない任務がある際、街の外へと繰り出す事が許された。


 街の外には魔物が多く生息しており、街の外に出る必要のある任務は、魔物の討伐任務が大半を占めている。

 身体を鍛えていた私はそれらの討伐任務を多く受け、スラムにいた頃とは比べ物にならないほどの稼ぎを手にする事が出来た。


 みすぼらしかった服も一般人と変わりない物を着られるようになり、討伐に必要な装備も、日を追うごとにより良い物へと変わっていった。


 今思うと、この時の私は人生の中で一番幸福だったのかもしれない。


 日々の食料に困る事も無くなり、差別は相変わらずあったものの、スラム時代の比ではなく、ギルド内でも上手く立ち回れていたと思う。

 ギルドメンバーに同性の友人と呼べるような存在もでき、やる事全てが輝いているようにも感じる、幸せな時間だった。




 しかし、私の幸せはすぐに崩れ去っていった。


 ギルドメンバーの友人に誘われ、私はそのパーティーに加わった。

 私以外は一段階低いランクであったが、私は初めてパーティーに誘われたという事もあって、浮かれていたのだと思う。


 そのパーティーが受ける任務というのが、私以外のメンバーにしては少し難易度の高いものだった。

 ただ、達成できないものではなかったため、私は何も言わずにその任務を受けることを承諾した。


 しかしその任務中、不幸な事に非常に強力な魔物が出現してしまう。

 私達の実力では太刀打ちする事も出来ず、すぐに撤退を選択したのだが、出会ってしまった時点で時すでに遅く、私が時間稼ぎする隙もなく、メンバー全員の命が奪われてしまった。


 仲間の命が散っていく中、私は思った。


 私があの任務を承諾しなければ、彼女達を失う事はなかったのかもしれない。

 私がもっと強ければ、私は彼女らを助ける事が出来たかもしれない。


 仲間を失った私は、一人撤退しながら涙を流した。


 その後、私は良心の呵責に苛まれ続け、数カ月ほど冒険者家業を休業してしまった。


 しかし、生活するためには稼がなくてはいけない。


 完全に傷が癒えぬまま、私は冒険者家業へと戻った。


 私が冒険者ギルドに戻った時、他の冒険者は私の事を同情的に見てくれていた。

 厳しい視線もなく、よくある不幸な事故だと皆言ってくれた。

 私の事を心配して、パーティーに誘ってくれる人もいた。


 あのような事もあって、私はパーティーを組む事に少し怖気づいており、多くの誘いを断っていた。


 しかし、一人では辛いだろうと迫られ、私は半ば強引にあるパーティーに組み込まれた。




 だが、再び私の元に災いが降りかかる。

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