第49話 あの時の謝罪は
「
俺がそう唱えると、一瞬の浮遊感と共に見ている景色が変わり、リアが双剣を振るう姿を確認できる位置に移動した。
瞬間跳躍はその名の通り、自分の思った場所に移動する魔法だ。
現段階では自分の見える範囲という制限は付くが、恐らく確認していないだけで、自分の行った事のある個所には移動できるのだろう。
だが、この魔法はこの戦いの為に習得した魔法である為、緊急回避に使用さえできれば、それで十分だった。
『状況確認。コレヨリマスターノ補助ニマワリマス』
ただ、この魔法も座標計算が必要なのか、多重思考と組み合わせないと脳がショートしてしまう。
そう言った処理はすべて任せられる多重思考さまさまだ。
俺の首元で寸止めしたつもりなのだろう、双剣が空中で一瞬静止するが、俺が居なくなったと気付いた瞬間、素早い動作で闘技場内を観察し始める。
そして後方で膝をつく俺を視認すると、目を見開いて驚愕していた。
突然の瞬間移動に、観客もざわついている。
動けないはずの相手が自分の後ろに回り込んでいるのだ。
普通はそんなこと考えられないだろう。
『なあ、麻痺から回復する事は出来ないか?神経操って筋肉の痙攣を止めるとか』
俺は多重思考に、麻痺がどうにかならないかを問いかける。
このままだと、体が動けるようになるまで何もする事が出来ない。
『デキマセン。麻痺回復マデ、残リ2分21秒デス』
『それまではどうにかしろってことか。瞬間跳躍で逃げるしかないみたいだな』
『ワタシガサポート致シマス』
『頼んだぞ』
俺は多重思考とそんなやり取りをして、この状況をどう切り抜けるのかを固めた。
瞬間跳躍を使えば逃げる事自体は容易いだろう。
麻痺がとけるまで、リアの攻撃を避け切ってやろう。
「……本当に、貴方は一体何なの?私に固執するのもそうだけど、見た事もない魔法をぽんぽん使ってくる。貴族なのに差別しないし、獣人である私にも嫌な顔一つせず接してくる。貴方の本当の目的は何?」
しかし、攻撃を仕掛けてくると思ったリアは、警戒を強めながら俺にそう問いかけてくる。
何かされるのではと警戒しているのだろうか。
逃げ回らずに済むのは、こっちとしてはありがたい事だ。
「そうですね。妹を助けてくれた事、貴方をパーティーに加えたかった事、貴方が獣人である事。色々と理由はあるかもしれませんが、私の一番の目的は、別れ際に謝罪された事について問い正したいのです」
「……」
俺の言葉にリアは反応せず、ただじっとこちらを見つめていた。
その表情からは、リアが何を考えているのかを窺い知る事は出来ない。
「私の妹は貴方に救われました。迷惑をかけて申し訳ありませんと、こちらが謝罪をするのは道理かもしれませんが、貴方から謝罪を受ける意味が分からないのです」
俺もリアをじっと見つめる。
リアの一挙手一投足を見逃さない為に。
「獣人だから?自分が嫌われているから?それなら納得できたのですが、あの時の貴方は悲しんでいるように見えました。何か罪悪感に押し潰されているような、そんな表情です。なぜ、あのような事を最後に言ったのですか?そして、なぜあのような表情をしたのですか?」
獣人で嫌われているのが謝罪の理由ならば、初めから助けるなんて選択肢は無いだろう。
それでも助けたというのなら、嫌われる覚悟は決まっているはずだから、あんな表情は絶対にしない。
あんな表情をしたという事は、リアの中で謝らなければいけない何かがあったのだ。
後ろめたい何かが。
「……私は何も知らない貴方達に、自分のした事を隠して接していた。それを謝っただけ」
リアはその発言と共に、俺から目を逸らしていた。
恐らくその発言は、嘘ではないが本心でもないのだろう。
リアは、まだ何かを隠している。
「では、貴方のした事を教えてください。教えてくれれば、貴方に固執する事が無くなるかもしれません」
俺はリアがどんな人間なのか伝え聞いただけで、詳しく知っているわけではない。
リア自身から話を聞けば、何かを掴めるかもしれない。
「…………」
リアは何も言わず、その顔に影を落とした。
話すべきかを葛藤しているのか、過去を思い出しているのかは分からない。
フードに隠れたその表情は、俺には窺い知る事は出来なかった。
そして、麻痺がとけるほど時間が経った時、ようやくリアは口を開く。
「分かった。なら聞かせてあげる。私が何をしてきたのかを」
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