第45話 宣戦布告
翌日の朝。
日が昇って間もない時間に、俺と奏は外に出る準備が整ったのを確認する。
二人共動きやすいジャージ姿で、奏はバスケットを持っている。
バスケットの中には軽食が入っており、これからピクニックに行くかのような装いだ。
しかし、これから向かうのは日向ぼっこが出来る草原などではなく、さまざまな猛者が集う冒険者ギルドだ。
「結構時間がかかったな」
俺はそんな声を漏らすと、そのつぶやきを奏に拾われる。
「そうですか?力をつけるには時間をかけるしかありませんし、この短期間で勝ち目が見えるのは、むしろ早いぐらいだと思います」
「そうかもしれないが、遅れれば遅れるほど誠意は無くなっていくじゃないか。それを考えると、むしろ遅いぐらいだと思うぞ」
「間違いありません。ですが、こんな装備で大丈夫なのですか?装備なんて言えるほどの物じゃないですけど」
奏からそんな疑問の声が上がるが、その点に関して俺は楽観視している。
「動きやすければそれでいいだろう。殺し合いをするわけでもないし」
恐らく、彼女は俺達を殺す事は出来ない。
考えられるのは、動けなくなるほどではあるが死なない程度の怪我を負わされるか、一瞬で気絶させられて終わりかの二択だと思われる。
伝え聞いた彼女の性格を鑑みるに、死ぬ事はまずないと確信していた。
ミアとの訓練で多少は俺も打たれ強くなっているから、一瞬でケリをつけられさえしなければ、どうにかなるだろう。
「幾度となくお止めしましたが、考えを変えてはくださらないのですね」
見送りにきているミアが、もう諦めたとでも言うように嘆息する。
ミアには、この件に関してずっと反対され続けていた。
貴族としての品が下がるだのと言われたが、貴族なんていう肩書にこだわっていない俺達からしたら、そんなもの別に大きな問題ではない。
ミアとしては心配事が増えるかもしれないが、諦めてもらうしかないのだ。
「俺達に出来る最大の恩返しだからな。それに、この件がなかったとしても、どのみち同じ事になってたと思うぞ?」
「私もそのように思います」
ミアも俺達の事が分かってきたようで、よほどの事がない限り、強く止める事がなくなった。
少し張り合いが無くなったなと思いつつ、俺はミアに別れを告げる。
「じゃあ行ってくる。屋敷は任せたぞ」
「行ってきます。無理はさせないようにしますので安心してください」
「奏様、よろしくお願いします。それではご武運を」
ミアの見送りを背に、俺と奏は冒険者ギルドへと向かった。
相も変わらず貴族達の視線は痛いものの、その視線をスルーして、俺と奏は第二区画へと足を運ぶ。
貴族区画と打って変わり、活気に溢れた大通りを眺めながら歩みを進め、俺達は冒険者ギルドへと辿り着いた。
ギルドマスターのデリックによると、目的の人物はこの時間帯のギルドにいる事が多いという。
俺と奏は彼女がいることを願い、ギルドの扉を開いた。
俺達の事は忘れ去られているのか、チラッと見られるだけで、前のように視線が集中する事は無い。
任務は朝に更新される事が多いらしい。
それもあってかギルド内は賑わっており、特に
彼女もそれが目当てなのだろうが、掲示板の前にその姿は見られない。
掲示板の前に行くでもなく、入ってきて何かを探す俺達に不審がる者もいるが、気にせず目的の人物が居ないかを確認する。
「兄さん、あそこ」
奏に袖を引かれ、指差す先を見てみると、ローブを目深にかぶった人物が目に入る。
周囲の席に座る者はおらず、目深にかぶるローブも相まって、その人物だけが浮いているように見える。
俺は頷き、奏と共に、四人掛けの席に一人で座るその人物へと近づいていく。
その人物の前には木製のジョッキが置かれており、中に入っているのは牛乳のようだ。
「相席、よろしいですか?」
俺がその人物に問いかけると、周りの空気が少し変わる。
疑問、恐怖、驚愕、さまざまな感情が入り乱れているが、皆、何が起こるかを観察しているのだろう。
表情は見えないが、その人物は困惑しており、少し固まった後、俺の問いに答えた。
「他に席はある。相席じゃなくてもいいはず」
「言い直しましょう。お話があるので、相席させていただきますね。失礼します」
俺達は返答も待たずに、彼女の向かいの席へと腰を下ろす。
「私から話す事は何もない」
彼女はそう言って席を立とうとするが、俺は牽制するように言葉を発する。
「お話を聞いていただけない場合、貴方のギルド登録を抹消させていただく事になります。それでもよろしいですか?」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の動きがピタリと止まった。
表情こそ見えないものの、鋭い視線が俺に突き刺さるのが分かる。
脅し的な方法だが、こうでもしないと彼女に話を聞いて貰えないデリックに言われ、今回はこの方法を取らせて貰った。
彼女が冒険者として生計を立てているのはデリックから聞いている。
それを根底から覆されるようなことを言われてしまっては、彼女も話しを聞かざるをえないだろう。
殺気を孕んだ視線に動揺しそうになるものの、俺はその動揺を隠すように、笑顔でその視線に対抗する。
そんな態度が功を奏したのか、彼女は再び席に着く。
「目的は」
短く一言、圧倒的な威圧感を醸しながら、彼女は俺に対し問いかけてくる。
ここで言葉選びを間違えれば、先ほどのように、彼女は逃げていってしまうだろう。
彼女が話を聞いてくれるような発言を、一言で伝えなければならない。
彼女の重圧に負ける訳にはいかない俺は、短く息を吐き、覚悟を決めて言葉を発す。
「リアさん。私は貴方に、決闘を申し込みます」
こうして、俺達と彼女……リアは、二週間ぶりに再会したのだった。
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